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「今回、聖女様が封印を解いちゃったんだけど…」
ロホが話を続ける。
「お咎めはないわ」
セピアはホッとする。
内心、王の姪であり聖女である…とは言え、勝手な事をしたのだ、謹慎くらいはさせられるのかと考えていた。
「強いとは言え、聖女一人の力で封印が解けるって事は解けかけていた。って事が考えられるらしいの」
「そうなの?」
「えぇ。いずれはあなたの力の方が勝って…もしかしたら、聖女が解かなくても遅かれ早かれ…」
兆候は有った?とロホが聞くので、セピアは考えてみた。
「分からない…けど、何だろう不意にお腹が熱く感じる時は有ったわ」
「それ、かしらね?」
自分を呼ぶ知らないモノの声については、ロホに言えなかった。
(幻聴は…ちょっと…言い辛い…)
昨日の夜に聞こえた声は、伏せておいた方が良い。と、直感する。
「まあ、何にせよ。あなたが元気そうで何よりよ」
ロホが微笑むと、セピアも気が軽くなる。
今は身体すら軽い。
「そう言えば勇さんは?」
「部屋じゃないかしら?」
「…大丈夫かしら。昨日の光とか騒動で驚いてない?」
「今日はまだ会って居ないのよ、あなたの護衛だったし、誰かは付いてると思うけど…」
「当番制だったわね」
「えぇ」
「誰かしら」
セピアの問いにロホが考え込む。
「マホンは…王息の所だし…アスールでもない…わ」
「じゃあロホ?」
「私はあなたの護衛が優先よ」
(と言う事は…)
「聖人は誰も付いていない?」
「…わね」
「…大丈夫かしら」
「護衛は居るでしょうし…教皇派も嫁にって言ってるから…身の危険は無いと思うわ」
「寂しがってないかしら…」
「準備したら、朝ご飯にでも誘ってみましょ」
ロホが軽くウィンクした。
身支度を整えた二人は、メイドに朝食の準備をお願いして、勇の部屋へ誘いに向かう。
しかし、何度ノックしても返事が返って来なかった。
「変ね。もう食べに行ったのかしら…それとも出かけたのかしら?」
ロホがドアの向かいに立つ護衛達に「ちょっと」と声をかけた。
「勇は?部屋に居ないの?」
聖人に話しかけられた護衛達は、ピシッと背筋を伸ばし敬礼した。
「そんなの良いから…勇は?」
「はっ!」
掛け声の後、発言を失礼いたしますと、護衛が続ける。
聖人が「良い」と言っても、守らねばならない規則がある。
「勇様が外出した形跡は有りません」
「そうなの?」
「はい。お姿は見て居りません」
二人は昨夜、騒動後からここにずっといると言う。
「交代はもうすぐですが…」
「目を離した瞬間に…とかは?」
ロホの言葉と視線に、二人がビックっとする。
が、胸を張り直す。
「ありません。どちらかは必ず居りますので」
トイレに立つとしても、どちらかが居り、居眠りなどもしてはいないと断言した。
「じゃあ…まだ寝てるのかしら」
「我々は確かめられませんので…」
護衛達が少し困った顔をした。
「いいわ。私達が確かめる」
セピアがドアノブに手をかけた。
鍵は閉まっている。
「合鍵ってあるのかしら」
「我々は持って居りません」
「じゃ、転移魔法ね」
ロホがガシッとセピアを掴んだ。
その瞬間、炎が周りを包む。
目を開けると、見えたのは紅い色だった。
(あれ?まだ…転移中?)
セピアは自分を掴む腕の先、ロホの顔を見た。
彼女は目を見開き、衝撃を受けた顔をしている。
「どうしたの?」
「…」
あまりのショックに固まるロホを見て、場所でも間違えたのかと、セピアは辺りを見回した。
電気の点いていない暗い部屋。
窓にかかったカーテンの隙間から、差し込む光で見えたのは紅い…紅い部屋だった。
カーテンも以前の薄黄色の色を下に見せているが、半分から下が赤黒い。
光に浮かぶベッドの天蓋も、床の絨毯も紅い。
(床の絨毯は赤だったかしら…)
よく見ると真ん中辺りにカーテンと同じく、赤黒い物が広がっている。
(暗くて…分からない…)
セピアの思いに応える様に、カーテンがシャッと開かれた。
部屋の電気も同時に点く。
「え…?」
煌々と照らし出された室内は、絨毯の上で水風船が落ちて割れた時の様な跡があった。
「セピア!!」
ロホがセピアの目を塞いだ。
「セピア…」
セピアを抱えたロホの腕や声が、震えていた。
よろける足元で、液体が水音を立てる。
セピアの閉じられた瞼の裏に、焼き付いた…紅色。
破裂した水風船…それは紅い液体と赤みを帯びた固形を、辺りに撒き散らし、部屋を染め上げていた。
そして、その真ん中。
飛び散った皮や肉の中心から少し外れた場所に、太陽の光を反射する物が落ちている。
セピアが勇に送ったブレスレットだった。




