表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
ウルネス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/67

3

男は本来の目的を隠そうとしなくなり、ジリジリと二人の周りを囲んでいく。

視線を外し、様子を伺っていた数人の男も、それに加わる。

セピアを奪えた奴が、勝者の様だった。


「まずいな…」


アスールが周りを警戒したが、既に取り囲まれていた。

その外側に居る連中も、強奪に参加しないが好奇心をむき出しに、二人が逃げられない様に取り囲む。


奴隷の女達は一瞬たりとも顔を上げない。

先程の男の鉄格子越しの人形達も、他人事のように視線を宙に浮かばせていた。


他の店の奴隷達も同様だ。

両手が縛られ宙に浮いたまま、外の騒ぎなど我関せずと言った体で、揺れている。


これは…ここでは日常だった。


「行け」


声をかけて来たあの店主が、自分の背後にいる者に声をかけた。

その合図で、各々の配下が一斉にアスールとセピアに襲い掛かった。


アスールには何も武器が無い。

その代わりに在る筈の魔法を、彼は使わなかった。


(アスールさん!?)


武器無しのアスールは、武術で応戦するが人数の多さには敵わない。


「俺のもんだ!!」


男の叫びと共に、セピアが抱え上げられる。

フードが外れ、顔が露わになると、周りから歓声が上がった。


「上玉じゃねえか!」

「俺にも味見を!」

「店に!」

「俺のもんだ」

「いや、俺に」


ローブが剥がされ、ビリビリに破れた服が観衆の目に晒される。


「止めろ!」


アスールの叫ぶ声が響いた。

その声を馬鹿にした笑いが起こり、二人を繋ぐ鎖に斧が振り下ろされた。

何度も振り下ろすが、鎖が切れずにいると、一人がアスールの手首を切れと言いだした。


「その間に俺は…」


セピアは簡単に地面に引き落とされ、掴んだ男の顔が近付いて来る。


「嫌!」


藻掻けば藻掻くほど、セピアの服が引き千切られていく。


「アスールさん!!」


声を大にして呼ぶが、アスールからの反応が無い。


「どうして!アスール…さ…」


襲ってくるネズミからでも、暗闇でも助けてくれたアスールが、今は魔法も使えず抵抗も空しく引き倒されていた。


(どうして!!)


自分に覆いかぶさって来る男が、最後の服を引き破った。

胸を露わにしたセピアは、羞恥心で顔が熱くなる。


「いやああああああ!!」


セピアの叫びで、一瞬にしてざわめきが消えた。

周りを囲んでいた男達も、アスールを捕らえていた男達も皆、黙る。


二重になっていた民衆達の輪の中、中心に居たセピア。

彼女の悲鳴と共に、風が四方八方に真空の輪を広げた。


一瞬の沈黙の後、シュパンッ。と音が響くと、セピアに覆いかぶさっていた男が飛散した。

頭も胴体も、腕も足も、全てがはじけ飛び、その場にはただ紅い液体が広がる。


勇が死んだ時よりも、固形の無い…液状化。

それをやったのは、アスールではなく、セピアだった。


男の返り血を一身に浴びたセピアは、赤く染まった身を起こし、立ち上がった。

周りは静かだった。


「う…ぅ」


微かにアスールの声が聞こえ、その方向に足を運ぶ。

鎖が記すその先に、アスールが倒れている。

その身はセピアと同様、真っ赤に染まっていた。


頭から足のつま先まで、紅い液体に浸し、倒れている。

その周りには、さっき居た筈の男達は居ない。

全てが人の形を保って居なかった。


「アスールさん…」


アスールの髪にセピアは触れた。

彼の体の魔力の流れが、微かに感じられる。


アスールは生きてはいたが、気絶していた。

セピアに肋骨を折られ、腕を燃やされ、アーテル子爵に殴られ…魔法を使いすぎた。

アスールには限界が来ていたのだ。


道に広がる民衆だったモノは紅い川になり、排水溝へ流れて行く。

それを、鉄格子の奥から人形達は眺め、吊るされた奴隷達も変わりなく揺れた。


静かになった道に、店の中に居た幾人かが顔を出し、呆然と立ち尽くした。

店の前を流れる紅い液体は、黒い細い物を含み赤黒く見える。

排水溝が次々に、黒だけを残していく。


「か…髪の…」


一人が拾い上げ、それが何だったかを知るや否や、人々は店の中に慌てて逃げた。

誰も居なくなった道の上。

倒れたままのアスールの側で、セピアは自分がした事をまだ理解して居なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ