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オールは国を継ぐ者として、色々な教育を施されてきた。
その間、王との時間など微々たる物だったのだろう。
王息の婚約者候補が集められたあの日、出会ったオールはもう子供の風体はしておらず、歳以上の落ち着きと知識、所作を兼ね備えていた。
セピアは、名立たる貴族や名手の令嬢達が集められたホールの階段を、優雅に降りてくる彼が未だに忘れられない。
そして、あの時の令嬢達の黄色い歓声も。
オールと聖人達の打ち合わせの内容など頭に入らず、セピアは五人を凄く遠くから見てるような感覚だった。
話に入れない。簡単に言えばそうだ。
隣に居る勇も同じだった。
今朝、勇の目には泣いた跡があった。
何度も顔を洗っても取れない、紅い跡が。
セピアは勇がどれほど泣いていたのか、知って居る。
防音の施されたセピアの部屋だが、完璧ではない。
普通の声での会話が聞こえないが、叫べば微かに聞こえる。
そんな程度の防音だ。
何かが倒れたり物が壊れたら、メイドが気付ける範囲でしか、防犯上かけないのだ。
そんな中、彼女の声は、微かに聞こえていた。
セピアは勇が泣くのが分かっていた。
自分ならば、同じ状況で泣かない訳が無かったし、現に候補者に選ばれて親元から離れた10歳の時には、泣いていた。
それから6年。
家族の待つ領地へ帰る事はあっても、寂しさは拭い切れない。
慣れる訳でもない。
いきなり訳も分からないまま、一夜を過ごした勇の寂しさや不安はどれほどの事だろうか。
セピアは彼女が泣きたいなら泣けばいいと思った。
心置きなく。大声で。
それで、気が楽になるなら。と。
だから「叫んでも防音が凄いから聞こえないの」と彼女に嘘を言った。
勇の声が聞こえる間、何度行って抱きしめて慰めたくなったか分からない。
見知らぬ人間にそうされるのを、勇は嫌がるかも知れないと自制して、聞こえなくなった頃、鍵がかかっているのも想定しながら、勇の部屋の前まで行った。
勇の部屋の鍵は開いていた。
ドアを微かに開け、中を覗くと床の上で突っ伏している彼女が居て、慌ててメイドを鈴で呼んだ。
メイドがベッドに寝かせる間も、勇は目を覚まさなかった。
乱れた髪を整え、水で軽く顔を拭いてやり、そっと部屋を出た。
年齢よりも幼さがある顔を、自分と重ね親近感が湧いているのだとも思う。
初めに勇がセピアに駆け寄った様に。
「…セピア」
「セピア…?」
遠くで声がした。
少し思考が遠くに漂っている様な感覚が、セピアの身体を包んでいる。
「セピア。これでお前は…」
お父様の声が聞こえた。
「…許してね」
お母様の声。
(何だろう。お腹が熱い。それにフワフワ揺れてる…)
「セピア嬢!!」
オールの声が頭に大きく響いた。
その瞬間、セピアは意識が現実に引き戻される。
「大丈夫か?」
目の前にオールが居る。
テーブルの横に跪いて、セピアの肘辺りを強く握りしめている。
上半身の揺れは,
オールが揺すっていたのだ。
「退いて!」
前に居るオールを押し退け、聖女が目の前に来た。
オールも聖女も少し顔色が悪い。
「オール様…聖女様…、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないのは貴女よ」
ロホが聖女の後ろで、ホッとした息を吐いた。
「いきなり気付いたら固まってるんだもの。こっちがびっくりするわ」
「私?」
「ええ、それに顔色も真っ青よ。もしかして寒い?」
ロホが手に紅い光を集めた。
温める気でいるらしい。
「ううん、大丈夫。寒くない」
「そう?水飲む?」
ロホの言葉で、アスールがグラスに水を入れた。
「ほい」
渡されたグラスは、ひんやりとして気持ち良く、お腹に感じた熱さが引いていく。
「今日、城下町に行ってたんでしょう?疲れたのね…可哀想に」
聖女がセピアの頭を撫で、抱えた。
セピアに触れている聖女の腕が、ほわっと暖かくなり光る。
「そんな…聖なる力を…無駄に…」
「無駄じゃない。無駄じゃないのよ…セピア」
(本当に自分は疲れていたのかも知れない)
セピアがそう考えた瞬間、暖かな光に包まれたまま、彼女は意識を手放していた。




