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聖女の影が自分に重なるのを感じたセピアは、身体を固くした。
いつもの様に服を脱がされていくのだ。と、身構えたのだが…杞憂に終わる。
衣服はそのままに聖女の力が、セピアをただ包んだ。
「え…?」
戸惑いを露わにするセピアに、聖女はふっと笑う。
「なぁに?期待した?」
「いいえ!!」
優しい目の聖女に、セピアは必死に否定した。
(でも…いつもなら…)
「あの…どうして今日は…?」
「ノワールの男達と同じ様な事はしたくないわ」
「…私が実験体にされた男性や、無理やり…その…子供を産まされた女性の…だからですか?」
この国の貴族である両親の出自も、自身の出自も到底褒められた物ではない事に言葉を濁す。
ノワールの、その子孫だと、言い辛さと苦しさがセピアの胸に広がる。
その痛みは、聖女の聖なる力でも癒されない。
「そうじゃなくても。よ。…まぁ日頃の事は…別として」
(何が『別』なのだろう…アレは揶揄われているだけなのかしら?本当は…)
訝し気な顔をするセピアに、力を注ぎながら聖女は微笑みかけた。
「セピア。貴女を愛しているわ」
「…いつも、そうおっしゃいます…」
「そうね。いつものアレは…揶揄いが半分入っているのも事実よ」
(やっぱりそうなんだ)
「でも、自制が利かなくなってしまうのも本当」
「自制…ですか」
「えぇ。目の前に居れば近付きたくなるし、触れたくもなるわ。でも今は…貴女の体調を診る方が先。元気で居て欲しいのよ」
少しづつ体が暖かく、解れていくのがセピアには実感できた。
「疲れだったみたいね。良かったわ」
「…聖女様」
「なぁに?」
「…どうして私を好きなんですか?」
聖女の目が驚きで見開かれた。
セピアの口から、直球に聞かれるとは思ってみなかった様だ。
「…聞きたい?」
「…はい」
「婚約者候補が集まったあの日、私がオールに暴言を吐いて去ったのを覚えている?」
「はい」
一生忘れる事は無いだろう。とセピアは考えた。
しかし、口には出さない。
「あの時、一斉に皆私を見たわ。でも、見返したら全ての子供も大人も目を反らした。…唯一貴女だけ目を伏せもせず、反らしもせず真っすぐ見ていた」
注目を浴びる事も、批判的な視線が向けられる事も聖女は分かっていた。
あの頃、金貨色の目をしている聖女が『王の子では無いか』と噂されている事もあって、尚更そもそも、あの場に居るだけで針の筵の様だったのだと、彼女は言う。
「それでも、王は絶対で…何か王の考えが有るのだと妄信している皆が嫌だったわ」
「…王様は信頼されていますし…私も…」
「そうね。それがこの国ですもの。それでもオールとの『近親婚』を囁かれ、王ではなく私が蔑まれた…聖女になってすぐだったし、疑心を持つ人も多かったの」
聖女が聖女たる力を民衆の…特に貴族の目の前で発揮する機会は、そうそう多くない。
聖なる力が求められるのは、主に戦場での治癒だ。
兵士が恩恵を受ける。
民衆は怪我や病の時に受ける事もあるが、時間は掛かるが些細な物は教会の者や医者が治す。
貴族はそもそも魔法が使える事で、怪我もしにくく病もなりにくい。
安全で清潔な環境に、置かれているのだ。
関わる事がほぼと言っていい程に無い。
「だから私を知らない人が多かった」
「私は…憧れでした」
「過去形?」
「いいえ、今も尊敬しています」
「ありがとう…でもそれは、貴女が教会に足繁く通う聖徒だったからよ」
(4歳の時に教会で見た貴女を、見に行っていたと…言えないなぁ…)
「私を…知って居たのですか?」
「貴族で教会へ足を運ぶ人は珍しいわ。だから、あの日目が合って反らさない貴女に見覚えがあった」
聖女が、セピアの右手を両手で包んだ。
しっかりと聞いて欲しいと、懇願する様に手に力を込めて。
「あの時、一瞬で胸に熱さが込み上げたのよ。貴女の真っ直ぐな目が…私を射抜いたの」




