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セピアにあるのは、見目だけの問題では無い。
貴族ならば特化した魔法があるはずだが、それがセピアには無い。
(幼い頃には得意魔法があったはずのに…)
幼少期に使っていたのだから、魔法自体が無い訳では無い。
がしかし、いつの頃からかセピアの魔力は弱くなっていった。
今現在、16歳のセピアに使える魔法は、細やかなモノで、一般的な飛翔魔法のみだった。
下手をすると、水を出す魔法や火を灯す属性魔法、対象とするモノは色々あれど、清潔を保つ魔法や浄化する魔法を、微力ながら生活や仕事として使う一部の平民の方が、余程セピアよりも魔法が使えた。
確かに平民の中で魔力が無い者も、歳をとるにつれ弱くなった者もいた。
魔法が使えない事は、平民では生活面で困る事が多くなる。とは言え、そもそも使える者が優位なだけで、使えない事は然程問題では無い。
だが、貴族の場合になると魔力が弱るのは珍しく、それを忌む者が多い。
『貴族は、魔法があるからこその貴族でも有る。』
その所為で殊更、セピアの『王息の婚約者』と言う位置に下位貴族から批判の声が上がった。
『特化魔法の無い娘より、有る我が娘を』
この機に自分の娘を婚約者にし、上位貴族を蹴落としたい。とチャンスを伺う下位貴族は、少なくない。
もちろん、セピアが侯爵家の娘である為、表立って何かされる事は無かったが、心ない噂や囁きに「仕方がない」とは思えど傷付いていた。
「もう少しで…お披露目が有る」
セピアの思いなど知らないオールは、彼女から目を逸らし、冷酷に感じる程に淡々と言った。
「分かって…いるな?」
「はい…」
返事をするセピアの、ドレスを掴んでいる手に力が入る。
四人の聖人を引き連れて、庭から出ていくオールの背を見送ると、力が抜けたセピアはその場でへたり込んだ。
「きっと断罪されて婚約破棄される…」
地面からニョキっと生えた草に、愚痴を溢す。
「何の話?」
聖女がへたり込むセピアの、斜め後ろから声をかけた。
声色が楽しそうだ。
「きっと…そうよ…私なんか…」
「断罪って。セピア…何か悪い事をしたの?」
聖女は三角坐りをして、膝に両肘を乗せて、掌に顎を置いた。
まるで幼児が、小さなモノを観察しているかの様な姿勢で、風に靡くセピアの長い黒髪の一房を手に取った。
セピアは嫌うが、聖女はこの髪を美しいと思っている。
出来れば持ち帰りたい程に。
「最近の創造主達はそんな話しか書かないもん…」
何やらセピアは自分の世界に入り込んだらしい。
ロホならば分かるのだろうが、セピアの読む様な本を読んだ事が無い聖女には分からなかった。
歴史や地理、領主運営や商売、あるいは物作りの話で有ればどれだけでも話せたし、教えられたのに。と聖女は、セピアの髪をくるくると指に巻いては解く。
「違う話が読みたいのに…」
セピアは地面の草に、ぶちぶちと言う。
本当にぶちぶち言っていたのは草だが…。
「ねぇ、セピアは…神様を信じてるの?」
セピアの口から出た創造主と言う言葉は、本当の神様の事では無く『作家達』の事だったが、聖女は聞いた。
「え?」
セピアはやっと、自分の髪を弄ぶ聖女の方を振り返った。
手元からハラハラと緑色の物が落ちた。
庭師が植えた花を、殺す雑草だった。
「セピアは神様を信じてるの?」
「それは…」
神の化身である聖女がおかしな事を言う。とセピアは思う。
「聖女様は神様の化身でしょう?」
セピアの返答に、聖女はふふふと微笑んだ。
「そうね… 」
そう言って、持っていたセピアの髪に口付けをした。
「私が創造主ならセピアと幸せになる世界を創るわ…ね」
「幸せ…かぁ…」
そう呟くセピアは、遠い目をする。




