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「ごめんなさい聖女様」
セピアが謝る事で、尚聖女の眉が下がった。
「いいえ、セピア。私こそ…ごめんなさい」
聖女は首を振り、いつか連れて行くと言う約束すらも出来ない自分を悔やんでいた。
その横で、聖女が来る前に庭の木陰で読んでいたセピアの本が、風でパラパラと捲れ、紙の音が鳴る。
(恋…恋をすれば、両親や聖女様。ご先祖様の気持ちが分かって幸せが何なのか分かるのかな)
読んでいた本は隣国から取り寄せた、恋愛小説だった。
ドキドキはするが、実感はない。
オール王息にしても、嫌いでは無いが…それが恋愛的な好意かと言われればそうでもない。
でも、結婚するなら彼が良いとセピアは思う。
「あ…」
セピアの口から声が漏れた。
セピアの手をいつの間にか握りしめている聖女も、ん?と首を傾げる。
「聖女様!」
「何?」
焦りを帯びたセピアの声に、聖女は聞き返す。
「さっきオール様と聖人の皆さまが来られたのは、会議か何かあるのでは!?」
セピアはおかしいと思っていたのだ。
聖人達が揃いも揃ってオールの側に居る事、どの聖人も聖女への挨拶をしない事に。
聖女と聖人四人は少々仲が悪い。
教会のトップである教皇と肩を並べる聖女、その下に位置する聖人だが、何が原因かは分からないが、馬が合わないらしい。
それでも、通常ならば挨拶ぐらいはするが…。
会議前は輪をかけて、ピリピリしているのだ。
それに、王息の護衛であるロホだけがオールに着いているならばいつもの事だが、聖人が揃っていると言う事は、大事な会議が有るはずだ。
なのに、聖女は目の前にいる。
聖女抜きで、聖人が集まる様な話し合いは絶対にされない。
「あぁ。そう…ね」
すっかり忘れていたと言う顔で聖女が笑う。
会議に出席する為、王城へ来た。
なのに、庭に居るセピアを見て会議の事など頭から飛んでしまったらしい。
「早く行って下さい!」
セピアは立ち上がり、自分の手を握っている聖女を立たせた。
「ほら!早く!」
「分かった。分かったから…」
もたつく聖女を立たせ、付いた葉っぱを払い送り出す。
「聖女様!四人の聖人達と揉めないでくださいね!」
セピアの声にちらっと振り向くが、聖女の顔は「約束は出来ない」とでも言っている様だった。
前回の会議でも、ロホと聖女がやり合ったと聞く。
遠のく聖女の背中を見守りながら、セピアはハラハラとした。
「…どうか、揉めませんように」
胸の前で両手を組み、神に祈る。
そして不意に不安に駆られた。
(…今日の議題って…何だろう…)
前回の会議から、ひと月も経っていない。
会議は有っても月一回。
(もうすぐお披露目会…)
オールとセピアの婚約は発表され、決定事項だが、二人揃って知らしめる必要がある。
(もしかして…その事で…何か)
いよいよ婚約破棄の話だろうかと、セピアは不安に思う。
王族に婚約破棄された令嬢は、今後結婚の見込みは無いに等しい。
そんな事は願い下げだとセピアは考えた。
(結婚したいとか子供とか…考えてはいないけど)
出来るならば、燃え上がる様な恋もしたいが…。と考えた所で、聖女の顔が浮かぶ。
(いやいや…聖女様は…無理だって)
頭を振り、考えを散らそうとする。
プリシカ王国は男女での婚姻が普通ではあるが、同性でも結婚できる。
男だからとか女だとか、そんな偏見がない。
だから、女性同士でも婚姻出来る。
相手が『聖女』でなければ。
(しかし、今回の聖女様は型破りだから…)
聖女なら王に掛け合って、セピアとの結婚を認めさせそうでもあった。
「はぁ…」
セピアのため息が空へ溶け込んだ瞬間、閃光が王城の窓から放たれた。
丁度、聖女やオール、聖人の居る会議の間の位置から、庭まで届く強い光。
そして、何かが爆発するような音が鳴り響く。
「何!?」
セピアの驚きと共に、城内が一気に騒然とし、兵達が慌てて会議の間へ走っていく。
その後にセピアも付いて行くと、聖女はおろか聖人達もオールも、王様ですら唖然とした顔をし、会議の間のテーブルの上に視線を集中させている。
中央の大きなテーブルの上には、見た事の無い少女がぽかんとした顔で座り込んでいた。
「…やっぱり…婚約破棄…なのかなぁ…」
何かで読んだことがあるな。と、小説の物語を頭に浮かべ、セピアは独り言を呟いた。




