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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
小島からの脱出

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4

アスールはドレスの裾を破り、膝上からつま先までを汚していく。

触れる指先は優しく、まるで大切な宝物に触れているかの様だった。


「俺以外の問いに答えるな。反応もするな。相手の目も見るな…ただ、一点…自分の足元を見ていろ」


セピアの袖を引き千切り、暖炉に捨てる。

火は布をすぐに包み燃やしたが、ロホは来ない。

ロホが検知できるはるか遠くに、あのゲートは二人を運んでしまった。


黒い水たまりと化したゲートも、床の歪みに沿って静かに何処かへ流れて行く。

付いた先の小さな排水溝では、滴り落ちる水音がした。


この部屋の上は騒がしいが、ここはセピアの置かれた机の軋む音しかしない。

ギッギと、規則的な音はアスールが意図して出している様だった。


「少し…声を出してくれ…」

「声?」

「あぁ…」

「えっと…あの…」


話でもすればいいのかと、セピアが話始めた所「そうじゃない」とアスールに窘められた。


「さっきの様に…」


アスールは説明しようとしたが、ため息を吐く。

カーテンの裾が揺らめいた気がした。


「チッ」


舌打ちをするとセピアの両手首を左手で掴み、机に押さえつけた。


「ひゃぁ」


机のきしむ音が大きくなる。

セピアの足の間に、アスールが体を入れると前後に揺れた。


「やめっ」


(何!?この恰好!!嫌っ)


セピアが藻掻き嫌だと叫ぶが、アスールはそのまま机を揺らし続けた。

アスールの机を揺らす右手が、太もも辺りに触れる。

不可抗力なのかどうかは判断付かないが、それよりも机の音にセピアは気を取られた。


(机!壊れそう!!)


「あっ…アスール…さん」

「何だ」


ギギギギとかなりの音が部屋に響き渡る。


(机が…壊れる!!)


「壊れちゃう!」

「壊れろ」


(何ですって!?落ちちゃう!)


「嫌…落ちる…」

「いいんだ」


(何がいいの!?)


覆いかぶさるアスールの肩越しに、カーテンの端に掛かった指を見た。


「誰か…が…」


誰かが見ている。

アスールが太もも辺りに当てていた手を、セピアの口元へ押し当てる。


「黙れ」


口調とは裏腹に、指先でセピアの唇に優しく触れる。

口を軽く塞がれたセピアは、鼻で息をする事になる。


「ふっふっん…」


声を押し殺した息が、揺れと同調し漏れ出た。

セピアの両足がプラプラと動く。


「そうだ」


アスールの声が肯定すると、彼は上半身を引き起こした。

そして、セピアを拘束していた手を離し、腰を両手で掴む。


「ひゃうんっ」


(こそばゆい!!)


思わず変な声を上げたセピアは、恥ずかしさのあまり自由になった両手で、自分の口を押えた。

揺れる間隔を短くするアスールは、そんなセピアを見て少しだけ、彼女から視線を逸らした。

口元には抑え切れない笑いが、浮かんでいる。


「くっ…」


(くすぐったい!!)


「あっ…はっ…」


(笑っちゃダメ!)」


口から出ようとする声を、必死でセピアは押さえ込んだ。

あまりのセピアの葛藤に、アスールも堪え切れず下を向く。

セピアはそんなアスールの頭部を見ながら、いつまでこれを続けるのだろう?と考えていた。


「もう…我慢できない…」


(笑っちゃう!)


笑いの限界に近付いたセピアは下唇を噛み締めた。


「あははは」


アスールが笑う。


「お前も所詮女だな!」


カーテンの向こうに居る者に聞かせる様に言い放つと、より一層机を揺らした。


「ほら!…イケっ」


(どこに!?)


あまりの強さにガクガクと揺さぶられ、アスールにセピアはしがみ付いた。

アスールは片手でセピアを抱き、後頭部を支えた。


(うぅ…酔う…)


振動に酔って来たセピアがの両腕がだらんと落ちると、アスールは一瞬止まり、ゆっくりとセピアを机の上に横倒しにした。

そして、机の上に辛うじて引っかかっていたローブを一枚、セピアの身体の上へ投げて被せると、乱れた服を整えるかの様な仕草をし、自分もローブを羽織った。


「…お邪魔でしたか?」


カーテンの裏から出て来たのは先程の商人だった。


「のぞき見しておいて何を言う」

「…いえ…その…」


アスールの指摘に、商人はきまりの悪い顔をした。

セピアはローブを身に引き寄せると、机から降り後ろを向いて羽織った。

机にいつの間にか、赤黒い染みが小さく転々と滲んでいた。

商人の視線は一瞬、紅い染みに向く。


「初物でしたら…お高く買い取れたものを…」


口惜し気に商人が言う。


「売る気はない。俺のだ」

「…」


商人は恨めしそうな視線をアスールに向けたが、懐から黒い液体の入った瓶を出し、机に置いた。

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