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「どうして…なの?」
抱えられたセピアは、アスールにも事情があるのかと問う。
(事情があっても…勇さんを殺した事に変わりはないけど…)
アスールは腕の中のセピアに顔を向けると、そっと目尻に流れる涙に指先で触れた。
優しい感触だった。
「ホントはさ、バレない様にしたかったんだけどな」
『破裂』させた殺し方も、バレない様にする為だった。
「馬車も…アスールさん?」
「あれも…そうだな。様子見たくて…でも」
アスールは左頬に手を当てる。
「急かされたしな」
「誰かからの命令なの?」
「…」
「それなら…」
「無理だ。無理なんだよ…セピア嬢…」
アスールの目は皆に向けた冷たい目ではなく、悲し気な目に変わっていた。
「何がっむ…」
アスールが突然セピアの髪をぐっと掴み、上を向かせた。
そして、口が半分開いた状態のセピアに口付けをした。
「「セピアァ!!」」
その光景を目の当たりにしたオールと聖女が、驚愕と怒りの入り混じった悲鳴を上げた。
「ふっぐっぅ…んん」
セピアは必死で抵抗するが、アスールの口と体が離れない。
にゅるっとした自分のではない舌が、自分の舌に絡み付く。
(嫌だ)
「止め…離…」
空中で抵抗するが、普段は軽い調子のアスールも男だ。
力では勝てない。
全力で離そうとしても、アスールの体はびくともしなかった。
(止めて…お願い…)
下にいる、聖女やオールの視線が自分達に注がれているのが分かる。
くちゅっ。
音が鳴る度に羞恥心と怒り、情けなさが込み上げた。
しかし、セピアはアスールに身体は抱えられ、頭も押さえつけられている。
絡み合う舌が吸われ、息がし辛い。
横に少しでもズレようと、精いっぱい足掻くがアスールもまた動いてしまう。
唇の暖かさと、舌の温さが、自分の冷えた口の中をかき混ぜる感触に、セピアは大声で泣きたくなった。
涙はさっきから止めどなく溢れるが、その意味も自分への涙に変わる。
(いや…離して…)
口の中でアスールの唾液と、自分の唾液が混じるのが分かる。
何とも不愉快で気持ち悪い。
助けようとする五人の魔法が、横を掠めていく。
(もう止めて!!)
パキンッ。
何かが割れるような音がした。
「グッふ…」
二人の体が空中で揺らぎ、落下し始める。
アスールの口から血が流れていた。
「やる…ねぇ…」
悠然と口元を拭く。
絨毯と接触しかけた所で、アスールは態勢を立て直していた。
態勢が立て直せていなくとも、床に激突は避けられていただろう。
マホンの出した木が二人を受け止める体制になっていたが、アスールはその木を蹴り上げ、もう一度空中に飛行した。
抱えられたセピアの瞳から零れ落ちた雫が、絨毯の上に跳ねる。
「ふざけんな!アスール!何をして居るのか分かって居るのか!」
オールが珍しくキレ、粗暴な言葉遣いをしていた。
横に居る聖女やロホ達も、怒りで顔を赤くしている。
聖人達が飛翔魔法で、アスールに距離を詰め始め、聖女とオールも聖人達と共に、アスールを囲む様に飛ぶ。
「セピアを返しなさい」
「セピア嬢を離せ」
いつでも攻撃できるのだと、オールと聖女が構えた。
「今なら半殺しで済ませるわ」
聖女の腕に光が集まり始める。
手加減をしている様には、見えなかった。
「「セピアを返せ」」
オールの手に聖女とは違った色の光が集まる。
青や黄色、緑や赤が混じっている。
「へー。本気だねえ」
アスールは笑うが、肺辺りが痛む顔をする。
「折れた肋骨…肺に少し突き刺さったみたい…」
「君がしたんだよ。セピア嬢」と、責めるような言い草だ。
「離して…」
「駄目だね」
「何する気なの?」
「逃げるよ」
渦巻く水流が、アスールの声で二人を取り巻く。
「止めて!離して!きゃあああああ」
あまりの激しさにセピアは悲鳴を上げたが、助けを求める手も空しく、水に絡め捕られた。
「セピア!」
誰かの必死の声が聞こえたが、それもかき消されていく。
「じゃ。またな」
アスールはオールと聖女に見せつける様に、もう一度セピアの唇にキスをして水と共に消えていった。
「あの野郎…絶対…す」
冷静さを無くした二人は、硬く拳を握りしめていた。




