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「酷い事を…国は国民在ってのモノよ」
「それは働き手の話か?金を民衆から取って自分が生きる為の良い訳か?…それは戯言か世迷言だ」
「そんなのではないわ」
「いいや、この国と君の国もそう変わらんよ。殺して糧にするか生かしながら糧にするか…王族や貴族と言う一部の者の為に…強者の為に弱者を喰うのは同じだ」
(だからと言って…あんな事は…しない)
セピアはそう言い返したかった。
しかし、街で見た虚ろな奴隷達の顔が、吊るされたまま揺れる女たちの顔が『本当に?』と問いかける様に思えた。
奴隷達は皆女だった。
男達は皆、奴隷を売り買いし、物を売り買いし、生きている。
ノワールではそうだ。
(プリシカ王国は…)
絶対的な王の下で、女も男も者を売り買い、金を国に納めて生きている。
そして…豊満な物流を産む為に、食べ物や布、宝石や金属の為に他国を攻める。
戦争に駆り出されるのは男女共に平民で、後ろから指揮を執るのは貴族だ。
(王族や王族に近い私達は…)
王息でさえ前線には立たない。
「…」
セピアは言葉を失った。
立ち尽くすセピアの後ろで、側付の男が落ちていた最後の本を拾い、本棚へ戻す。
男は役目を終えたように、その場に倒れた。
セピアは後ろの男が倒れたのを音で理解したが、振り返りはしなかった。
男の姿を見なくとも、その身体を触らなくとも、彼女には男が死んでいる事が分かっていた。
「その男は…」
「言わないで!!」
オンブル伯爵の言葉を、セピアは遮る。
彼女の目から、涙が一筋流れた。
「悲しいのかね?それとも…悔いているのかね?…私の事が許せないか?自分の事が許せないか?…それも全て君の、ただの自己満足や自己陶酔だ。認めてしまえ。私達は同類だと。ノワールもプリシカも…その他の全ての国が、強者による強者の為の世界だと…」
ソファから立ち上がると、オンブル伯爵はセピアに再度近付いて来た。
俯くセピアの耳元で、彼は囁いた。
「そして邪神を受け入れろ」
その言葉が頭の先からつま先まで、貫く様に駆け抜けた。
オンブル伯爵が空中に円を描く仕草をすると、黒い筒が浮かんだ。
それは解けると、紙の様な形状になり文字が浮かび上がって行く。
文字が現れ終わると、魔法陣が浮かび上がり消えた。
しばらくすると二人のいる部屋に、メイド達が数人入って来た。
手には質素ながらも女性用のドレスと靴、肌着を持っていた。
「着たまえ」
オンブル伯爵が人差し指を振ると、メイド達はセピアを囲った。
それぞれ、テキパキと肌を拭い、肌着や服を着せていく。
全てのメイド達の口は、この国に到着した時に着いた、あの商人の店で見た奴隷の目の様に、縫われていた。
よく見ると彼女達の口は、あの奴隷とは違い隙間もなくピッチリと縫われ、施されてから時間が経って居るのか、上唇と下唇は一体化していた。
糸の跡が境目、真一文字の凹みに残っている。
「口が利ける者を残しておくべきだったな」
オンブル伯爵が笑いを含んだ声で言う。
そうしておけば、着替えを手伝うその時に印の場所を知れたのにと言う事だろう。
彼女達の口を縫う事に一切の罪悪感も無い男だ。
メイドの一人がセピアの頬に手を当てた。
そこはオンブル伯爵が叩いた所だった。
彼女が触れた箇所がほわっと暖かくなり、痛みが無くなる。
聖女だけが使える治癒魔法を、メイドが使えるのかとセピアは驚いたが、すぐのそれが間違いだと気付く。
メイドの手には、金色のクリームが入った器が有った。
アスールが飲んだ金色の水と同じ、回復の力を持ったクリーム。
「これは…?」
「制御装置同様、この国の研究の成果だ」
オンブル伯爵は右手を振り、メイド達に下がるよう指示をすると、彼女達は頭を下げ無言で部屋を出て行った。
「興味が在るか?」
「…」
「本来なら部外者に見せる事はない…特に女にはな。…だが、君は他ならぬ邪神の器だ」
オンブル伯爵は扉のノブに手をかけると、セピアに向いた。
「付いて来たまえ」




