↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
邪神の口付け

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/100

4

「酷い事を…国は国民在ってのモノよ」

「それは働き手の話か?金を民衆から取って自分が生きる為の良い訳か?…それは戯言か世迷言だ」

「そんなのではないわ」

「いいや、この国と君の国もそう変わらんよ。殺して糧にするか生かしながら糧にするか…王族や貴族と言う一部の者の為に…強者の為に弱者を喰うのは同じだ」


(だからと言って…あんな事は…しない)


セピアはそう言い返したかった。

しかし、街で見た虚ろな奴隷達の顔が、吊るされたまま揺れる女たちの顔が『本当に?』と問いかける様に思えた。


奴隷達は皆女だった。

男達は皆、奴隷を売り買いし、物を売り買いし、生きている。

ノワールではそうだ。


(プリシカ王国は…)


絶対的な王の下で、女も男も者を売り買い、金を国に納めて生きている。

そして…豊満な物流を産む為に、食べ物や布、宝石や金属の為に他国を攻める。

戦争に駆り出されるのは男女共に平民で、後ろから指揮を執るのは貴族だ。


(王族や王族に近い私達は…)


王息でさえ前線には立たない。


「…」


セピアは言葉を失った。

立ち尽くすセピアの後ろで、側付の男が落ちていた最後の本を拾い、本棚へ戻す。

男は役目を終えたように、その場に倒れた。


セピアは後ろの男が倒れたのを音で理解したが、振り返りはしなかった。

男の姿を見なくとも、その身体を触らなくとも、彼女には男が死んでいる事が分かっていた。


「その男は…」

「言わないで!!」


オンブル伯爵の言葉を、セピアは遮る。

彼女の目から、涙が一筋流れた。


「悲しいのかね?それとも…悔いているのかね?…私の事が許せないか?自分の事が許せないか?…それも全て君の、ただの自己満足や自己陶酔だ。認めてしまえ。私達は同類だと。ノワールもプリシカも…その他の全ての国が、強者による強者の為の世界だと…」



ソファから立ち上がると、オンブル伯爵はセピアに再度近付いて来た。

俯くセピアの耳元で、彼は囁いた。


「そして邪神を受け入れろ」


その言葉が頭の先からつま先まで、貫く様に駆け抜けた。


オンブル伯爵が空中に円を描く仕草をすると、黒い筒が浮かんだ。

それは解けると、紙の様な形状になり文字が浮かび上がって行く。

文字が現れ終わると、魔法陣が浮かび上がり消えた。


しばらくすると二人のいる部屋に、メイド達が数人入って来た。

手には質素ながらも女性用のドレスと靴、肌着を持っていた。


「着たまえ」


オンブル伯爵が人差し指を振ると、メイド達はセピアを囲った。

それぞれ、テキパキと肌を拭い、肌着や服を着せていく。


全てのメイド達の口は、この国に到着した時に着いた、あの商人の店で見た奴隷の目の様に、縫われていた。

よく見ると彼女達の口は、あの奴隷とは違い隙間もなくピッチリと縫われ、施されてから時間が経って居るのか、上唇と下唇は一体化していた。

糸の跡が境目、真一文字の凹みに残っている。


「口が利ける者を残しておくべきだったな」


オンブル伯爵が笑いを含んだ声で言う。

そうしておけば、着替えを手伝うその時に印の場所を知れたのにと言う事だろう。

彼女達の口を縫う事に一切の罪悪感も無い男だ。


メイドの一人がセピアの頬に手を当てた。

そこはオンブル伯爵が叩いた所だった。


彼女が触れた箇所がほわっと暖かくなり、痛みが無くなる。

聖女だけが使える治癒魔法を、メイドが使えるのかとセピアは驚いたが、すぐのそれが間違いだと気付く。

メイドの手には、金色のクリームが入った器が有った。

アスールが飲んだ金色の水と同じ、回復の力を持ったクリーム。


「これは…?」

「制御装置同様、この国の研究の成果だ」


オンブル伯爵は右手を振り、メイド達に下がるよう指示をすると、彼女達は頭を下げ無言で部屋を出て行った。


「興味が在るか?」

「…」

「本来なら部外者に見せる事はない…特に女にはな。…だが、君は他ならぬ邪神の器だ」


オンブル伯爵は扉のノブに手をかけると、セピアに向いた。


「付いて来たまえ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。