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そして、施設をここに作ったのは、この二人を隠す為では無かった。
上の階に兵達の慰安所が有るのも、理由があった。
光属性の複製体とは言え人間だ。
意識も多少ある。
苦痛を感じ動く眉間の皺が、セピアの目にも分かった。
逃げようと思えば、彼の力であれば逃げられる。
しかし、上階から降り注ぐ暴力による負の感情。
それが彼の力を封じていた。
「さぁ、研究施設の案内はここまでだ。君をここに連れて来た本題に入ろう」
オンブル伯爵はセピアに向き合うと、ピタッと動きを止めた。
「君はここに来て何か感じないかね?」
「怒りを感じるわ。貴方に」
睨みつけるセピアに、オンブル伯爵は両手を呆れたように挙げた。
「そんな事じゃない。体内や…邪神の口付けの跡に。だ」
力の開放がしやすくなっている事を、セピアは感じていたが、それはこの国に入ってから起こっている事で、別段これと言って『ここに来たから何か変わった』と言う感覚はない。
「別に…何も」
「本当に?」
「えぇ」
「…おかしいな。邪神は他人の魔法を喰うと聞いたが…君はアスールの魔法を使っていたな、あれは何かきっかけが有って吸収したのか?ただ側に居たからか?いつから他人の魔法が使える?」
オンブル伯爵に答える気はない。とセピアは口を閉ざした。
「アスール以外の魔法も使えるのか?封印時は喰えなかったのか…?ここに来るまでにアスールの魔法を喰ったのか?」
矢継ぎ早にオンブル伯爵が問うが、セピアは何も言わなかった。
「答えろ…それとも…」
オンブル伯爵が下卑た笑みを浮かべた。
「あれか。アスールと肉体関係を持ったのか」
セピアの顔に熱が集まった。
(そんっ!そんな!訳が無いでしょう!!)
怒りと共に叫びたくなる。
しかし、あまりの驚きとコトに、言葉が出なかった。
「処女性を重視する国だと考えていたのだが…プリシカも軽いのだな」
「違うわ!決して…彼とは!」
「まあいい。話したくないなら話したくなるようにするだけだ」
オンブル伯爵が空中に円を描く。
さっきと同じ黒い筒が浮かび、紙の様な形状になる。
彼が文字を這わせると、魔法陣が浮かび上がり消えた。
「人を…呼んだの?」
「あぁ。…君も知っての通り、聖人達は血の召喚魔法を使うね。だが、私は血を使わずとも使えるのだ。それも研究の成果の一つだよ」
血を使って人を呼びつけるなど、馬鹿らしい。とオンブル伯爵は言った。
何故、自分を傷付けてまで道具を呼ぶのだ。と。
「この上ない実用性の無さだ」
「…召喚魔法に代償が必要なのは、安易に使わせない為よ…生活には困らないわ。それに…プリシカ王国にも魔法道具は有って、誰も不便なんかしていない」
「それで、戦争に勝てるかい?」
「何ですって?」
「庶民の生活が不便でない。それがどうした。ただそれだけで、有事の際には使えぬ血の魔法をそのまま使う古臭い縛り。他国に攻め入る彼の国は、自国が戦場にならないと分からないのか?いや、自国ではないからこそ、兵士を呼び戻すのに重要な物だとは思わないのかね?」
負傷者を早急に自国へ送り返す。
その事がどれ程重要な事か、セピアは分からない訳では無い。
軍事会議でもそれは議題に出ている筈だ。
「人間を物の様に…消耗品に思っているのは、他でもない君の国では無いかね?」
「それは…」
「この国の様に『回復薬』を研究する訳でもない」
オンブル伯爵は、聖女シャインの頭部を指さす。
「頭部だけで何百…何万と傷を治し、命を繋げたぞ?さっき見ただろう?奴隷の女が調合した物を一口飲めば回復しただろう?アスールもそうだ。…体が有ればそれ以上に救われる者が増えるだろう。だが、湿気た暗い土の中に今も保管するだけだ」
「戦争の為に…研究の為の犠牲なんて、出せないわ」
「違うね。もう戦争をしているのだよセピア嬢。君の国はアロガンに攻め入った。そして戦死者を次々に出している。ただの平民や移住者を王国の為にと搔き立て、死へ送り出している」
セピアは唇を噛んだ。
「戦争の為の犠牲者。大いに結構だ。だが、それは人死にの無駄遣いではない。君の国とは違う」




