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「そう…なのかしら」
ぎこちなくセピアは言葉を返す。
男尊女卑で、女は酷い目に遭うと知ったら…髪や目の色で扱いが天地の差が出ると知れば、勇はこんな風に笑えるのだろうかと、セピアは考えた。
「男の人とかはどうなんでしょうね。…あ…」
勇が何やら思い出し、慌てた様子になる。
「どうかした?」
ロホが聞くと、勇は頭を掻きながら申し訳なさそうな顔をした。
「あの…すみません。あまり国を比較したり男女に決めつけは良くないんですよね…」
「どうしたの?」
「いえ、さっきアスール様に…」
性差が有るのは当たり前だが、性別での決めつけは良くないし、あまり良いイメージの無い他国と自身の国を『似ている』と言わない方が良いと軽く注意を受けたのだと、勇は言う。
「そうよ。男だから女だから。なんておかしいモノ」
聖女がジロリと勇を睨んだ。
「王様がそういった性別でくくらない国、出身国で人の扱いが決まらない国を目指してるのよ。アスールはそれが言いたかったんじゃないかしら?」
ロホがフォローに回る。
魔力や魔法でも、劣る人は道具を使えばいい。そんな平等な考え方が王なのだと誇らしげにロホは胸を張る。
「貴族の中にはそう考えてないのも居るわ」
「…それは…そうね。王様の悩みの種よ」
ロホが聖女の言葉を受けてシュンとした。
「悩みねぇ…」
聖女は鼻で笑う。
「命令したら良いのに。彼それをしないじゃない」
「それは、意思を曲げさせる事になるからでしょう!」
「ただの良い訳よ。妄信されている本人が一言『魔力も魔法も無くていい』と言えばセピアは守られるわ」
セピアはドキッとした。
確かに王はその一言を言わない。
だからこそ「王は『本当は婚約に反対』では無いか」と言う貴族が居る。
(なんの為に私にしたのだろう)
『…貴方にも親心が有るんですか…?』
あのオールの言葉は、共に過ごした時間の短さに対してだけでなく、王が押し付けたこの婚約に対しての物でもあるのだと、セピアは感じていた。
(王が私を選んだ。その意味は…?)
「そ!そんな事より!」
セピアの顔が暗くなるのを察した勇が声を上げる。
「そんな事ですって?」と聖女の顔が代わりに曇るが、ロホが聖女を無視して話を続ける様に促す。
「今度、王子様が庭園を案内してくれるそうなんです!」
(王子…オール様の事ね…慣れないわ…)
「はぁ?王子って誰よ」
眉間に皺を寄せたまま、聖女が聞く。
「オール様の事です。勇さんの世界では王子と言うらしくて」
「王息で良いじゃない」
聖女は呆れ顔でムスッとした。
(だけど…庭園って…)
「勇?そうなの?私聞いてないわ…」
「はい。マホン様とご一緒の時にお会いして。気分転換にどうかと聞かれまして」
「…マホンの時…ね。ちなみにどこの庭園か聞いた?」
セピアの耳元で、心臓の鼓動が激しく打つ。
(あぁ…嫌…聞きたくない…気がする…)
「王城の庭園ですよ」
ガシャン。
セピアの手からカップが離れ、紅茶をドレスに撒き散らしながら床に落ち割れた。
「「セピア!」」
ロホと聖女が同時に声をあげ、勇の小さな悲鳴が部屋に響いた。
その声にリオナが駆け付けて来る。
「大丈夫よ」
布で拭きながら、火傷の有無を心配するリオナに応える。
が、その顔は青ざめていた。
「大丈夫…」
冷たくなった心から上がって来る言葉は、自分に言い聞かせる様な音をしていた。
「セピア様…」
勇の声に反応するかの様に、セピアの心に黒い感情が湧き上がってくる。
グッと押さえ込もうとすればする程に、目に涙が溢れだした。
(泣きたくない…)
「セピアは具合が悪いの。今日はもう帰って」
セピアの震える手を聖女が握る。
「そうね。…セピアを頼むわ…聖女様」
察したロホが、現状を把握できずにいる勇を引き摺る様に連れて、部屋を出た。
「あの…えっと」と何か言いたそうな勇の目前で、扉は閉まる。
「セピア…ともかく、服を着替えましょう…」
リオナは服を用意し、セピアを支える聖女を風呂場まで案内した。
すぐに暖かい湯が浴槽に張られ、湯気が立ち上る。
「王城の…庭園…」
ポツリと呟くと、セピアの頬に涙が一筋流れた。
王城の庭園は特別な場所で、王息の婚約者であるセピアですら入った事は無い。
王妻か王息妃にならないと入れない場所だった。
(あぁ…胸が…痛い)




