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オンブル伯爵の言葉に、セピアは両手で顔を覆った。
魔力集中させ、意図して検知魔法を広範囲に広げていく。
近くの部屋から遠くの部屋まで、スキャンしていく。
近くにあればある程、脳裏に映し出される映像は鮮明になる。
プリシカ王国の言葉で助けを求めていた女性の、髪の色まで見え始め、目の前で彼女が襲われていた。
「止めて!!」
セピアは彼女のいる部屋のドアを叩いた。
ガンガンと音が鳴るが、中に居る男は何事もない様に、彼女を甚振り続ける。
彼女が声を上げ、乱雑に切られた青緑の頭が上下に激しく揺れた。
「お願い!止めさせて!」
ドアを叩きながら、オンブル伯爵に乞う。
彼は両手を後ろで組み、セピアを眺めるが動きはしなかった。
「…君はそいつに構っていていいのか?」
「だって!こんなっ!!」
二人が言い合う間も、中に居る男は彼女を責め続ける。
ナイフで皮膚を切り、傷から血が溢れ、ベッドを赤く染めて、女は泣き、男はそれを喜んだ。
体中に青い痣が浮き出る女の、白く細い腕は助けを求める様に宙を掻く。
彼女にはセピアの声が聞こえていた。
『たす…け…て』
彼女の泣き声が、セピアの耳に届く。
見捨てては行けなかった。
「オンブル伯爵!お願い!彼女が…死んでしまう!」
「そうかも知れないね」
必死に懇願するセピアをしり目に、オンブル伯爵は悠長な動作で煙草に火を点けた。
「全てを助ける気でも…しているのかい?」
白い煙を吐き、今度はセピアに問う。
「ちゃんと、見たまえ」
「…あ…」
セピアが意識を広げると、この場所の広さと部屋の多さに愕然とするしかなかった。
10や20の数ではない。
入って来たドアから地下2階まで全てが、部屋に区切られていた。
下に行くにつれて、部屋は大部屋になっているのだろう区切られている空間が広い。
地下3階の分れた部屋に、何かが大量に並んでいるのも見えた。
「どこまで、見えたかね?」
「…地下…3階の…何か…」
「おお、そこまで見えたか。…詳細は?何が並んでいたか分かるかね?」
セピアの答えに、オンブル伯爵は目を輝かせ興奮した様子だ。
「もっと、闇の力を借りるんだ。そうすればもっと見えるはずだ」
狂った研究者の様に、セピアに集中を促す。
彼はどのくらいの魔力を、セピアが持って居るのか知りたくて溜まらなかった。
そして、それを利用したい。
「嫌…」
「見るんだ。どこまでも。アスールを助けたいだろう?そこに居る女を助けたいのだろう?」
「見たく…ない」
「今ここで見なくとも、君は後で見ることになるぞ」
思い切り深く煙草を吸い、感嘆の息を吐く様に煙を吹く。
「どうして…」
「君には分からないだろうが、絶望や傷心が闇の力になる…。君にはもっともっと力を増して貰わねば」
「…それが貴方に向かうとは思わないの?」
「向けて尚、自分が許せる状況になると思えるならば、私に向けると良い」
「…」
「アスールを助けた後でも、私に向けられるならそうしろ。だが…後悔する事にはなるが。な」
二人の声が聞こえていたのか、周りの部屋からの助けを求める声が大きくなっていった。
『助け…て…』
『外の人間に助けを求めても無駄だ』
『ヤメテ…誰か…』
『泣け、叫べ!俺をもっと楽しませろ』
『ころして…もう…ころして…死にたい…死に…』
『ぎゃはははは』
「ちゃんとコントロールも出来て居なんだろう?」
聞こえる声に耳を塞いだセピアへ、オンブル伯爵がたたみ掛ける。
「それで私を狙う事は果たして、出来るのか?」
『熱…い…痛…い』
『綺麗だよぉ…あぁ…逃げないで…』
『さむ…さ…む…い』
『温めてやろうなあ』
『ぎぃやややややややあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』
「耳を塞いだって無駄だ。…それに」
耳を塞ぎ、肩を震わせるセピアに向かって、オンブル伯爵は微笑みかけた。
アスールに似た、優しい微笑みだった。
「例え遮断出来たとして、君にこの者達を見捨てる事が出来るかい?」
そして「プリシカ王国でぬくぬくと育った君に」と、言った彼の目は、あの冷たい眼差しで皆を見たアスールそのものだった。




