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さも素晴らしい事の様に、誇らしげなオンブル伯爵を、セピアは恐ろしく思った。
どんな怪我や状態からも生還する。
それだけを聞けば、素晴らしい事だとは思った。
けれど、今のこの国の状況はどう見ても素晴らしい事ではない。
「こんな…こんな拷問を繰り返して…それが、成果だと…どうして言えるの…」
セピアは声と勇気を振り絞り、オンブル伯爵へ抗議する。
愚かな事でしかない。と、彼女は首を横に振るが、オンブル伯爵は表情を変えない。
「この素晴らしさが分からない。…か…」
それも仕方ない事だ。と彼は笑った。
心の底から、セピアとオンブル伯爵は『合わない』
セピアはどうしても、この国を受け入れられないと思う。
しかし、一方で目の前の愚行に動揺していない自分も感じていた。
(これが…邪神の影響…?それとも…)
心は痛む。
涙が出る程悔しく、悲しく、恐ろしい。
だが、その一方で自分の立ち位置が『犠牲者達とは違う』と言う事に安堵していた。
アスールの様に拷問を受けず、攫われたプリシカ王国の魔法使い達とも、ノワールの女達とも違う。
オンブル伯爵はセピアに優しく話すのだ。
アスールとそっくりな顔で、プリシカ王国で皆と一緒に居た彼の様な優しさを、彼はセピアに向ける。
(この人は…アスールさんじゃないのに)
例え身近な人間の血の繋がった人間でも、やっている事は許されない事だ。
それでも憎み切れない自分を、セピアは恥じる。
(あぁ…誰か…助けて…)
救いを求める声を、上げる事はない。
心の中で願うだけ。
頭に浮かんでは消える、プリシカ王国の皆に。
「さあ、次へ行こうか」
オンブル伯爵はセピアに手を差し出す。
紳士が淑女を誘う様に、優雅さを纏う。
セピアはその手を取らなかった。
通路を歩く二人の側を、黒服達が行ったり来たり通り過ぎていく。
彼らは皆、セピアが居る事に疑問も無いのか、オンブル伯爵に向かって会釈はしても、彼女には少し視線を向けてはすぐ反らし去る。
奥へ進むにつれて、人影がまばらになり、少なくなっていった。
地下3階へ降りる為に、小さい部屋へ入る。
浮遊感を感じたその先に在る物を、セピアは感じ取っていた。
扉が開くと共に、入って来た冷たい風はセピアの頬を撫で、髪を揺らし、指先を凍えさせる。
吐く息が白く、質素なドレス1枚のセピアは足先からも凍りそうだった。
機械音が響くフロアは、セピアが感じていた様に、人間一人が入るサイズのガラス管が並んでいる。
外の機械から繋がる管が、ガラス管を通り、その中へ伸びている。
その先に在る物は胎児だった。
よく見ればガラス管の上部にカラーが書かれている。
それは、液体に漬かっている胎児の魔法属性を示していた。
時折、液体に気泡が浮かびぷくぷくと音を立てながら、水面に上がっていく。
胎児たちは皆、息をしていた。
半目の胎児達はこちらを見ている様だった。
「この子らは母体を介さない胎児だ。…要するに本当の人間ではない。人の形をしているだけだ」
立ち止まったセピアに、オンブル伯爵は気にするなと言う。
「一つの細胞から作られたコピー品だ。我々は人間のコピーを作る事に成功したのだ…。魔法と共にね」
「な…」
「あぁ…でも、誤解しないでくれ。ここに有るのは他国から送られて来た死人の細胞で、そこまで重要な物では無い。何度か魔法の元素を抽出するといつも崩れてしまうからな、育て切るよりも胎児の方がコストがかからなくて良いのだ。もっと誇るべき成果はこの先だ」
オンブル伯爵は通路の先を指さし、先を促す。
凍える足を引き摺る様に、セピアは歩いた。
何列もの胎児のガラス管の間を歩くと、胎児の視線が全て、重なり合いながらセピアに向かう。
奥の胎児とも、手前の胎児とも、目が合う気がした。
視野の端で、震え出した胎児が口を開け空気の泡を勢いよく出している。
それに気が付いた黒服が、ガラス管の下に有る装置のスイッチを切った。
管を流れる液体が止まると、胎児の顔が裂けた。
皮膚が裂けると中から紅い肉が見え始め、それも溶け始める。
白い骨が露わになる頃には、身体もモロモロと崩れ去り、…骨も消える。
跡形もなく消え去った後のガラス管からは、液体も抜かれた。
黒服はガラス管を開けると、一番細い管に拳くらいの大きさの肉の塊を接続する。
ガラス管は閉められると、太い管から液体が出てきた。
肉の塊を液体が包み、ぴったりとガラス管の中を満たしていった。
「ああやって、骨も肉も…全てから無駄なく回収できるのだよ。便利だろう?」
軽くオンブル伯爵は笑った。




