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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
想いの所在

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3

「辛かろう。君達は今、光の魔法を極限にあげている。ここじゃなければ私も施設も壊滅していただろう。それに、彼も苦戦を強いられているが…圧勝されていただろうね」


オールの方を見れば、まだ研究者との戦いの最中だ。


「あぁ。研究の成果が発揮しているよ。ありがとう。いつかは試験をしたいと思っていたのだ」

「ふざけないで…人を、馬鹿にするのも…大概に…して」

「君達のおかげで、貴重なデータも取れている。礼を言うのは当然さ」


聖女は片膝を付いた。

自分の身体を支える体力さえも、限界に近い。

研究者が取り出し口へ運ぶ回復薬が、聖女の目に入った。


喉が自然に鳴る。


彼女は頭を振った。

アレは自分の父親と母親の細胞から作られた忌むべき物だ。


「一口飲めば、立ち上がり。もう一口飲めば魔力も戻る。体の傷も死んでさえいなければ治る」


オンブル伯爵が聖女の思いを見越し、耳元で囁いた。

右手のセピアはぐったりとしていた。


「どうする。これから。君達はここの全てを破壊できるか?」


ぐったりとしたセピアが、聖女の横に放り出された。


「セピア」


聖女のセピアへ伸ばした手が、オンブル伯爵の靴の下と地面に挟まれる。


「で?あの黒い炎を出したのは誰だ?」


聖女は顔を顰めた。

踏まれている掌が、ギリギリと地面に擦り付けられ、靴底で手の甲に血が滲む。


「あの炎。火の魔法使いじゃないだろう?」

「さぁ…ね」

「邪神だ。彼女から消えた邪神。…いるのだろう?どっちかに。答えろ。そうすれば回復薬をやろう」


オンブル伯爵は金色の液体が入った小瓶を、聖女の目の前で振った。

ちゃぷちゃぷと、金色が揺らめく。


「…貴方は…邪神を手に入れて、何がしたいの?」

「それはもちろん、我が物とした暁には、王位に就くさ。力こそ全てだからな」

「その後は?」

「アロガンへ向かう。そしてアロガンとプリシカ、両国を…支配する。そうすれば…」

「世界の全てが手に入るって?」


ふんっと聖女が鼻で笑った。


「馬鹿ね」


聖女は悲しそうに笑った。


「貴方も…私も」


聖女はどこまで行っても、頭部だけだったとしても、母親の本当の頭部を攻撃できなかった。

目の前に力なく倒れるセピアも、兵士に短剣を突き立てられたままのアスールも守れなかった。


『側に居たい』


「力が欲しいなんて…セピアが欲しいだなんて」


『愛してる』


聖女の身に着けた黒い布が、風もないのにひらひらと動いた。


「そうだ。私が王位に就いた日には、セピア嬢には我が妃になってもらう。奴隷との子供ではない。ノワールの純血同士の子供を儲ける為に」


オンブル伯爵の言葉にピクンと動く。


「何ですって?」

「その為にも若返りは必要だろう?なぁ、セピア嬢」


怪訝な顔を向ける聖女を見ず、自分が床へ転がしたセピアへ手を伸ばし、顔にかかった黒髪を掬う。


「先程とは違う泣き顔と…」


オンブル伯爵の指先は瞼をなぞり、頬を辿る。


「今度は私の腕の中でその寝顔を見せるのだ」


首筋から鎖骨へと指を進ませた瞬間、オンブル伯爵は黒い炎に巻かれた。

その周りには同じく、大量の血が激流の様に取り巻いている。


「「「セピアに触れるな」」」


灰色の顔をしたアスールが、両脇の兵士を血祭りに上げ、その血と自らの血を混ぜ彼を攻撃していた。

そして、シャインの元から移動したオールが、オンブル伯爵の胸倉を掴み、剣を喉元へ突きつける。


「形勢逆転ね」


動きを止めたオンブル伯爵に、ゆっくりと聖女は向き直った。

腕にはセピアを抱きしめている。


「何を馬鹿な…」


アスールの操る血が、粘度を高め足枷となる。

オールは刃を向けながら少しずつ後退し、セピアと聖女の隣に着いた。


「あ…ア…スールさん…を…」


薄く目を開けたセピアの言葉に頷くと、オールはアスールの元へ行った。


「立てるか?」


アスールは頷いたが、立つだけで精いっぱいなのは見て分かった。

オールは彼に肩を貸し、聖女へ頷いた。


「貴方を許す気はないけれど」


聖女は部屋の中を見回した。

ガラスに囚われた父と母を、もう一度目に焼き付けた。

悔しさと悲しさ、怒りを胸に燃やす。


「逃がすと思うか?」


オンブル伯爵を燃やす黒い炎は、彼の皮膚をじわじわと焼き、肉に達する。


「何だ!この炎は!…邪神…邪神の炎には…」


治る物だと高を括っていたオンブル伯爵は、自分の傷が癒えていない事に気が付いた。

すっと、聖女はセピアをオールに預け、オンブル伯爵に近付いた。


「そうよ。私の炎…邪神を持っているのは、私」


彼の耳元でハッキリと言う。


「消耗した振りをしただけ…ありがとう、セピアを返してくれて」


聖女は指先に黒い炎を点し、オンブル伯爵の目に触れた。


「ぎややややあああああああ」


蠢きのたうち回るオンブル伯爵を背に、聖女はオールからセピアを受け取る。

そして、シュルっとした音と共に、四人は姿を消した。

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