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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
プロローグ

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5/25

5

「ごめんなさい聖女様」


セピアが謝る事で、尚聖女の眉が下がった。


「いいえ、セピア。私こそ…ごめんなさい」


聖女は首を振り、いつか連れて行くと言う約束すらも出来ない自分を悔やんでいた。

その横で、聖女が来る前に庭の木陰で読んでいたセピアの本が、風でパラパラと捲れ、紙の音が鳴る。


(恋…恋をすれば、両親や聖女様。ご先祖様の気持ちが分かって幸せが何なのか分かるのかな)


読んでいた本は隣国から取り寄せた、恋愛小説だった。

ドキドキはするが、実感はない。


オール王息にしても、嫌いでは無いが…それが恋愛的な好意かと言われればそうでもない。

でも、結婚するなら彼が良いとセピアは思う。


「あ…」


セピアの口から声が漏れた。

セピアの手をいつの間にか握りしめている聖女も、ん?と首を傾げる。


「聖女様!」

「何?」


焦りを帯びたセピアの声に、聖女は聞き返す。


「さっきオール様と聖人の皆さまが来られたのは、会議か何かあるのでは!?」


セピアはおかしいと思っていたのだ。

聖人達が揃いも揃ってオールの側に居る事、どの聖人も聖女への挨拶をしない事に。


聖女と聖人四人は少々仲が悪い。

教会のトップである教皇と肩を並べる聖女、その下に位置する聖人だが、何が原因かは分からないが、馬が合わないらしい。


それでも、通常ならば挨拶ぐらいはするが…。

会議前は輪をかけて、ピリピリしているのだ。


それに、王息の護衛であるロホだけがオールに着いているならばいつもの事だが、聖人が揃っていると言う事は、大事な会議が有るはずだ。

なのに、聖女は目の前にいる。

聖女抜きで、聖人が集まる様な話し合いは絶対にされない。


「あぁ。そう…ね」


すっかり忘れていたと言う顔で聖女が笑う。

会議に出席する為、王城へ来た。

なのに、庭に居るセピアを見て会議の事など頭から飛んでしまったらしい。


「早く行って下さい!」


セピアは立ち上がり、自分の手を握っている聖女を立たせた。


「ほら!早く!」

「分かった。分かったから…」


もたつく聖女を立たせ、付いた葉っぱを払い送り出す。


「聖女様!四人の聖人達と揉めないでくださいね!」


セピアの声にちらっと振り向くが、聖女の顔は「約束は出来ない」とでも言っている様だった。

前回の会議でも、ロホと聖女がやり合ったと聞く。

遠のく聖女の背中を見守りながら、セピアはハラハラとした。


「…どうか、揉めませんように」


胸の前で両手を組み、神に祈る。

そして不意に不安に駆られた。


(…今日の議題って…何だろう…)


前回の会議から、ひと月も経っていない。

会議は有っても月一回。


(もうすぐお披露目会…)


オールとセピアの婚約は発表され、決定事項だが、二人揃って知らしめる必要がある。


(もしかして…その事で…何か)


いよいよ婚約破棄の話だろうかと、セピアは不安に思う。

王族に婚約破棄された令嬢は、今後結婚の見込みは無いに等しい。

そんな事は願い下げだとセピアは考えた。


(結婚したいとか子供とか…考えてはいないけど)


出来るならば、燃え上がる様な恋もしたいが…。と考えた所で、聖女の顔が浮かぶ。


(いやいや…聖女様は…無理だって)


頭を振り、考えを散らそうとする。

プリシカ王国は男女での婚姻が普通ではあるが、同性でも結婚できる。

男だからとか女だとか、そんな偏見がない。

だから、女性同士でも婚姻出来る。

相手が『聖女』でなければ。


(しかし、今回の聖女様は型破りだから…)


聖女なら王に掛け合って、セピアとの結婚を認めさせそうでもあった。


「はぁ…」


セピアのため息が空へ溶け込んだ瞬間、閃光が王城の窓から放たれた。

丁度、聖女やオール、聖人の居る会議の間の位置から、庭まで届く強い光。

そして、何かが爆発するような音が鳴り響く。


「何!?」


セピアの驚きと共に、城内が一気に騒然とし、兵達が慌てて会議の間へ走っていく。

その後にセピアも付いて行くと、聖女はおろか聖人達もオールも、王様ですら唖然とした顔をし、会議の間のテーブルの上に視線を集中させている。


中央の大きなテーブルの上には、見た事の無い少女がぽかんとした顔で座り込んでいた。


「…やっぱり…婚約破棄…なのかなぁ…」


何かで読んだことがあるな。と、小説の物語を頭に浮かべ、セピアは独り言を呟いた。

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