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いつでも、何をするにも父親に止められた事は無かった。
『誰かが居る時にならな』
令嬢が普通しない木登りや川遊びまでも、魔法が使える者が居れば、そう言って許可をしてくれていたのに、今回ばかりはロホが居てもアスールが居ても駄目だと言う。
「どうして?」
「危険なんだ。あの国は…だからご先祖様もこの国へ逃げて来た」
「そうよ、それに逃げた人間の事をあまりよく思っていないはずだわ」
両親はセピアに諦める様、説得しようとしている。
しかし、時折チラチラと横目で聖女を見るのにセピアは気が付いた。
「ノワール国の事…何か知って居るの?」
「…そりゃ…遠い先祖とは言え故郷だから…」
「私、魔法の減退の事が知りたいの」
「…それはノワールを調べても分からないよ」
「…そうなの?」
「あぁ、ノワールには魔法が使える者がこの国よりも少ないんだ」
交流が無い為に他国からの魔法道具すらなく、ほぼ全て人間の力だけで生活していると、父親は言う。
「ノワールに触れないで欲しい理由はそこだ」
聖女の前でこの話をするのは憚られるのか、言い辛そうにしているが、ノワール国の話を父親はし始める。
遠い先祖の手記にある話。
内容はプリシカ国とあまりにも違った価値観だった。
黒髪黒目でないと国から追放される事や、女性の扱いが酷く、捕まれば何をされるか分からない事。
プリシカ国には無い奴隷制度が今尚残り、奴隷は女しか居らず、持ち主は皆男である事。
王政ではあるが、王は皆男で女は成れず、大昔に一人だけ女王として君臨した人がいたが、反乱に遭い残酷に殺された事が記されていたと言う。
「もしも、お前の魔法の減退にノワールが関係するとしたら、魔法を手に入れようとしたあの国が、他国の魔法使いを攫って…」
父親が言い淀む。
セピアにどう説明すべきか、躊躇していた。
「無理やり子を成すのよ」
聖女が説明を引き継ぐ。
「無理やり犯すの。そして子を作る。他にも人体実験で血を取って研究していたりするわ」
「子供…実験…?」
「そう。女は犯して、男は実験台」
「そんな…」
「だから、関係を切ったのよ。逃げてきた人達は受け入れて…ね」
聖女は苦々しい顔をする。
「禁書の項目に『ノワール国』があったのよ」
勇を帰す為の禁書の解読時、帰す為の魔法よりも先にノワール国は記されていた。
「ね、危険なの。だから…」
セピアに母親が、涙ながらに訴える。
両親と聖女の話が本当であれば、魔力減退の原因は分からないだろう。
それに、原因追及の為とはいえリスクが高すぎた。
(勇さんやロホを…巻き込めない)
あの二人に一緒に調べようと持ち掛けてしまったのは、セピアだ。
その所為で二人も危険に巻き込む事になりかねない。
勇もロホも女性。
異世界人と魔法使い…しかも聖人である。
ノワールにしてみれば格好の餌食だ。
「私も、ご両親も貴女がそんな目に遭うのは嫌よ」
聖女の言葉に両親が頷く。
母親の目からは光る涙が数滴零れた。
「…分かったわ」
(原因が分かっても回復するなんて事無いかも知れないし…)
魔力が少ない為、王息妃に相応しくない。との声もあるだろうが、他で支えれば良いのだと、自分を励ます。
それよりも、目の前の両親にこれほど心配をかけてしまった事を、セピアは悔いた。
「もう、調べないよ」
「約束してくれるかい?」
父親が珍しく念を押す。
それ程までに、ノワール国は危険なのか。と、セピアは両親と聖女の話を信じ、約束した。
「うん。約束する」
セピアの言葉に両親は頷くと、少しの間お喋りをし、帰って行った。
「今日はありがとう」
お礼を言うセピアに手を振って応え、聖女の転移魔法で帰る二人は、部屋の中で光に包まれて消えた。
「…良いご両親ね」
「はい」
微笑む聖女にセピアは微笑み返す。
「体調の方はどう?」
「もうすっかり大丈夫です」
「本当に?」
聖女はセピアに近付くと、軽々と抱え上げた。
「調べてあげる」
そう言って、聖女はセピアを軽くベッドへ運んだ。




