表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
小島からの脱出

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/67

3

「ちょっと…どこに行くの!?」


引っ張られるまま、セピアは足を動かしていた。

砂の感触から硬い床へ変わるのに、そう時間は掛からなかった。


「…ここは…どこ…」


ゲートを出た先には赤いレンガ造りの壁が立っていた。

どこかの家の一室。

それも、あまりよろしくない人間が住んでいるのが分かるくらい、淀んだ空気が流れていた。


「お久ぶりでございます…」


セピア達から少し離れた、暖炉の横から声がし、セピアはぎょっとした。


「あぁ」


ぶっきら棒にアスールが返事を返す。

声の主は背がセピアの腰ほどもなく、子供の様な小ささだったが、顔は老人を更に乾燥させ皺くちゃにし、殴りつけたように歪んでいる。


アスールに対し恭しく、低頭傾首を表すかの如くの姿勢だが、顔には醜悪な蔑みが表れていた。

セピアには、この者が男なのか女なのかすら判断できなかった。


「…ローブを二枚、後…馬車を」

「かしこまりました」


両手を腹の所で組み、丁寧に深々とお辞儀をしたそいつは、そそくさと暖炉横のカーテンの裏へ去って行った。

去り際にちらっとセピアを見て、如何わしく舌なめずりをして。


「馬車があれば良いが…」


アスールが側にある机に、体重をかけた。

机はギギっと嫌な音を立てたが、壊れたり崩れたりはしなかった。


「さっきの人は…?」

「あれはノワール国の属国、ウルネスの商人だ…名前は…知らなくて良い」

「ここは…」

「ウルネス。ノワールの隣…魔法も使えない、発明品の一つも作れない。そのくせ貿易が盛んで、金の流れだけは良い国だ…ここではほぼ何でも手に入る」


眉間に皺を寄せた顔で言う『何でも手に入る』は、恐らく金品や良い物だけでは無いのだろうと、セピアは思う。


上から物音がして、何かの壊れる音と共に怒号が聞こえて来た。

女性の悲鳴が聞こえ、それに対して怒鳴る男の声だ。

セピアは、その声にビクッと肩を震わせた。


「セピア嬢…いや、セピア」


机にもたれたアスールが手招きをする。

セピアが動けずにいると、アスールは乱暴に服を引っ張った。

服の避ける音と共に、上半身を机に押し倒されたセピアは小さく悲鳴を上げた。


「黙れ」


組み敷くアスールに口を塞がれる。


「失礼します…」


長い髪を乱し、元の色が分からないくらいに汚れ、どこもかしこも破れている服を着た女がカーテンを開けた。

組み敷かれているセピアを見ても、女は驚きもせず無表情のまま、抱えたローブをアスールの横へ置いた。


何も問題が無い様に振舞う女に、セピアは助けを求めようとしたが、それも無駄なのだとすぐに分かる。

女は目を糸で縫われ、辛うじて隙間から見ている状態だった。

そして、女の体から漂う異臭。


短くなった裾から見える太ももは、細い黒い木の様な形状をしていた。

そこへ巻かれている不衛生な布の下から、何かが零れ落ちている。

床に落ちたそれが、もぞもぞと動いた。

虫だった。


「ひっうっ」


引いた様な小さな悲鳴は、アスールの掌に塞がれていたが、その一瞬女と目が合った。


「お衣装が…破れておいでで…」

「触るな」


女がセピアへ手を伸ばそうとしたが、アスールが一喝する。

女は薄ら笑いを浮かべ「左様で」とヘコヘコと頭を下げた。

下げた頭が動く度に、ハラハラと白い小さな物が頭から落ちた。


「さっさと失せろ」


いつもとは違うアスールの物言いは、セピアにとっては恐怖を抱く言い方だったが、女にとっては存外悪くない様子で、へらへらとした笑いを浮かべた。


震えるセピアの振動が、机に伝わりぎぎっぎと音がした。

それを聞いた女は、ゲスい想像をしたのか尚一層の笑みを浮かべ、立ち去ろうとしない。

にちゃにちゃと、笑いを隠し切れない唇から嫌な音がした。


「邪魔だ」


アスールがそう言うと、セピアの胸元に手をかけ襟を掴むと一気に引き破った。


「んんんんん!!!!」


セピアは抵抗したが、足は地面から浮くだけでアスールの体を退かせはしない。


「速く失せろ!!」


二人を見ていた女は、縫われた瞼を目一杯に開く。

半円の卑しい目と口が、女を更に醜悪にする。

そして、鼻歌でも歌っている様にさも嬉しそうに、カーテンの陰に隠れた。


「失せろ!!」


アスールが魔法でカーテンに攻撃すると、女は「ヒィ」と短い悲鳴を上げてドタバタと階段を駆け上がって行った。


「すまない…セピア…」


アスールは、震えるセピアの頭を乱暴にかき乱す。

机が汚れていたのか、アスールの手は黒く汚れていた。


その手で顔や首を撫でていく。

セピアの白い肌が、黒く汚れて行った。

服も破れ、令嬢とは思えない惨めな格好だった。


「これから君は、俺が連れている奴隷のフリをするんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ