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「ご機嫌麗しく…プリシカ王国の若き太陽、オール・ソヴァール殿下」
早急に身を整えたセピアは、オールに挨拶の口上を述べる。
そして、右手を胸に当て左手でスカートを持ち広げ、頭を下げた。
王族への礼をする為に立ち上がったセピアの横で、広げた布切れの上に手を付いたままの聖女は、不服そうな目を王息に向ける。
金髪の美しい美少年。
目は母親譲りの薄茶色で、父王の金に近い茶色とは少し違う。
すらりと伸びた手足は、剣術を得意とする者の体には見えず、油断を誘うが…運動は全般得意だった。
今、聖女が攻撃魔法を繰り出したところで、防がれて腰にある剣が聖女の喉元へ添うだろう。
聖女は攻撃しないし、オールもしないが、それほどまでに彼の剣の腕前は凄かった。
そして、二人とも王の下、同じ位置に位を置く。
聖女はオールを、追いやる事は出来ない。
セピアの座っていた場所には温もりが残っていたが、ふわりと風が一吹きするとそれも消えてしまう。
オールの目は、セピアの手の下から出ている、緩んで風になびくリボンに向いていた。
「堅苦しい挨拶はいい…セピア嬢」
風で揺れ、太陽の日を受けて輝く髪を、綺麗だなとセピアは眺めていたが、怪訝そうな顔のオールの視線に気付き、慌ててリボンを結び直した。
(あぁ。また、誤解される…)
セピアは焦る。
『侯爵家のセピアは聖女とただならぬ関係だ』
そう、巷で噂されているのだ。
それでなくとも、王息の婚約者としてのセピアは注目を集める対象で、やっかみも多い。
『王室は婚約破棄を考えている』
そんな囁きも耳に入っていた。
(私は殿下と釣り合わない)
ちらっとオールの後ろに立つ、四人の聖人を見る。
紅い髪が短く切られ、スッキリとした爽やかさを醸し出している、紅い目の火の聖人。
ロホ・デア。
本来なら強い彼女は護衛になるはずだが、オールはそもそも強いので、もっぱら監視役になっている。
短髪で男性的な見た目から、本を読むとは想像されにくいらしく、珍しく本の話で盛り上がれるセピアとは仲が良い。
今も仕事中にも関わらず、密やかに指先をひらひらと動かし挨拶を送って来る。
その隣に、空の様に澄み切った青い長髪を、みつあみにして腰元で揺らしている、深い青の目をした水の聖人。
アスール・トレチャー。
彼は懐に隠している酒を、飲みたそうにうずうずしていた。
ロホに視線で咎められている。
よく言えば陽気で気が楽な人間だが、悪く言いうと軽い。
未成年のセピアに「呑むか?」と言っては、ロホに殴られていた。
アスールの隣に、マホン・クリヒカが居た。
彼女は濃い緑の目と髪をしている。
クルクルと曲がる髪質を、後ろの高い位置に一つ括りで縛っていたが、風に揺れると首筋に当たるのが痒いといつもぼやいている。
ここに居る七人の内、彼女だけ肌が褐色で髪の色と相まって、しなやかで美しい木の様に見えた。
マホン自身、木と土の魔法を使う土の聖人なのだから、見た目通りだった。
最後の聖人は…三人から一歩下がった位置に立って、あくびを頻りにしている。
風の聖人のブラン・ナーダだ。
聖女と同じく、腰よりも下に髪を伸ばしているが、聖女の銀髪に比べ灰色に近い。
目も灰色に近く、瞳と白目部分との大差がなく分かりづらい。
その為、目を開けたまま子供と対峙すると絶対と言えるほど子供に「怖い」と泣かれてしまう。
聖女を筆頭に、四人共魔法の高位者である聖人だ。
それぞれの美しさを持っていた。
本来、オールの婚約者は公爵家から選ばれるはずだった。
しかし、公爵家に年頃の子が居らず、釣り合う家柄として三つの侯爵家が上げられ、その中の数いる女子からセピアが婚約者に選ばれた。
多種多様な髪色と目を持つプリシカ王国で、セピアの黒髪と黒い目は珍しい。
が、地味だった。
(しかも、皆とは違って丸顔で…美人じゃない…)
そんな自分が、王国の王になる者と結婚する。
相応しくないと言う周りの声に、セピアは同意的だった。




