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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
皆の考え

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4

オールは国を継ぐ者として、色々な教育を施されてきた。

その間、王との時間など微々たる物だったのだろう。


王息の婚約者候補が集められたあの日、出会ったオールはもう子供の風体はしておらず、歳以上の落ち着きと知識、所作を兼ね備えていた。


セピアは、名立たる貴族や名手の令嬢達が集められたホールの階段を、優雅に降りてくる彼が未だに忘れられない。

そして、あの時の令嬢達の黄色い歓声も。


オールと聖人達の打ち合わせの内容など頭に入らず、セピアは五人を凄く遠くから見てるような感覚だった。

話に入れない。簡単に言えばそうだ。

隣に居る勇も同じだった。


今朝、勇の目には泣いた跡があった。

何度も顔を洗っても取れない、紅い跡が。

セピアは勇がどれほど泣いていたのか、知って居る。


防音の施されたセピアの部屋だが、完璧ではない。

普通の声での会話が聞こえないが、叫べば微かに聞こえる。

そんな程度の防音だ。


何かが倒れたり物が壊れたら、メイドが気付ける範囲でしか、防犯上かけないのだ。

そんな中、彼女の声は、微かに聞こえていた。


セピアは勇が泣くのが分かっていた。

自分ならば、同じ状況で泣かない訳が無かったし、現に候補者に選ばれて親元から離れた10歳の時には、泣いていた。


それから6年。

家族の待つ領地へ帰る事はあっても、寂しさは拭い切れない。

慣れる訳でもない。


いきなり訳も分からないまま、一夜を過ごした勇の寂しさや不安はどれほどの事だろうか。

セピアは彼女が泣きたいなら泣けばいいと思った。

心置きなく。大声で。

それで、気が楽になるなら。と。


だから「叫んでも防音が凄いから聞こえないの」と彼女に嘘を言った。

勇の声が聞こえる間、何度行って抱きしめて慰めたくなったか分からない。


見知らぬ人間にそうされるのを、勇は嫌がるかも知れないと自制して、聞こえなくなった頃、鍵がかかっているのも想定しながら、勇の部屋の前まで行った。


勇の部屋の鍵は開いていた。

ドアを微かに開け、中を覗くと床の上で突っ伏している彼女が居て、慌ててメイドを鈴で呼んだ。

メイドがベッドに寝かせる間も、勇は目を覚まさなかった。


乱れた髪を整え、水で軽く顔を拭いてやり、そっと部屋を出た。

年齢よりも幼さがある顔を、自分と重ね親近感が湧いているのだとも思う。

初めに勇がセピアに駆け寄った様に。


「…セピア」

「セピア…?」


遠くで声がした。

少し思考が遠くに漂っている様な感覚が、セピアの身体を包んでいる。


「セピア。これでお前は…」


お父様の声が聞こえた。


「…許してね」


お母様の声。


(何だろう。お腹が熱い。それにフワフワ揺れてる…)


「セピア嬢!!」


オールの声が頭に大きく響いた。

その瞬間、セピアは意識が現実に引き戻される。


「大丈夫か?」


目の前にオールが居る。

テーブルの横に跪いて、セピアの肘辺りを強く握りしめている。

上半身の揺れは,

オールが揺すっていたのだ。


「退いて!」


前に居るオールを押し退け、聖女が目の前に来た。

オールも聖女も少し顔色が悪い。


「オール様…聖女様…、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないのは貴女よ」


ロホが聖女の後ろで、ホッとした息を吐いた。


「いきなり気付いたら固まってるんだもの。こっちがびっくりするわ」

「私?」

「ええ、それに顔色も真っ青よ。もしかして寒い?」


ロホが手に紅い光を集めた。

温める気でいるらしい。


「ううん、大丈夫。寒くない」

「そう?水飲む?」


ロホの言葉で、アスールがグラスに水を入れた。


「ほい」


渡されたグラスは、ひんやりとして気持ち良く、お腹に感じた熱さが引いていく。


「今日、城下町に行ってたんでしょう?疲れたのね…可哀想に」


聖女がセピアの頭を撫で、抱えた。

セピアに触れている聖女の腕が、ほわっと暖かくなり光る。


「そんな…聖なる力を…無駄に…」

「無駄じゃない。無駄じゃないのよ…セピア」


(本当に自分は疲れていたのかも知れない)


セピアがそう考えた瞬間、暖かな光に包まれたまま、彼女は意識を手放していた。

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