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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
逃亡者の行く先

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5

「あの…み…見ないで」


顔を赤らめ、ふるふると震えるセピアがアスールに懇願する。


「恥ずかしい?」

「えぇ…なんだか…」

「裸でも見られてるみたい?」


アスールの言葉に、セピアは無言で頷いた。


「見ようと思えば見えるよ」


ガバッとセピアはその身を引いた。

真っ直ぐなアスールの視線が、セピアの細い肩から鎖骨、胸に流れ引き締まった腰に流れ、太ももや足首へと下がっていく。


「止めて」

「…嘘だよ。…水の魔法は透視じゃない…見えるのは血流や魔力の流れだけだ」

「本当に?」

「あぁ。それに今は…食った魔法と元々の魔力が安定を探して、グルグル動いてるから…」


アスールの言葉にセピアはあからさまにホッとした。

その様子を見て、彼はふっと呆れた様な、何かを諦めた様な笑いを吐いた。


「誰の…為なのかねぇ…」


顔を赤くし、身を固めるのは誰の為なのか。と、アスールが呟いた。


「誰のって…王息の…いいえ、婚約者じゃなくったって貴族なら当たり前なんです」


身を固くしながらも、セピアは反論した。

アスールの眉毛が微かにピクンと動く。


「君は…ここの貴族じゃないんだ」

「それは…分かりました。でも、そう育てられたので…」

「身に沁み込んでいる…か」


アスールが何故か悲しそうな顔をした。


「これから移動するのはノワールだ…あそこは…プリシカ王国で育った君には刺激が強いだろうな」


ベッドの上で肘を付き、顎を置いた。

セピアを哀れむ様な、自身も不幸を迎えるような顔をしている。


「貴方には?」

「…地獄だよ…ここでの伯父上の折檻よりも…もっと酷い事が国中で起こっている」

「女性は…襲われて、男性は…実験体…?」

「…それは攫って来た魔法使いに対してだ。…まぁ国民に対しても、似た様な…モノかな…」


アスールは俯いた。

彼の後頭部を見ながら、セピアは話を続ける。


「王様は…居るの?」

「世襲制ではないけどね。強い者が王だ」

「それに貴方は成れないの?」

「…成れない」

「強いのに?」

「そう簡単じゃないんだよ…」


ぼやくアスールは、ベッドに突っ伏すとため息を吐いた。

拗ねた様な態勢だが、腕の隙間からセピアを見ている。

一応はまだ、質問に答えてくれる気は感じた。


「魔法使いを攫って…どんな結果が…?魔法使いは生まれるの?」

「ノワールに魔法使いは少数なのは知って居るな?」


セピアは頷く。


「少数にしか使えない魔法だが、ノワールの魔法使いは魔力量が多い」


(プリシカ王国は魔法属性が多く、ノワールは魔力量が多い。だから、かけ合わせれば…って事なのね…)


「大半は…他国の魔法属性を使える人間は生まれない。たまに…俺みたいに引き継いだ者が生まれる」


アスールは、水魔法特有の青い髪に青い目だ。


「大切にされないの?…ある意味…成功した人間なんだから」

「されないねぇ…」

「王様は自分より強いアスールが怖くないの?」

「…枷を…嵌めるからね」

「魔法で?」

「いや魔法じゃないけど…精神に。さ」

「それを解く事は?」

「難しいねぇ…」


セピアは眉間に皺を寄せ、考えを巡らせた。


「何だか…ブランさんが言っていた勇者の…能力みたい…何でかしら」

「そうだな…勇も自分の世界の日本とノワールが近いって言ってたな…」


セピアはこの際だから聞きたかった事を聞こうと、拳を微かに握りしめた。


「ねぇ。何故…勇さんを殺したの?殺す必要は無かったんじゃ…ないの?」


セピアは震えたくないのに、肩が震えた。


「…城下町からの帰りに、その話が出て…君と俺が同じ出身じゃないかって言われたんだ」

「貴方と私が?…」


(合っているけど…何故勇さんは…分かったのかしら…)


「あぁ。それで…バレる前に…と、邪神を守る為に殺せって…伯父上に言われてね」

「…今は教えてくれるのね」


(さっきは教えてくれなかったのに…)


そう考えた瞬間、唇を奪われた事を思い出し、セピアはぞわっとした。


「キスの…お礼にね」


分かって居るのか、アスールもセピアを揶揄う。

ムスッとした顔をセピアがした瞬間、ドアがノックされた。

開くと黒いローブを羽織り、フードまですっぽりと被った者が目の前に立っていた。


「オムカエニ上がりました」


声からして、若い男性だった。

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