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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
それでも闇は近付いて来る

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2

聖女の影が自分に重なるのを感じたセピアは、身体を固くした。

いつもの様に服を脱がされていくのだ。と、身構えたのだが…杞憂に終わる。

衣服はそのままに聖女の力が、セピアをただ包んだ。


「え…?」


戸惑いを露わにするセピアに、聖女はふっと笑う。


「なぁに?期待した?」

「いいえ!!」


優しい目の聖女に、セピアは必死に否定した。


(でも…いつもなら…)


「あの…どうして今日は…?」

「ノワールの男達と同じ様な事はしたくないわ」

「…私が実験体にされた男性や、無理やり…その…子供を産まされた女性の…だからですか?」


この国の貴族である両親の出自も、自身の出自も到底褒められた物ではない事に言葉を濁す。

ノワールの、その子孫だと、言い辛さと苦しさがセピアの胸に広がる。

その痛みは、聖女の聖なる力でも癒されない。


「そうじゃなくても。よ。…まぁ日頃の事は…別として」


(何が『別』なのだろう…アレは揶揄われているだけなのかしら?本当は…)


訝し気な顔をするセピアに、力を注ぎながら聖女は微笑みかけた。


「セピア。貴女を愛しているわ」

「…いつも、そうおっしゃいます…」

「そうね。いつものアレは…揶揄いが半分入っているのも事実よ」


(やっぱりそうなんだ)


「でも、自制が利かなくなってしまうのも本当」

「自制…ですか」

「えぇ。目の前に居れば近付きたくなるし、触れたくもなるわ。でも今は…貴女の体調を診る方が先。元気で居て欲しいのよ」


少しづつ体が暖かく、解れていくのがセピアには実感できた。


「疲れだったみたいね。良かったわ」

「…聖女様」

「なぁに?」

「…どうして私を好きなんですか?」


聖女の目が驚きで見開かれた。

セピアの口から、直球に聞かれるとは思ってみなかった様だ。


「…聞きたい?」

「…はい」

「婚約者候補が集まったあの日、私がオールに暴言を吐いて去ったのを覚えている?」

「はい」


一生忘れる事は無いだろう。とセピアは考えた。

しかし、口には出さない。


「あの時、一斉に皆私を見たわ。でも、見返したら全ての子供も大人も目を反らした。…唯一貴女だけ目を伏せもせず、反らしもせず真っすぐ見ていた」


注目を浴びる事も、批判的な視線が向けられる事も聖女は分かっていた。

あの頃、金貨色の目をしている聖女が『王の子では無いか』と噂されている事もあって、尚更そもそも、あの場に居るだけで針の筵の様だったのだと、彼女は言う。


「それでも、王は絶対で…何か王の考えが有るのだと妄信している皆が嫌だったわ」

「…王様は信頼されていますし…私も…」

「そうね。それがこの国ですもの。それでもオールとの『近親婚』を囁かれ、王ではなく私が蔑まれた…聖女になってすぐだったし、疑心を持つ人も多かったの」


聖女が聖女たる力を民衆の…特に貴族の目の前で発揮する機会は、そうそう多くない。

聖なる力が求められるのは、主に戦場での治癒だ。

兵士が恩恵を受ける。


民衆は怪我や病の時に受ける事もあるが、時間は掛かるが些細な物は教会の者や医者が治す。

貴族はそもそも魔法が使える事で、怪我もしにくく病もなりにくい。

安全で清潔な環境に、置かれているのだ。

関わる事がほぼと言っていい程に無い。


「だから私を知らない人が多かった」

「私は…憧れでした」

「過去形?」

「いいえ、今も尊敬しています」

「ありがとう…でもそれは、貴女が教会に足繁く通う聖徒だったからよ」


(4歳の時に教会で見た貴女を、見に行っていたと…言えないなぁ…)


「私を…知って居たのですか?」

「貴族で教会へ足を運ぶ人は珍しいわ。だから、あの日目が合って反らさない貴女に見覚えがあった」


聖女が、セピアの右手を両手で包んだ。

しっかりと聞いて欲しいと、懇願する様に手に力を込めて。


「あの時、一瞬で胸に熱さが込み上げたのよ。貴女の真っ直ぐな目が…私を射抜いたの」

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