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『セピア』
誰かが呼ぶ声がした。
『セピア』
セピアは目を開けると、暗闇の中に居た。
『セピア』
「私を呼んでいるのは誰?」
手を伸ばしたが、何も触れる事が出来ない。
暗闇には誰も居ないのか、自分一人が立っている様な気に、セピアはなった。
『封印は解かれた』
「封印?封印って?…あなたは誰?」
声の主にセピアの声は届いていないのか、ただ無視をして居るのか、答えを返す事はしない。
しかし、セピアの心に力強さが湧き上がる。
痣が有る辺りが、妙に熱い。
「力が…溢れるみたい」
背に置かれていた聖女の手が、今は感じられない。
が、外部からの力よりも…先程まで感じていた聖女の力と同じくらいの強い何かが、体中を駆け巡る。
より内側の、心の内側から、塞き止めるモノが無くなった為に流れ出すのは、セピアの魔力だ。
「私…封印されていたの?」
悩んでいたのが嘘の様に、セピアは魔法が使える気がした。
何も考えず、手や指先を動かす様に、カップに手を添える様に軽く、自然に魔力の流れが分かる。
「あぁ…これで、オール様との婚約に文句を言う人も居ない…」
お披露目会の前に、魔力が戻って良かった。と、セピアは心底思った。
(聖女様が私を助けてくれた)
聖女とリオナの会話が聞こえていたセピアは、両手を胸の前で組み、聖女に感謝した。
自分の自信や思いを取り戻す為に、リオナを気絶させてしまう程の力を使ってくれたのだと。
しかし、その反面。
自分に封印を施した者が居る事を知ってしまった。
それも、リオナは知って居て黙っていた。
「長年お世話して貰って来たけれど…私を裏切っていたのね…」
胸の前の両手が震える。
怒りなのか悲しみなのか。
どちらとも。なのだろう。
「酷い…」
セピアの目から、涙が零れた。
微かに残る魔力で、飛翔魔法しか出来ず、悩んだ毎日をリオナは目の前で見て来た。
心無い言葉が、王や王息に向くのではなく、自分に向くのを横で見て来たはずだった。
「なのに…どうして」
セピアの体中から、魔力と共に黒い感情が立ち上る。
黒い炎の様な形をした感情の気配は、周りの暗闇を更に黒くしていった。
「…あぁ…悲しい。…悔しい。…苦しい…わ」
セピアは両手で胸をぎゅっと掴んだ。
「誰が…私にそうしたの?」
襲い掛かる怒りで、目に力が入った。
そして、願う…『知りたい』と。
「見せて…」
目の前の暗闇が退く様に開けた。
代わりに現れたのは薄く輝く板の様な物だった。
「これは…?」
指先で触れると、映像が見えた。
ベッドの上で寝かされた自分と、その横に立つ聖女とオール、そしてマホンと兵士達。
「これは…『今』なのね…」
セピアは、今現在を魔力で透視していた。
「都合よく過去は見られないか…」
過去を見られたなら、誰が自分の魔力を閉じ込めたのか分かったのに。と、残念に思う。
「話している事は聞けないのかしら?」
映像は動いていたが、誰の声も聞こえなかった。
それもその筈、誰一人口を開いていなかった。
重苦しい空気だけが、その場に流れている。
「今の光は何!?」
ロホが部屋に慌てて入って来た。
「ロホ…勇さんは一緒じゃないのね」
勇の姿は見えなかった。
何が起きたか、分からない為に部屋で待機させているのだろう。
勇の部屋も覗きたいと思ったが、一度に二カ所は現れない。
万能では無いらしい。
(目覚めたばかりだから…かしら?それとも自分の身体が有る所しか見られないのかしら…)
どうやって見ているのかも分からない。
無意識のまま、ただ見たいと思った場所が見えている。
(慣れなきゃ…)
一番見たいと思っている物にフォーカスが当たるのか、聖女達が部屋から出ても、映し出し続けた。
セピアに当てがわれている部屋の、寝室横は応接スペースになっている。
そこへ、椅子が用意され、オールと聖女が対面で座ると、続いて聖女の横にロホが座った。
マホンはオールの後ろに立っている。
護衛の役割を忠実に熟す為だ。
(私の身体は…関係ないのね…)
セピアは手探りで、自分の能力を把握していく。
その時「リオナを」と、聖女が最初の一声を上げた。
「セピアを一人にするのは…」
オールが躊躇った。
「マホンがセピアの体を木の魔法で包んで、防衛を施す事で安全を確保して」
「それなら良いでしょう?」と、聖女が冷たい視線をオールに送ると、マホンは頷き聖女の言葉通り、マホンは防御魔法を施し、リオナを連れて来た。
「話して貰うわよ」
聖女の声に、鋭い剣の様な怒気が感じられた。




