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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
空の旅路

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1

外に出ると馬車の様な籠が、家の前に止まっていた。

引いているのは馬ではなく、大きな鳥だ。


「おノリください」


黒いフードの男が、二人に乗車を促す。

乗り方が分からないセピアは二の足を踏んだが、アスールの「馬車と一緒」という言葉と、エスコートでドレスの裾を握りしめ乗り込んだ。


「出ます」


黒いフードの男が大きな鳥に跨り、手綱を揮うとふわりと浮き上がり、鳥が大きく羽ばたいた。

揺れは思ったよりもないが、窓を叩く風の強さと流れる雲の速さで、飛翔魔法の比べ物にならない速さで飛んでいる事が分かる。


「窓。触ってみ?」


アスールに言われるまま触ると、指先が凍える様に冷たくなった。


「結構な高さと速度だから…逃げちゃダメだよ」

「…」

「凍死、したくなかったらね」


指先を温めながら、向き合って座る。

セピアにはまだアスールに聞きたい事が有った。

しかし、アスールの背中側の小窓から見える黒いフードの男に、聞かれても良い事かどうか分からず、躊躇している。


アスールは少しの間、窓から外を見下ろし、海を眺めていた。

視線は海の上に浮かんだ、小さな島々に向いている。


「遠い…からねぇ…」


アスールがセピアの緊張を感じ取ったのか、話しかける。

ドレスを掴んだ手が、そのままなのに気が付いたセピアはドレスから手を離し、皺を伸ばした。


「まだ、聞きたい事が有るんだろ?」

「…大丈夫…なんですか?」


セピアの視線が、ちらっとアスールの後ろを差す。

同じ様にアスールが黒いフードの男を見たが、笑って「大丈夫だ」と答えた。


「どうせ聞こえないし…アイツはプリシカ王国の言葉は分からないよ」

「そうなの?」

「あぁ。分かるのはさっきアイツが言った台詞ぐらいの、簡単なものだ」


外の風も強く、言葉も分からない黒いフードの男に、聞かれて困る事等無い。とアスールが背もたれに背中を預けた。


「…さっきの続き…だけど…」

「俺と君の出身が同じだと勇に当てられた事?」

「えぇ。…どうして勇さんには分かったのかしら」

「彼女曰く…だが、俺と君の態度?に共通点があるって」

「共通点?」

「…俺も君も『挨拶』をちゃんとするって」

「…あ」

「本来上の俺らは、確かに位が下の者へ礼や挨拶は普通しない。…聖人達も貴族も」


ロホもブランも、物腰は柔らかい。

しかし、メイドや執事、城下町の人達にお礼は言わない。


「ブランの家でもロホはそうだっただろ」

「だって、それが普通だから…」

「でも、君はサラやアダリにして帰った」

「…貴方も城下町の人達に…」

「そう。たったそれだけだが、彼女は『似ている』と」


それがいつ誰の耳に入るか、アスールは不安だった。


「勘が…良いのも勇者だから…だったのかしら」


勘の良さがアスールを焦らせ、アーテルの急かす声が引き金を引いた。

そして、立花勇は殺された。


「酷い…殺し方だったわ…」


セピアの目に涙が浮かぶ。


「バレたく…無かったからな…本当は君に…」

「え?」

「でも、持っていた物がいつの間にか無くなっていて…誰かに見つかる前に…」

「ネックレス?」

「あぁ。…大事なモノ…なんだ」


懐からチャリっと音を立て、小さなロケットの付いたネックレスを出した。

何の装飾もないシンプルなロケットだが、金色に輝いている。

曇る事がない様にいつも磨かれ、大切にされているのが分かった。


「中に入っているのは誰?」

「母親…だ」


そう言うと、アスールは大事な宝物の様に両手でぎゅっと握りしめた。

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