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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
それでも闇は近付いて来る

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1

いつでも、何をするにも父親に止められた事は無かった。


『誰かが居る時にならな』


令嬢が普通しない木登りや川遊びまでも、魔法が使える者が居れば、そう言って許可をしてくれていたのに、今回ばかりはロホが居てもアスールが居ても駄目だと言う。


「どうして?」

「危険なんだ。あの国は…だからご先祖様もこの国へ逃げて来た」

「そうよ、それに逃げた人間の事をあまりよく思っていないはずだわ」


両親はセピアに諦める様、説得しようとしている。

しかし、時折チラチラと横目で聖女を見るのにセピアは気が付いた。


「ノワール国の事…何か知って居るの?」

「…そりゃ…遠い先祖とは言え故郷だから…」

「私、魔法の減退の事が知りたいの」

「…それはノワールを調べても分からないよ」

「…そうなの?」

「あぁ、ノワールには魔法が使える者がこの国よりも少ないんだ」


交流が無い為に他国からの魔法道具すらなく、ほぼ全て人間の力だけで生活していると、父親は言う。


「ノワールに触れないで欲しい理由はそこだ」


聖女の前でこの話をするのは憚られるのか、言い辛そうにしているが、ノワール国の話を父親はし始める。

遠い先祖の手記にある話。

内容はプリシカ国とあまりにも違った価値観だった。


黒髪黒目でないと国から追放される事や、女性の扱いが酷く、捕まれば何をされるか分からない事。

プリシカ国には無い奴隷制度が今尚残り、奴隷は女しか居らず、持ち主は皆男である事。


王政ではあるが、王は皆男で女は成れず、大昔に一人だけ女王として君臨した人がいたが、反乱に遭い残酷に殺された事が記されていたと言う。


「もしも、お前の魔法の減退にノワールが関係するとしたら、魔法を手に入れようとしたあの国が、他国の魔法使いを攫って…」


父親が言い淀む。

セピアにどう説明すべきか、躊躇していた。


「無理やり子を成すのよ」


聖女が説明を引き継ぐ。


「無理やり犯すの。そして子を作る。他にも人体実験で血を取って研究していたりするわ」

「子供…実験…?」

「そう。女は犯して、男は実験台」

「そんな…」

「だから、関係を切ったのよ。逃げてきた人達は受け入れて…ね」


聖女は苦々しい顔をする。


「禁書の項目に『ノワール国』があったのよ」


勇を帰す為の禁書の解読時、帰す為の魔法よりも先にノワール国は記されていた。


「ね、危険なの。だから…」


セピアに母親が、涙ながらに訴える。

両親と聖女の話が本当であれば、魔力減退の原因は分からないだろう。

それに、原因追及の為とはいえリスクが高すぎた。


(勇さんやロホを…巻き込めない)


あの二人に一緒に調べようと持ち掛けてしまったのは、セピアだ。

その所為で二人も危険に巻き込む事になりかねない。


勇もロホも女性。

異世界人と魔法使い…しかも聖人である。

ノワールにしてみれば格好の餌食だ。


「私も、ご両親も貴女がそんな目に遭うのは嫌よ」


聖女の言葉に両親が頷く。

母親の目からは光る涙が数滴零れた。


「…分かったわ」


(原因が分かっても回復するなんて事無いかも知れないし…)


魔力が少ない為、王息妃に相応しくない。との声もあるだろうが、他で支えれば良いのだと、自分を励ます。

それよりも、目の前の両親にこれほど心配をかけてしまった事を、セピアは悔いた。


「もう、調べないよ」

「約束してくれるかい?」


父親が珍しく念を押す。

それ程までに、ノワール国は危険なのか。と、セピアは両親と聖女の話を信じ、約束した。


「うん。約束する」


セピアの言葉に両親は頷くと、少しの間お喋りをし、帰って行った。


「今日はありがとう」


お礼を言うセピアに手を振って応え、聖女の転移魔法で帰る二人は、部屋の中で光に包まれて消えた。


「…良いご両親ね」

「はい」


微笑む聖女にセピアは微笑み返す。


「体調の方はどう?」

「もうすっかり大丈夫です」

「本当に?」


聖女はセピアに近付くと、軽々と抱え上げた。


「調べてあげる」


そう言って、聖女はセピアを軽くベッドへ運んだ。

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