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人が賑わう通りでは無かったが、行きかう人達は皆、ローブを身に着けて居た。
中にはアスールの様にフードまで被っている者もいたが、殆どの人達は被って居ない。
そこにはプリシカ王国では見た事の無い人数の、黒髪の人達が歩いていた。
マジマジと目を合わせる訳にはいかないが、恐らく皆、黒目の人達だ。
アスールはそんな人たちの中に、違和感なく紛れ込んでいる。
しかし、いつものアスールならば、青い髪と青い目が目立っていただろう。
(いつもの私とは逆ね)
プリシカ王国ではセピアの黒髪と黒目は珍しく、人々の中に入ると目立っていた。
だが、ここならば…セピアは目立たない。
一瞬、セピアは解放感を覚えた。
(でも…)
よく見ると、黒い髪の女は皆、セピアの様に横に居る男に繋がれているか、両手に手枷を嵌められその鎖を持たれている。
そして一様に下を向いていた。
すれ違う瞬間、セピアは下を向きながら横目でその女達を見た。
表情は暗く、身体も頭も洗われた形跡はなく、ツンとした匂いを放っている。
「にいさん、にいーさん」
店の前に立つ男がアスールに声をかけた。
フードの下から見えた男は、先程の商人よりやや背が高いが、セピアと同じか少し低い。
顔が若かったが、色黒でやはり下卑た笑いを浮かべている。
その手は、アスールとセピアを繋いだ鎖に伸びていた。
「何だ」
アスールが「離せ」と強引に鎖を引っ張ると、男は簡単に手放した。
声掛けに成功したと、言わんばかりの笑みを、男は浮かべるがアスールはそれを無視して足を速めた。
「いやいやお兄さん」
男はアスールに食下がり、進路を塞いだ。
「お兄さん、良いドールが入りましたぜ」
「ドール?」
アスールが訝し気に言うと、男は豆鉄砲を食らった様な顔をした。
「なんや、にいさん、コレクターちゃうん?」
ほらほら。と、指を差す先のその男の店の入り口横には、縦に鉄棒が数本嵌められた窓が有った。
その向こうのガラスから店内が見える。
道路に向いて、椅子が置かれ、その椅子には着飾った人形がこちらを向いて座っていた。
「にいさん、ドール連れてっさかい、収集家なんかと思いましたわ」
「ドール…?」
「はい。最近流行りなんです。知りません?奴隷を着飾る趣味の話」
どう見ても着飾って居ないセピアを指して、男はドールと呼んだ。
唖然とするアスールに、得意げな顔で男は『ドール』について語り始めた。
男の店内に見えた飾られた人形は、全て生きた人間だという。
意志を無くした見目の良い女を、所有するのが最近の流行で、労働奴隷や性処理奴隷だけでなく『ドール』を持つのが『格』なのだと。
「最近流行りなんですわ…高こう売れるんで」
「これが…そうだとでも?」
「はい。防犯の為でっしゃろうけど、にいさん、甘いわ。わてらプロは誤魔化されへんで…肌質、髪質、匂い。わざと汚してても分かりまっさ」
セピアの艶めいた肌や髪、そしてローブに付いた匂いや路地裏の匂いでは誤魔化せない染み付いた香油。
見てみよし。と、セピアの後ろを指さす。
指した先には、幾人かの男がこちらの様子を伺っていた。
「狙われてまっせ」
アスールがその男達を見ると、目線を反らしたが去りはしない。
「にいさん、もう一匹ぐらいどうです?何なら交換でも…」
男はセピアを見て舌なめずりをした。
「断る」
「えぇ…こうなったら二体!二体と交換で!」
「断る」
アスールが先を行こうとするが、男回り込みしつこく交渉しようとする。
「これを見ても分からないか」
アスールは手枷が自分と繋がっているのを見せたが、男は引かない。
「未使用品や無いんでしたらええやないですか」
手枷を主人と繋げているのは、どうやら『使用済みの証』らしく、尚の事、初物と交換すると追いかけて来る。
「埒が明かないな」
アスールはそう吐き捨てたが、気が付けば周りが囲まれていた。
「にいさん、逃げんでも…」
自分よりも背の高い男を引き連れ、男が進み出た。
「交換が嫌なんでしたら…置いてってくれるだけでも構やしません」




