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両親はお互いと出会い、結婚し、子供が出来た事を幸せと言う。
聖女もセピアと居ると幸せだと言う。
(でも、私は…)
セピアは幸せと言うモノが分からなかった。
両親と妹、親戚達とは仲が良い。
ロホの様に本仲間も、他の令嬢達にも友達が居て、傷付く事はあっても、特別不幸な訳でもない。
かと言って、幸せだと実感を持って感じた事も無い。
王息の婚約者ながら、ありふれた日常を生きている。
両親とは違った髪色と目の色でも。
「セピアが望むなら、何でもしてあげるわよ?」
聖女はセピアの黒髪を撫でながら微笑んだ。
彼女なら、豪華な家や美味しいご馳走に囲まれて、好きな読書だけをして生きていく生活を、セピアに保証できるだろう。
「…」
ちらっとセピアは聖女を見る。
「行きたい場所があるなら、連れて行ってもあげる」
微笑んだままの聖女だが、セピアは分かっている。
『行きたい所』とは本当に行きたい『ノワール国』以外だって事を。
ノワール国とは、プリシカ王国で名前だけが知られている国だ。
名前以外、内情も何も知られていない。
場所もあやふやだ。
それくらい遠い国だった。
「ノワール国…」
セピアはダメ元で名前を言ってみる。
が、聖女は顔を曇らせた。
(そう言う反応になるよね…)
セピアは分かっていたが、少し落ち込む。
『どうして私はお母様やお父様と髪の色も、目の色も違うの?』
幼い頃、あれはまだ妹も生まれていない時。
鏡に映る自分と両親、親戚達とも違う髪色や目の色に違和感を覚えて聞いた。
貴族の中にも、平民の中にも、真っ黒の髪も目も居なかった。
一見、黒に近い人間が居るから、偏見を持たれたり陰口を言われたりはしなかったが、自分の中では疑問が生じていた。
『もしかしたら、両親の本当の子供ではないのかも知れない』と。
「セピア。それはね。遠いご先祖様が遠い国の人で…その特徴がセピアに出ただけよ」
お母様は頭を撫でながらそう言った。
「遠い…国?」
「えぇ。ノワール国と言う、場所がとっても遠い所」
「そこがセピアやお母様の故郷なの?」
「…そう、なるわね」
母親の歯切りの悪い言い方に、セピアは疑問に思ったが、行ってみたいと強請ってみた。
どんな所で、自分と同じ黒髪や黒い目の人達がどれ程居るのか見てみたかった。
「お母様!私行ってみたい」
目をキラキラとさせるセピアとは逆に、母親は浮かない顔をする。
「ごめんなさいセピア。ノワール国へは行けないの」
「どうして?魔法で移動して行けば行けるわ」
セピアは転移魔法のかけられた馬車や、扉を思い浮かべる。
一気に飛ぶのは無理だが、何度も飛んで移動して行けば遠い所だってすぐだと、思っていた。
自分の家から王城のある王都までも、いつも一瞬だったから。
「とっても…遠いのよ。だから無理だわ」
母親の頭を撫でる手は、優しいままだが、きっぱりと言い放つ。
それでもセピアは食い下がった。
「どうして?魔法が有れば行けるでしょ?」
「…魔法が有っても行けないのよ。…昔、プリシカ王国とノワール国は戦争をしていたの」
「戦争?」
「ええ、戦っていたの。敵も味方も次々に死んでいったわ…」
悲しげな眼に代わる母親の顔を見て、セピアは心がきゅっと苦しくなった。
幼いセピアには、戦争とはどんな事か分からない。
しかし、母親の顔から、とても悲しい事だとは分かった。
そんな大変な戦争をしていた両国の間で、子孫がプリシカ王国居るのは『駆け落ち』をしたからだと言う。
「二人は…プリシカ王国とノワール国、戦争する国同士、敵対する者だったけれど恋をしたの」
母親は御伽噺をし始めるかのように語る。
それをセピアは母親の膝の上にもたれ乍ら、聞いたのだった。
優しく語られる先祖の物語。
その、ノワール国の血が、セピアの髪と目を黒く染め上げたのだと。
それでも、セピアは両親に似た妹が生まれた時、疎外感を感じた。
優しい恋の物語が、自分を嫌悪させ自信を消失させた。
生まれたての妹を見た時の絶望を…ショックを受けた顔を、母親の前で見せてしまった事を思い出した。
(あの時のお母様と同じ顔をさせてしまった…)




