3
シャイン・ソワレ。
シェリラ・ソワレの母親であり、先代の聖女。
聖女シェリラが生まれた時、亡くなった彼女の遺体は教会が埋葬したはずだった。
それが、今ここにガラスケースに入れられ、管に繋がれ、搾取され続けている。
(あぁ…!聖女様!!)
この部屋に並べられた男性も、シャインの頭も。
(聖女…シェリラ様が…見ればどれだけ傷付くか…!)
「幸運だった。見慣れない男が写真の技術を知りたいとアロガンに来ていると聞いてみれば…輝く様な金髪だ。あの頃、まだ両国は戦争をしていなかった。魔法を知らぬアロガンがこの男にどのような価値があるか分かるまい。私は部下に捕らえる様に指示を出した。一緒に居た女は逃がしたが、コイツは…見ての通り、我が国でノワールとアロガン両国の役に立ってくれている」
両国の間に争いが無かった頃、絵ではない生きたままを写し取る写真の話を聞いた彼。
愛している女性を写真に収め、持ち歩きたかったのだろう新しい物好きな彼は、遠い異国へ新婚旅行に旅立ったあの期間に、話を辿って国を移動し、アロガンへ行きついた。
そして、目立つ容姿の二人組に目を付けた者が居た。
ウルネスの商人が、最初に女を狙う。
しかし、抵抗され、それをノワールの貴族に話した。
ノワールの貴族は、その美しさや珍しさを吹き込まれ、女性を自分の物にしたくなる。
金を積み、女を探す。
だが、金髪の男は強かった。
どうしても手に入れたい貴族は、オンブル伯爵の集まりでその話を持ち出した。
『魔法を使う男だ。プリシカ王国の者に違いない』
『銀髪の美しい女と一緒にアロガンに』
『出国される前に何としても捕まえたい』
そう話す貴族に、その頃子爵だったオンブルは声をかけ詳しく聞いた。
男は自分よりも上位であるオンブルが興味を示すと、更に金を積んだ。
王からの信頼を勝ち取り、勢力を伸ばしていたオンブル子爵。
いつ陞爵し伯爵になろうとも、おかしくない男だった。
そんな彼に取り入る為に、金と人員を増やし、総力を挙げて探し捕らえた。
聖女シャインは命辛々逃げ、辛うじてアロガンから出国しプリシカ王国に帰国した。
その時、奇跡的にシェリラを胎に宿していた。
「あの時、聖女も捕まえられれば更に完璧だっただろう」
聖女本体と、シェリラも手に入ったはずだった。
彼女を守る魔法使いが居なければ。
出国し、海上に出た彼女らを簡単に諦める訳にはいかないオンブルは、ノワールの魔法使いを従え聖女を捕獲するべく、攻撃を仕掛けた。
しかし、海上とは水の上。
プリシカ王国の水属性の魔法使いに適う訳がなく、目の前で逃がしてしまった。
そして、一年後。
彼女は聖女シェリラを産むと、息を引き取った。
オンブルに捕まった彼は、望んだ写真を入れたロケットにメッセージを入れる前に死んだ。
それを哀れむ気持ちは、オンブルには微塵もない。
ただ、淡々と今まで攫って来た魔法使い達と同じく、ただの実験体として扱った。
「最初は難航したよ。コイツの属性は我々の知らない物だから。しかし、我らの逆…コイツは光だと分かると、何もかもが上手く行き始めた。清浄な光属性は…他属性を中和する。多くの魔法がノワールの者でも扱えるようになった」
戦力は上がり、周辺国を実質支配下に置く様になる。
しかし、時同じくしてアロガンにプリシカ王国が侵攻し始めた。
聖女の話を兄のアーテルから聞いたオンブルは、邪神を宿したセピアを探すついでに、シャインの遺体を持ち替える様、指示を出し、教皇の元に居たアーテルが墓を掘り起こした。
防腐処理されたシャインの遺体は、時を止めたように綺麗だったが、全てを持って来るには遠すぎた為、頭だけを切り落し、色々な貿易港を経てノワールに運び込まれた。
「聖女は素晴らしい。我が国の兵は生き延び、兵士達の慰み者を使い捨てにせずに済む。アロガンに高額で売り付けも出来る…ウルネスでも扱わない最高級の回復薬だ」
人を人とも思わない発言をするオンブル伯爵を、セピアは憎く思う。
二人の子供であるシェリラは、両親の形見を受け取る事も出来ず、この話も知らない。
聖女である母親と、王弟である父親。
彼女は、逃亡した先の隣国で自殺した複製体の死体を以て、父親が自殺したのだと知らされたのだった。




