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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
優しく甘い夢の後

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1

セピアの身体が聖女の吐息に反応し、ピクンと動く。

銀色の髪が流れ落ち触れる度、お腹がくすぐったいが、スッと力が抜けていく。

お風呂上がりの火照りやオイルの芳香、そして脱力感でフワフワとして気持ちが良い。


こくん。と、聖女の喉が鳴った。

うっとりとしたセピアは、妙に艶めかしく見える。

薄目を開けたセピアは、視線を聖女に向けた。


「眠い?」


瞳に掛かる乱れたセピアの前髪を、聖女は指先で避け微笑む。


「少し…」


黒い瞳が潤んで、部屋の灯りを反射させていた。

オイル瓶を手に取り、浮き上がる鎖骨や白く丸みのある胸へ少量落とすと、自分の治癒力をオイルに混ぜ、広げていく。


「痛くない?」

「はい…」


静かな夜に、二人の会話は必要なかった。

セピアは聖女に身を任せ、聖女はセピアの身体をマッサージし続ける。


華奢な肩を滑る細い指先には、せめて重荷が軽くなる様にと願いが込められていた。

柔らかい二の腕の感触は、次を進める手を引き留めてしまう。


補助魔法具の腕輪が光る手首は、少し痩せてしまったのか金属との間に隙間が出来ていた。

形の良い胸を、聖女は潰さない様に優しく撫で上げる。


ゆっくりと深く上下する腹部で、安心しきって居る事が分かる。

そして、細く引き締まったウエストが、セピアの努力を垣間見せた。


「足に触れるわよ?」

「…は…い…」


セピアはもう、半分寝に落ちている。

白い下着から見えている太ももは、力を少し加えた指の腹を押し返す。

ベビーピンクの膝が、愛おしい。

脹脛、踵、足の甲や裏まで、丹念に傷や疲労が無い様に、最新の注意を払う。


本来ならば、聖女が奉仕などしない。

だが、聖女にとってこの時間は至福の時だった。


「いきなり封印を解いて…ごめんなさいね」

「聖女様…?」

「慣れなくて…苦労はすると思うの。でもね…」


セピアが自分を責め、卑下するのを聖女は見ていられなかった。


「大丈夫です…でも…」


眠そうな目をこすりながら、セピアは先程、応接間の聖女と王の会話を聞いてしまった事を聖女に伝えた。


「探知魔法的な物かしら」

「そう…だと思います」

「制御を身につけないとね」

「申し訳ありません…盗み聞き…を」

「いいのよ。いつかは誰でも分るもの」


聖女はセピアの後頭部を、優しく撫でた。


「制御は貴女の為に、身に着けるのよ」


聞きたくない事、知りたくない事、攻撃的な事から自身を守る為に。と、聖女はセピアを諭す。

が、寝息を立て始めたセピアに、言葉は届いて居ない。

それでも、聖女は撫でる手を止めなかった。


セピアを抱きしめたい衝動が、無い訳では無かった。

しかし、信頼を裏切る事も出来ない。


もどかしい気持ちが溢れるが、この時間、自分だけがセピアを独占できる事が嬉しかった。

黒髪に触れキスをする。

閉じられた瞼と、黒く長いまつ毛にも触れたいが、そこは起こしてしまうからと我慢した。


聖女は、裸のままセピアを寝かせている事に気が付いた。

セピアの身体を、魔法でふわりと宙に浮かせるとメイドが持って来ていた服を、眠り無力なセピアに着せる。

そして、またベッドへゆっくり下ろす。


丁寧に、宝物を扱う様な繊細な魔法で、セピアの安眠を守る。

聖女の権限を使えば、劣情を彼女にぶつけ、正当化する事等容易い。

が、そんな事はしたくなかった。


ただ、それでも、いつまでもガラスケースに仕舞われた人形の様に飾るだけでは我慢できない。

それに塵一つ無い状態を保っていても、いつかはガラスケースが破られる。

しかも、自分ではない男の手で。


「悔しいわ…」


聖女の手が固く握られる。


「王位よりも何よりも…」


カリカリと、ドアから何かが引っ掻く音がした。

開けてみると、そこには白猫が鎮座している。

オールだ。


「話がしたい」

「奇遇ね。私もよ」

「…ロホをそっちにやった」

「交代…ね。良いわ。あの子なら信用できる」

「同意見で良かった。では、食堂で待つ」


白猫はそう言って踵を返し、廊下側のドアの横で丸まった。


「いつもいつも…可愛らしいメッセンジャーね…」

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