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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
優しく甘い夢の後

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3

「今回、聖女様が封印を解いちゃったんだけど…」


ロホが話を続ける。


「お咎めはないわ」


セピアはホッとする。

内心、王の姪であり聖女である…とは言え、勝手な事をしたのだ、謹慎くらいはさせられるのかと考えていた。


「強いとは言え、聖女一人の力で封印が解けるって事は解けかけていた。って事が考えられるらしいの」

「そうなの?」

「えぇ。いずれはあなたの力の方が勝って…もしかしたら、聖女が解かなくても遅かれ早かれ…」


兆候は有った?とロホが聞くので、セピアは考えてみた。


「分からない…けど、何だろう不意にお腹が熱く感じる時は有ったわ」

「それ、かしらね?」


自分を呼ぶ知らないモノの声については、ロホに言えなかった。


(幻聴は…ちょっと…言い辛い…)


昨日の夜に聞こえた声は、伏せておいた方が良い。と、直感する。


「まあ、何にせよ。あなたが元気そうで何よりよ」


ロホが微笑むと、セピアも気が軽くなる。

今は身体すら軽い。


「そう言えば勇さんは?」

「部屋じゃないかしら?」

「…大丈夫かしら。昨日の光とか騒動で驚いてない?」

「今日はまだ会って居ないのよ、あなたの護衛だったし、誰かは付いてると思うけど…」

「当番制だったわね」

「えぇ」

「誰かしら」


セピアの問いにロホが考え込む。


「マホンは…王息の所だし…アスールでもない…わ」

「じゃあロホ?」

「私はあなたの護衛が優先よ」


(と言う事は…)


「聖人は誰も付いていない?」

「…わね」

「…大丈夫かしら」

「護衛は居るでしょうし…教皇派も嫁にって言ってるから…身の危険は無いと思うわ」

「寂しがってないかしら…」

「準備したら、朝ご飯にでも誘ってみましょ」


ロホが軽くウィンクした。

身支度を整えた二人は、メイドに朝食の準備をお願いして、勇の部屋へ誘いに向かう。

しかし、何度ノックしても返事が返って来なかった。


「変ね。もう食べに行ったのかしら…それとも出かけたのかしら?」


ロホがドアの向かいに立つ護衛達に「ちょっと」と声をかけた。


「勇は?部屋に居ないの?」


聖人に話しかけられた護衛達は、ピシッと背筋を伸ばし敬礼した。


「そんなの良いから…勇は?」

「はっ!」


掛け声の後、発言を失礼いたしますと、護衛が続ける。

聖人が「良い」と言っても、守らねばならない規則がある。


「勇様が外出した形跡は有りません」

「そうなの?」

「はい。お姿は見て居りません」


二人は昨夜、騒動後からここにずっといると言う。


「交代はもうすぐですが…」

「目を離した瞬間に…とかは?」


ロホの言葉と視線に、二人がビックっとする。

が、胸を張り直す。


「ありません。どちらかは必ず居りますので」


トイレに立つとしても、どちらかが居り、居眠りなどもしてはいないと断言した。


「じゃあ…まだ寝てるのかしら」

「我々は確かめられませんので…」


護衛達が少し困った顔をした。


「いいわ。私達が確かめる」


セピアがドアノブに手をかけた。

鍵は閉まっている。


「合鍵ってあるのかしら」

「我々は持って居りません」

「じゃ、転移魔法ね」


ロホがガシッとセピアを掴んだ。

その瞬間、炎が周りを包む。

目を開けると、見えたのは紅い色だった。


(あれ?まだ…転移中?)


セピアは自分を掴む腕の先、ロホの顔を見た。

彼女は目を見開き、衝撃を受けた顔をしている。


「どうしたの?」

「…」


あまりのショックに固まるロホを見て、場所でも間違えたのかと、セピアは辺りを見回した。

電気の点いていない暗い部屋。

窓にかかったカーテンの隙間から、差し込む光で見えたのは紅い…紅い部屋だった。


カーテンも以前の薄黄色の色を下に見せているが、半分から下が赤黒い。

光に浮かぶベッドの天蓋も、床の絨毯も紅い。


(床の絨毯は赤だったかしら…)


よく見ると真ん中辺りにカーテンと同じく、赤黒い物が広がっている。


(暗くて…分からない…)


セピアの思いに応える様に、カーテンがシャッと開かれた。

部屋の電気も同時に点く。


「え…?」


煌々と照らし出された室内は、絨毯の上で水風船が落ちて割れた時の様な跡があった。


「セピア!!」


ロホがセピアの目を塞いだ。


「セピア…」


セピアを抱えたロホの腕や声が、震えていた。

よろける足元で、液体が水音を立てる。


セピアの閉じられた瞼の裏に、焼き付いた…紅色。

破裂した水風船…それは紅い液体と赤みを帯びた固形を、辺りに撒き散らし、部屋を染め上げていた。


そして、その真ん中。

飛び散った皮や肉の中心から少し外れた場所に、太陽の光を反射する物が落ちている。

セピアが勇に送ったブレスレットだった。

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