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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
それでも闇は近付いて来る

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5

「大丈夫よ」


聖女が汚れた服を脱がし、紅茶のかかった所に火傷が無いか見る。

少し赤くなった臍の上あたりに、妙な痣の様なモノを見つけた。


「これは?」

「…分からない。気付いたら出来ていたの」

「…炎みたいな形ね」

「えぇ」


元気のないセピアの声に、聖女は自分の事の様に心を痛めた。


「とにかく。入る?それとも拭くだけにする?」

「拭くだけに…」


下着姿のまま、聖女はセピアを台の上に座らせ、布を湯船に浸け軽く絞ると、拭き始めた。

聖女の力で赤みは消えたが、痣だけはどうしても治らなかった。


「無理みたいね…何かしら」

「大丈夫です。痛みは無いので…」

「あら?…セピア。貴女…背中に…これは…」


聖女は、セピアの背中を見て手を止めた。


「…?」

「…いいえ、何でもないわ…なんでも」


そういうと聖女はもう一度、布をお湯に浸けて軽く絞り拭いた。

風呂場から上がると、リオナが服を着る手伝いをする。


「今日はもう休みなさい…。大丈夫よ。庭園はマホンが手入れ担当だから…連れて行くだけよ」


少しの慰めに聖女は言葉を放つが、セピアの頭には嫌な予感しか浮かんで来ない。


「私…」

「馬鹿ね…落ち込まないで」


聖女がセピアを抱きしめる。


(どうしてこんなにも私は…自信が無いのだろう)


涙が溢れる。

背を擦る聖女の手は優しかった。


「オールは貴女を蔑ろにしたい訳じゃないわ…多分」


ライバルに塩を送るのは癪だけど。と、聖女が微笑む。


「ね。セピア。…もしも、魔力が戻ったら…貴女は自信を取り戻すかしら」

「…?」

「いえ、良いの。貴女の魔力が戻ったら…元気になれるなら…それで…」


背に触れている手に光が集中し始める。


「聖女様!?何をされるのです!」


リオナが眩しさのあまり目を細め、声を上げたが、聖女の手は更に光を増す。


「駄目です!!」


リオナが叫んだ。


「お止め下さい!!聖女様!」

「リオナ…貴女知って居たのね?」


セピアは項垂れ、意識が朦朧としていた。

隣で叫ぶリオナと聖女の会話は、辛うじて聞こえている。


「知って居ます!だから!!」

「何故!?誰がセピアにこれを施したの!!」

「それは言えません!ですが!お止め下さい!」

「これがこの子の自信の無さに…彼女を…セピアを傷付けているのよ!?」

「ですが!!あっ!!!」


目も眩む程の閃光が、周りを包む。

その光でリオナは意識を失い、セピアの横で倒れた。


「この光は何だ!!」


部屋のドアが荒々しく叩かれるが、セピアは動けなかった。

聖女もまた、部屋を開ける事はしない。


「開けろ!!セピア!」


オールの声がドアを叩く音と一緒に響いた。


「セピア!開けてくれ!」

「失礼します!」


マホンが魔法を使う。

木のドアが、みるみる内に変形し、隙間が空いた。


「セピア!」

「オール様!」


マホンの止める声も聴かずに、オールはドアの隙間に無理やり手を突っ込む。

そして、少し引くと入れるスペースに体を押し込んだ。


「セピア!無事か!?」


オールの目の前には、倒れたリオナの横に座るセピアと聖女が居た。

セピアは意識が無いのがハッキリと分かるぐらい項垂れ、聖女の肩に顔を乗せ、両手もダラリとぶら下がっていた。


「セピア!」


かけ寄るオールに、聖女は首だけ振り向き「静かにして」とだけ言った。

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