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落ちる速度と比例して、耳元の風が音を増していく。
セピアはアスールが何を言ったのか、気の所為では無いかと思い、彼の顔を見る。
しかし、変わらず目を閉じたままだった。
(誰か助けて…)
アスールの背中の服をぎゅっと握りしめる。
今は天が足元に有った。
頭上にはその空を写した、広大で青々とした海が広がっている。
飛翔魔法を使うにも、落下速度を弱めるだけで、アスールの体を支える事は出来なかった。
解放された魔力を使えば、二人ぐらい容易く大勢を立て直す事が出来る。
だが、セピアは暴走を気にするあまり、コントロールできずにいた。
「どうしたらいいのお…」
このままだと二人共、海に叩きつけられて死ぬ。
(死にたくない)
セピアは目を瞑る。
そして、気が付いた時には、柔らかな水のベッドに寝かされていた。
ベッドの周りは緩やかな水の流れに囲まれ、水の結界が張り巡らされている。
「気が付いたか」
水が割れ、間からアスールが入って来た。
水の向こうに海と丁度沈む夕日が見える。
逆光のアスールの顔は見えづらかったが、内心ほっとしているのが分かった。
手には魚が数匹ぶら下がっていた。
「腹減ったろ。食事にしよう」
そう言うと魚を魔法で三枚に下ろす。
「…生魚…食べた事あるか?」
セピアは首を横に振る。
いつも焼かれるか、炊いてあるかだ。
「そうか…結構旨いんだが…」
「食べた事あるの?」
「あぁ。ノワールでは普通なんだが」
「プリシカ王国ではしない…わね」
「マホンも最初は嫌だって言ってたな」
魚をさばきながら、アスールは懐かしそうに言った。
マホンは泳ぐのが好きで、よくアスールが居る川のほとりに来ては泳ぎ、お腹が空けばアスールに魚を取るようせがんだ。
ついこの間までの二人の関係は、アスールがだらしないながらも弟の我儘に付き合わされる兄の様で、マホンは妹と言うよりやんちゃで元気な弟…。
まるで仲の良い兄弟の様だった。
なのに、今は片方が逃亡者だ。
「あいつ、釣りは下手なのに魚食うの好きだからな…」
切られて綺麗に並んでいく白く半透明な魚の身は、夕日に照らされてほんのり赤くキラキラと輝いていた。
「ほい」
アスールは、洗われた大きな葉っぱに乗ったそれを差し出す。
セピアは受け取りはしたが、口に入れるのは憚られた。
アスールが一切れぺろっと口に入れ、少し噛んだ後飲み下す。
「ん、美味い」そう言って次々に口へ放り込む。
恐る恐るセピアも口に運んだが、感触が合わなかったのか吐き出しそうになる。
しかし、令嬢の矜持もあり飲み込んだ。
思わず咳き込むセピアにアスールは「合わなかったか」と困った顔をした。
「ごめんなさい…」
せっかくの魚を。と咳き込みながら謝罪するセピアに、アスールは首を振る。
セピアの分の魚が水の壷へ仕舞われた。
「もう少し待ってくれ…そしたら火を焚くから…焼いて食べると良い」
今はまだブランが二人を探している。
「その水の結界を出ると、見つかるから…」
「ブランさんに見つかっても良いじゃない。一緒に帰りましょう?」
「駄目だ」
「どうして」
セピアは「私が好きなら…」と言いかけて止めた。
(私を好きだとして…私…卑怯だわ)
色々な思いが頭を駆け巡る。
どうしたって彼の行く末は暗い。
戻ってもノワールへ向かっても。
「…これからどうするの?」
黙り込むアスールに聞いた。
「もう少し日が落ちたら、ブランの目は使えない」
ブランの目とは、そこら辺を飛ぶ鳥の事だろう。
ブランは鳥の目を、自分の目の様に使えた。
「でも、ここには木が有るわ」
ブランが捜索できなくなっても、ある程度の範囲が分かれば次はマホンの魔法が二人を捜索する。
木を通して、マホンは二人の居場所を突き止めるだろう。
それに火を起こせば、ロホが感知しようとすれば出来てしまう。
「どのみち誰かには見つかるわ」
「そうだな…ブランの鳥が俺達のある程度の位置を把握している…」
水の結界のすぐ上を、緑色と黄色の二色を体に宿した鳥が群れで行き来していた。
ブランにも、水の結界を使っている事はバレている。
「ここで火を使えば…居場所を教えているのも一緒よ」
「そうすればロホが飛んでくるだろうな」
「もう、よしましょう…逃げるのは」
セピアはどうすれば説得できるか、あの手この手を考えては、アスールに提言した。




