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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
それでも闇は近付いて来る

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4

「そう…なのかしら」


ぎこちなくセピアは言葉を返す。

男尊女卑で、女は酷い目に遭うと知ったら…髪や目の色で扱いが天地の差が出ると知れば、勇はこんな風に笑えるのだろうかと、セピアは考えた。


「男の人とかはどうなんでしょうね。…あ…」


勇が何やら思い出し、慌てた様子になる。


「どうかした?」


ロホが聞くと、勇は頭を掻きながら申し訳なさそうな顔をした。


「あの…すみません。あまり国を比較したり男女に決めつけは良くないんですよね…」

「どうしたの?」

「いえ、さっきアスール様に…」


性差が有るのは当たり前だが、性別での決めつけは良くないし、あまり良いイメージの無い他国と自身の国を『似ている』と言わない方が良いと軽く注意を受けたのだと、勇は言う。


「そうよ。男だから女だから。なんておかしいモノ」


聖女がジロリと勇を睨んだ。


「王様がそういった性別でくくらない国、出身国で人の扱いが決まらない国を目指してるのよ。アスールはそれが言いたかったんじゃないかしら?」


ロホがフォローに回る。

魔力や魔法でも、劣る人は道具を使えばいい。そんな平等な考え方が王なのだと誇らしげにロホは胸を張る。


「貴族の中にはそう考えてないのも居るわ」

「…それは…そうね。王様の悩みの種よ」


ロホが聖女の言葉を受けてシュンとした。


「悩みねぇ…」


聖女は鼻で笑う。


「命令したら良いのに。彼それをしないじゃない」

「それは、意思を曲げさせる事になるからでしょう!」

「ただの良い訳よ。妄信されている本人が一言『魔力も魔法も無くていい』と言えばセピアは守られるわ」


セピアはドキッとした。

確かに王はその一言を言わない。

だからこそ「王は『本当は婚約に反対』では無いか」と言う貴族が居る。


(なんの為に私にしたのだろう)


『…貴方にも親心が有るんですか…?』


あのオールの言葉は、共に過ごした時間の短さに対してだけでなく、王が押し付けたこの婚約に対しての物でもあるのだと、セピアは感じていた。


(王が私を選んだ。その意味は…?)


「そ!そんな事より!」


セピアの顔が暗くなるのを察した勇が声を上げる。

「そんな事ですって?」と聖女の顔が代わりに曇るが、ロホが聖女を無視して話を続ける様に促す。


「今度、王子様が庭園を案内してくれるそうなんです!」


(王子…オール様の事ね…慣れないわ…)


「はぁ?王子って誰よ」


眉間に皺を寄せたまま、聖女が聞く。


「オール様の事です。勇さんの世界では王子と言うらしくて」

「王息で良いじゃない」


聖女は呆れ顔でムスッとした。


(だけど…庭園って…)


「勇?そうなの?私聞いてないわ…」

「はい。マホン様とご一緒の時にお会いして。気分転換にどうかと聞かれまして」

「…マホンの時…ね。ちなみにどこの庭園か聞いた?」


セピアの耳元で、心臓の鼓動が激しく打つ。


(あぁ…嫌…聞きたくない…気がする…)


「王城の庭園ですよ」


ガシャン。


セピアの手からカップが離れ、紅茶をドレスに撒き散らしながら床に落ち割れた。


「「セピア!」」


ロホと聖女が同時に声をあげ、勇の小さな悲鳴が部屋に響いた。

その声にリオナが駆け付けて来る。


「大丈夫よ」


布で拭きながら、火傷の有無を心配するリオナに応える。

が、その顔は青ざめていた。


「大丈夫…」


冷たくなった心から上がって来る言葉は、自分に言い聞かせる様な音をしていた。


「セピア様…」


勇の声に反応するかの様に、セピアの心に黒い感情が湧き上がってくる。

グッと押さえ込もうとすればする程に、目に涙が溢れだした。


(泣きたくない…)


「セピアは具合が悪いの。今日はもう帰って」


セピアの震える手を聖女が握る。


「そうね。…セピアを頼むわ…聖女様」


察したロホが、現状を把握できずにいる勇を引き摺る様に連れて、部屋を出た。

「あの…えっと」と何か言いたそうな勇の目前で、扉は閉まる。


「セピア…ともかく、服を着替えましょう…」


リオナは服を用意し、セピアを支える聖女を風呂場まで案内した。

すぐに暖かい湯が浴槽に張られ、湯気が立ち上る。


「王城の…庭園…」


ポツリと呟くと、セピアの頬に涙が一筋流れた。

王城の庭園は特別な場所で、王息の婚約者であるセピアですら入った事は無い。

王妻か王息妃にならないと入れない場所だった。


(あぁ…胸が…痛い)

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