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外に出ると馬車の様な籠が、家の前に止まっていた。
引いているのは馬ではなく、大きな鳥だ。
「おノリください」
黒いフードの男が、二人に乗車を促す。
乗り方が分からないセピアは二の足を踏んだが、アスールの「馬車と一緒」という言葉と、エスコートでドレスの裾を握りしめ乗り込んだ。
「出ます」
黒いフードの男が大きな鳥に跨り、手綱を揮うとふわりと浮き上がり、鳥が大きく羽ばたいた。
揺れは思ったよりもないが、窓を叩く風の強さと流れる雲の速さで、飛翔魔法の比べ物にならない速さで飛んでいる事が分かる。
「窓。触ってみ?」
アスールに言われるまま触ると、指先が凍える様に冷たくなった。
「結構な高さと速度だから…逃げちゃダメだよ」
「…」
「凍死、したくなかったらね」
指先を温めながら、向き合って座る。
セピアにはまだアスールに聞きたい事が有った。
しかし、アスールの背中側の小窓から見える黒いフードの男に、聞かれても良い事かどうか分からず、躊躇している。
アスールは少しの間、窓から外を見下ろし、海を眺めていた。
視線は海の上に浮かんだ、小さな島々に向いている。
「遠い…からねぇ…」
アスールがセピアの緊張を感じ取ったのか、話しかける。
ドレスを掴んだ手が、そのままなのに気が付いたセピアはドレスから手を離し、皺を伸ばした。
「まだ、聞きたい事が有るんだろ?」
「…大丈夫…なんですか?」
セピアの視線が、ちらっとアスールの後ろを差す。
同じ様にアスールが黒いフードの男を見たが、笑って「大丈夫だ」と答えた。
「どうせ聞こえないし…アイツはプリシカ王国の言葉は分からないよ」
「そうなの?」
「あぁ。分かるのはさっきアイツが言った台詞ぐらいの、簡単なものだ」
外の風も強く、言葉も分からない黒いフードの男に、聞かれて困る事等無い。とアスールが背もたれに背中を預けた。
「…さっきの続き…だけど…」
「俺と君の出身が同じだと勇に当てられた事?」
「えぇ。…どうして勇さんには分かったのかしら」
「彼女曰く…だが、俺と君の態度?に共通点があるって」
「共通点?」
「…俺も君も『挨拶』をちゃんとするって」
「…あ」
「本来上の俺らは、確かに位が下の者へ礼や挨拶は普通しない。…聖人達も貴族も」
ロホもブランも、物腰は柔らかい。
しかし、メイドや執事、城下町の人達にお礼は言わない。
「ブランの家でもロホはそうだっただろ」
「だって、それが普通だから…」
「でも、君はサラやアダリにして帰った」
「…貴方も城下町の人達に…」
「そう。たったそれだけだが、彼女は『似ている』と」
それがいつ誰の耳に入るか、アスールは不安だった。
「勘が…良いのも勇者だから…だったのかしら」
勘の良さがアスールを焦らせ、アーテルの急かす声が引き金を引いた。
そして、立花勇は殺された。
「酷い…殺し方だったわ…」
セピアの目に涙が浮かぶ。
「バレたく…無かったからな…本当は君に…」
「え?」
「でも、持っていた物がいつの間にか無くなっていて…誰かに見つかる前に…」
「ネックレス?」
「あぁ。…大事なモノ…なんだ」
懐からチャリっと音を立て、小さなロケットの付いたネックレスを出した。
何の装飾もないシンプルなロケットだが、金色に輝いている。
曇る事がない様にいつも磨かれ、大切にされているのが分かった。
「中に入っているのは誰?」
「母親…だ」
そう言うと、アスールは大事な宝物の様に両手でぎゅっと握りしめた。




