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アスールはドレスの裾を破り、膝上からつま先までを汚していく。
触れる指先は優しく、まるで大切な宝物に触れているかの様だった。
「俺以外の問いに答えるな。反応もするな。相手の目も見るな…ただ、一点…自分の足元を見ていろ」
セピアの袖を引き千切り、暖炉に捨てる。
火は布をすぐに包み燃やしたが、ロホは来ない。
ロホが検知できるはるか遠くに、あのゲートは二人を運んでしまった。
黒い水たまりと化したゲートも、床の歪みに沿って静かに何処かへ流れて行く。
付いた先の小さな排水溝では、滴り落ちる水音がした。
この部屋の上は騒がしいが、ここはセピアの置かれた机の軋む音しかしない。
ギッギと、規則的な音はアスールが意図して出している様だった。
「少し…声を出してくれ…」
「声?」
「あぁ…」
「えっと…あの…」
話でもすればいいのかと、セピアが話始めた所「そうじゃない」とアスールに窘められた。
「さっきの様に…」
アスールは説明しようとしたが、ため息を吐く。
カーテンの裾が揺らめいた気がした。
「チッ」
舌打ちをするとセピアの両手首を左手で掴み、机に押さえつけた。
「ひゃぁ」
机のきしむ音が大きくなる。
セピアの足の間に、アスールが体を入れると前後に揺れた。
「やめっ」
(何!?この恰好!!嫌っ)
セピアが藻掻き嫌だと叫ぶが、アスールはそのまま机を揺らし続けた。
アスールの机を揺らす右手が、太もも辺りに触れる。
不可抗力なのかどうかは判断付かないが、それよりも机の音にセピアは気を取られた。
(机!壊れそう!!)
「あっ…アスール…さん」
「何だ」
ギギギギとかなりの音が部屋に響き渡る。
(机が…壊れる!!)
「壊れちゃう!」
「壊れろ」
(何ですって!?落ちちゃう!)
「嫌…落ちる…」
「いいんだ」
(何がいいの!?)
覆いかぶさるアスールの肩越しに、カーテンの端に掛かった指を見た。
「誰か…が…」
誰かが見ている。
アスールが太もも辺りに当てていた手を、セピアの口元へ押し当てる。
「黙れ」
口調とは裏腹に、指先でセピアの唇に優しく触れる。
口を軽く塞がれたセピアは、鼻で息をする事になる。
「ふっふっん…」
声を押し殺した息が、揺れと同調し漏れ出た。
セピアの両足がプラプラと動く。
「そうだ」
アスールの声が肯定すると、彼は上半身を引き起こした。
そして、セピアを拘束していた手を離し、腰を両手で掴む。
「ひゃうんっ」
(こそばゆい!!)
思わず変な声を上げたセピアは、恥ずかしさのあまり自由になった両手で、自分の口を押えた。
揺れる間隔を短くするアスールは、そんなセピアを見て少しだけ、彼女から視線を逸らした。
口元には抑え切れない笑いが、浮かんでいる。
「くっ…」
(くすぐったい!!)
「あっ…はっ…」
(笑っちゃダメ!)」
口から出ようとする声を、必死でセピアは押さえ込んだ。
あまりのセピアの葛藤に、アスールも堪え切れず下を向く。
セピアはそんなアスールの頭部を見ながら、いつまでこれを続けるのだろう?と考えていた。
「もう…我慢できない…」
(笑っちゃう!)
笑いの限界に近付いたセピアは下唇を噛み締めた。
「あははは」
アスールが笑う。
「お前も所詮女だな!」
カーテンの向こうに居る者に聞かせる様に言い放つと、より一層机を揺らした。
「ほら!…イケっ」
(どこに!?)
あまりの強さにガクガクと揺さぶられ、アスールにセピアはしがみ付いた。
アスールは片手でセピアを抱き、後頭部を支えた。
(うぅ…酔う…)
振動に酔って来たセピアがの両腕がだらんと落ちると、アスールは一瞬止まり、ゆっくりとセピアを机の上に横倒しにした。
そして、机の上に辛うじて引っかかっていたローブを一枚、セピアの身体の上へ投げて被せると、乱れた服を整えるかの様な仕草をし、自分もローブを羽織った。
「…お邪魔でしたか?」
カーテンの裏から出て来たのは先程の商人だった。
「のぞき見しておいて何を言う」
「…いえ…その…」
アスールの指摘に、商人はきまりの悪い顔をした。
セピアはローブを身に引き寄せると、机から降り後ろを向いて羽織った。
机にいつの間にか、赤黒い染みが小さく転々と滲んでいた。
商人の視線は一瞬、紅い染みに向く。
「初物でしたら…お高く買い取れたものを…」
口惜し気に商人が言う。
「売る気はない。俺のだ」
「…」
商人は恨めしそうな視線をアスールに向けたが、懐から黒い液体の入った瓶を出し、机に置いた。




