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顔だけが勇と認識できる物体に、対峙したセピアは悲痛な叫び声をあげた。
最初に出会った、テーブルの上に座っていた、困惑の中の勇。
その後の、自分の腕にしがみ付く勇。
部屋でのお腹が鳴って、恥ずかしそうに笑う勇。
城下町、ブランの家、街で食べた夕食の…魔法に驚き楽しむ彼女の顔が、脳裏に浮かんだ。
(なのに…)
最後に浮き上がったのは、追い出される様に部屋から出て行った時の、何か言いたそうな勇の顔。
(どんな…気持ちだったのだろう…)
勇の顔をした人型を、目の前に浮かせたまま、両手で顔を覆い床にへたり込んだ。
細い手首にプレゼントしたブレスレットが、クルクルと回っていた。
(…もしかしたら…)
手がかりがあるかも知れない。そう考えたセピアは勇の腕に手を伸ばす。
「セピア?」
誰もがその場から動けない。
ただ、セピアのする事を眺めていた。
「これは…収納魔法がかけられたやつなの…」
ロホは知って居るけれど、他の者達は知らない。
「何か…手がかりが…」
誰の目にも明らかな、勇の死因。
魔法での惨殺の手がかりが、何かないかと考えたのだった。
「そうなのか…知らなかったな」
ブレスレットに手を伸ばすセピアの横を、スッと腕が伸びて来た。
誰もが立ち尽くしている状況で、セピアの目に入ったのは流れる様に美しい青い髪。
アスールだった。
ふわりと浮かぶ彼の手に、ブレスレットが握りしめられている。
いつものお茶らけた表情とは打って変わって、冷たい表情をしていた。
「アスールさん?」
「これ、どうやって中身出すんだ?」
「…念じるだけ…よ」
アスールが何をするか分からないが、セピアは聞かれたままに答えた。
「そうか」
掌でぎゅっとブレスレットを掴むと、勇の来ていた制服がバサバサと音を立て落ちた。
その上に王室のエンブレムが落ちた。
馬車に付いていた物と同じ物。
「セピア嬢が倒れた時に持っていた物だ」
オールがそれを帰った時の記念に欲しいと言われ、あげたのだと言う。
「…」
アスールがオールを一瞥したが、いつもとは違い冷たいままだった。
(一言でも…言ってくれないのね…)
今、そんな時では無いと思いながらも、セピアは自分が持っていた物を女性に渡すオールに、チクリと心が痛んだ。
「…後は…」
アスールが最後のオパールを握りしめた。
物は落ちて来なかった。
「やっぱ、取られてたか…」
アスールの手に細いチェーンが見えた。
「…取られてたって…もしかして…あなた」
ロホが愕然とした顔をした。
「アスール!!」
オールの声に、マホンとブランが身構える。
「お前がやったのか!」
怒りと軽蔑を露わにしたオールが、アスールに叫んだ。
悠々と浮かぶアスールは、そんなオールを見て笑みを浮かべた。
「お前、自分が何をしたか分かって居るのか?勇者を殺して…」
ブランの震える声が絶望を示していた。
アスールはそれも意に関しない様に笑う。
「邪神が目覚めたら終わりなんだぞ」
「聖女が居るだろ?」
「…半年前発見された書物には…書かれていた」
ブランの拳が震える。
「…が、禁書の中には勇者の事しか書かれてなかったんだ」
「へぇ…」
「だから…研究者は…解読を…」
悔しそうな表情を浮かべるブランを、アスールは馬鹿にした様に笑い飛ばした。
「ご苦労な事で」
「アスール!お前!」
マホンがアスールに向けて、木の束縛魔法を放つが躱されてしまった。
「まあ、ブランと王様のおかげで召喚は成功して、覚醒は促された…」
アスールが感謝していると笑いながら、手に持っていたチェーンの付いた何かを懐に仕舞う。
セピアには一瞬、それがネックレスに見えた。
「ありがとな」
アスールの周りに水が浮かぶ。
転移する気だった。
「じゃあな」
アスールはそう言うと、ヒョイっとセピアを右脇に抱えた。
(え?)
「セピアを離しなさい!」
瞬時に、聖女の怒声と共に魔法が放たれたが、間一髪でアスールは身を翻す。
「「セピアを離せ」」
オールと聖女が同時に魔法をかける。
しかし、それも身を翻し避けた。
「何でこんな事をするの!?」
ロホが立ち上がり、オール達に加勢する。
アスールの周りには炎が渦巻き、マホンの木がアスールの脚を捕まえようと右往左往している。
だが、どうにも捕まえられない。
セピアの存在が、全力での攻撃を躊躇させていた。
「仕方ないんさ」
セピアに当たらない様に攻撃を躱しながら、アスールが呟いたのをセピアは聞いた。




