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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
解かれた封印

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38/67

3

ミシミシっと、木の曲がる音が部屋に聞こえ始め、皆が木の魔法でも使っているのかとマホンを見た。

しかし、マホンは首を横に振り使っていないと主張する。


「じゃあ…この音は…どこから…まさか!」


急いで椅子から立ち上がった聖女が、セピアの居る寝室へ向かう。

それをオールと王も後ろから追いかけた。


「セピア!」


ドアをノックせず乱暴に開けると、セピアを包んでいたマホンの防御魔法が、見る見るうちに膨れ上がっていた。

それは繭の様な、ボールの様な形状で、ベッドを覆いつくしている。


「セピア!」


中のセピアに異常が起きたのだと、不安に駆られた聖女が魔法を解こうとした。

が、聖女の魔法は木を包む何かにはじき返された。


「セピア!…マホン!魔法を消して!」


聖女の声でマホンが先頭に来ると、解除魔法を放つ。

しかし、それもまた通用しなかった。


「どういう事!?効かないなんて!」


自分で出した防御魔法が、自分で解除できないマホンは、酷く動揺した。


「セピア嬢…」

「王!お下がりください!」

「否。オールよ。わしが誤解を解かねばなるまい。お前は下がって居なさい」


進みだした王にオールは止めに入ろうとしたが、逆に制され後ろへ下がる様に言われてしまった。


「しかし!父上!」


久しぶりの父と言う声に、王が薄く笑う。

「いつかは全て…話さねば…な」と消え入る声で呟いたのを、聖女だけが聞いた。


「セピア嬢、落ち着いて欲しい。…セピア嬢」


ミシミシと言いながら、いつはじけ飛ぶか分からない木の繭に、王は手を添えた。


「すまなんだ…言い訳を…聞いては貰えないだろうか」


額を木に付け、中に居るセピアへ王は呼びかけた。

中からの微かな音が、王の耳に入る。

セピアの声だ。


「セピア嬢…すまない。封印はお前を守る為だった」

「…」

「この国を守る為でもあった」

「…」

「強すぎる闇の力を持つお前は…聖人として扱うには幼過ぎた」

「…聖人…?」

「あぁ。お前はここに居る聖人達よりも、魔力が多い。そして攻撃魔法に特化している」

「…」

「その為、他国や悪意ある者に狙われる」

「…両親は知って居るのですか」

「あぁ。お前が赤子の時、両親から相談を受けた」

「…」

「出て来てくれ。話そう…」


王の言葉に応じる様に、木は膨張を止め、静かに黒い消し炭になって消えた。


「お前が悩んでいる事も、他の貴族に心無い事を言われている事も知って居た…」


なのに何もしなかった事を、王は悔やんでいるとセピアに告げた。

しかし、セピアの黒髪と黒い目は、ノワール出身であると同時に闇の魔法が使える証でもある。

この国にノワール出身者が適応できたのは、聖人に匹敵する程の者が居なかったからだと、王は続けた。


「お前の存在が世に出れば、ノワール国の出身である者達に影響が有ると考えた」


騎士や護衛に向く魔法。

それだけ聞けば心強いが、名しか知らぬ閉ざされた国が関われば、国民に疑心が生まれる事が安易に想像できた。


そう言いつつも、セピアには王の内心が透けて見える。

憂う気持ちが無い訳では無い。

だが、国を広げる為、戦争を続けるプリシカ国が、内乱を起こす訳にはいかない。と言う事が、本当の所言いたいのだと。


(これも、封印が解けたから…?)


口では国民の一部に対しての、出身地による差別や迫害を懸念し、もう一方では戦争での勝敗の懸念。


(どっちも両立する考えね…それに…)


あわよくば、セピアを利用しようとする意志も見て取れる。

セピアは目の前の王が、優しいだけの王ではない。と痛感した。


「あぅ…っと、コレって何の騒ぎ?」


重く緊張感が漂う部屋に、突如その空気を破る軽い声が響き渡った。


「…空気を読みなさい」


ロホが遅れてやって来たアスールに呆れながら言うと、アスールはアスールで「へ?」っと、間抜けな表情を返した。

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