表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
逃亡者の行く先

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/67

2

水が視界から消えると、セピアは見知らぬ部屋に居た。

馬車の預り所にある馬小屋よりも狭く、暗い。


その場所に、食器の入った棚と小さな机、ベッドが一つずつ。

たった一人だけが生活するにも狭い空間に、収められていた。


馬屋の番頭ですら、もう少しマシな部屋に住んでいる。

しかしそれが、聖人の一人であるアスールの家だった。


「ベッドの上に腰かけててくれ」


済んだ川の様な美しい髪が、到底部屋に似合わない。

が、棚からグラスを取る仕草が、アスールにとって慣れた、生活空間なのだと分かる。


「ほい」


いつもの様に手渡してくれるが、セピアは受け取る気になれなかった。

それに、ベッドにも上がりたくない。


「警戒してるね…」


笑いながらアスールは掌に、ふっと息をかけた。

小さな水の塊が、魚に変わると空を泳いでいく。

血を使う、あの招集魔法だ。


「迎えが来るまでここで我慢して」

「ここは?」

「俺んち。想像つかなかったろ?こんなボロ屋に住んでるって」

「お金が…無いの?」

「ははは。そう思うかい?」


セピアの拒んだ水をアスールは飲んだ。

聖人には生活や娯楽の為の金が、国から出ている。

他国に移動されない為のモノだ。


城下町の人達に奢る金で、消えている訳では無い。

装飾品の買い漁りでもない。

アスールは至ってシンプルな服装に、ピアス一つだけだ。


「じゃあ何故」

「こいつにはここがお似合いなんですよ、セピア嬢」


一瞬で水が湧き起こり、その中からブラッド卿が現れた。

セピアは思わず、通称であるブラッドの名を口にしかけたが、例え自分より下の位であっても、貴族に対してマナー違反だ。


「アーテル子爵が、どうしてここへ?まさか、教皇様が?」


怯えるセピアがアスールより更に後退し、壁に背をくっ付けた。

それに対して、薄ら笑いを浮かべたブラッド卿が「いやいやいや」と否定した。


「教皇様は関係ないですよ。アスールの知らせで参りました」


小さな女の子に話しかけるような、柔らかな口調ながらも、ブラッド卿からは節々に見下しの気配がする。

アーテル子爵は、アスールに近寄ると左頬を殴打した。


「きゃあっ」


アスールは机に当たり、音を立てながらよろけた。

セピアは目を瞑り、両手を口元へ動かし身を守る姿勢になる。

無意識の防御反応で、セピアの周りの空気が張り詰めた音がした。


「失礼いたしました…」


殴られたアスールの方が、床に片膝を立て、頭を垂れる。

聖人が子爵に頭を下げるなど、あり得なかった。


「驚かれましたか?コイツは私の甥なんです」


それなのに頭が高い。と、アスールを見下ろすアーテルは、ブラッド卿と比喩される赤黒い髪をかき上げ、満足げに笑った。


「甥だからって…」

「いえ、躾けは大事なんですよ。我が国では」

「我が国?」


プリシカ王国はこんな事しない。と、セピアは思う。

その考えを読んだかのように、アーテルは「この国じゃありません」と言った。


「ノワールこそ、わが祖国…」


驚くセピアに「貴女もでしょう?」と続けた。


「先祖が…でしょう」

「いえいえ、貴女は騙されている。貴女は我が国の人間だ」

「お父様達は…このプリシカ国の侯爵よ」

「そこだよ。あの人達に貴女は騙されている!」

「何ですって…子爵が…当主とは言え、侯爵令嬢に対して無礼よ」

「貴女は侯爵家の令嬢ではない」

「何を言うの!?」


セピアは胸を痛ませた。

いつも外見から親子ではない。と言われ続けた傷が、更に刃を突き立てられ抉られる気がした。


「貴女は赤子の時にソレイユ侯爵に拾われた、ノワール国の人間だ」


セピアは信じられない物を見る様に、アーテルの顔を見た。

そして、その下に跪いたままのアスールを。


「本当なんだ…セピア嬢…」


アスールの言葉に、セピアは足元から何かが崩れて落ちる気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ