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聖女の剣幕に、セピアと勇は気圧されたが、勇にとっては願っても居ない。
心強い味方の様な気がした。
二人とは違い、アスールやロホ、特に毎月酷使されたブランは怪訝そうな表情を浮かべた。
すっと、ブランが手を挙げた。
王に進言する時の、お決まりだ。
王は視線だけで、発言を許す。
「王はどう、お考えで?」
ブランは自分の努力を無に帰すと、理解しながらも勇を帰す気で居るのか。と問いたいのをぐっと堪えた。
王の顔に申し訳なさがやや宿る。
「お前の努力を無にする事はしたくないが、状況によっては帰す事も考えてはいる」
王は「帰る方法があればの話だが」とも、付け加えた。
「その点に関しては、私も調査を進めるわ。ブラン、あなたも手伝うのよ」
聖女がふんっと偉そうに言い放つ。
ブランの眉間に微かに皺が寄ったのを、セピアは見過ごさなかった。
(いつも聖人に聖女様は喧嘩腰なのよね…)
そう、聖女の態度に少し呆れる。
そんな彼女の傲慢な発言を、ほぼ唯一窘める事が出来る王は窘めない。
「…私は…反対です」
ブランの眉間の皺が深くなる。
聖女の態度と自分の睡眠を犠牲にしてまで召喚した人間を、安易に帰らす決断を受け入れられない事もあるが、それ以前に考える事が有る。
「邪神は…どうするのですか…?」
ブランの視線は王と言うより、斜め向かいの聖女に向けられていた。
「彼女が…彼女の力が必要になるんです。その為に召喚したんです」
「そうね。でも、邪神が目覚める確証はないでしょう?」
ブランと聖女の間に、バチバチと電流が流れ、音を立てていた。
「他の聖人達はどうかね?」
王が無言で睨み合う二人から、話を逸らした。
「私は王のお決めになった事に従います」
ロホやマホンも、オールも状況を見て判断しかねると言う最中、珍しくアスールがハッキリと答えた。
アスールの声に勇がぴくついたのを、セピアは感じた。
(…何だか様子が…変ね)
「そうか。…そうだな」
王は分かり切っている事を聞いたな。と、ため息を吐いた。
「何にせよ、帰す方法があるかどうかだ…ブラン、禁書の解読を急かしてくれ」
「分かりました」
「聖女は…少し落ち着け」
いつの間にか立ち上がっていた二人。
ブランは軽く会釈し、聖女は口を真一文字に閉じて、二人同時に椅子へ腰を下ろした。
「ちなみにだが…立花勇、お前は教皇の息子と結婚する意思はあるか?」
「あっありません!!帰りたいです!」
「そうだろうな…いや、すまん。一応聞いておこうと思うてな」
王は顎に手をやると、少々長めの髭を親指で撫でた。
「話はそれくらいですか?」
オールが憮然とした顔をする。
何も決まっていないのだ、無理もない。
何かしら重要な事が伝えられるのだと、内心緊張していたのもあって、教皇に対しても帰る方法にしても、邪神についても結論が出ない事に落胆した。
セピアも本当の所オールと同じ気持ちだった。
(でも、勇さんは帰る方向になりそう)
横に居る勇も、心なしか希望を抱いている様に見える。
オールの落胆も『勇が帰る事』に対してではない様で、少しだけセピアの心も軽くなった。
(…これって…)
自分の心の動きに、セピアはモヤッとした。
異世界に来て不安な勇とオールが、結ばれるのではないか。と言うよくある小説に、すぐ準えてしまう自分を情けなく思う。
(小説の読み過ぎ…だと良いんだけれど…)
それでも考えが拭い去れない。
セピアは自分が嫉妬している事に、気が付いていなかった。
そんな彼女を見て、聖女が唇を噛む。
「なら、夜も更けました…解散で良いのでは?今後また進展があれば結論を出しましょう」
「そうだな。聖女とブランは禁書を、ロホとマホンはオールの護衛を交代制にし、アスールを含め三人で立花勇とセピア嬢の護衛を致せ。どう交代するかは四人で決めて構わん」
オールの言葉を受け、王がそう言い立ち上がると、続いてオールが立つ。
皆が立ち、王の退室を見送る。
ドアの付近に立つ勇の側を通る時、王が立ち止まった。
「子を持つ親として、いきなり娘が消えた両親の心情は察するに余りある」
そう、勇に声をかけた。
勇は顔を上げ、王を見た。
「どうにか…良き方向へ行く様、尽くそう」
金貨色の目が細く、眉が下がった王は、初めに見た時よりも優しげに見えた。
「ありがとうございます」
勇が頭を下げると、王はドアを出て行った。
「…貴方にも親心が有るんですか…?」
ドアの閉まる音の後、微かなオールの呟きがセピアの耳に届いた。




