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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
皆の考え

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3

聖女の剣幕に、セピアと勇は気圧されたが、勇にとっては願っても居ない。

心強い味方の様な気がした。

二人とは違い、アスールやロホ、特に毎月酷使されたブランは怪訝そうな表情を浮かべた。


すっと、ブランが手を挙げた。

王に進言する時の、お決まりだ。

王は視線だけで、発言を許す。


「王はどう、お考えで?」


ブランは自分の努力を無に帰すと、理解しながらも勇を帰す気で居るのか。と問いたいのをぐっと堪えた。

王の顔に申し訳なさがやや宿る。


「お前の努力を無にする事はしたくないが、状況によっては帰す事も考えてはいる」


王は「帰る方法があればの話だが」とも、付け加えた。


「その点に関しては、私も調査を進めるわ。ブラン、あなたも手伝うのよ」


聖女がふんっと偉そうに言い放つ。

ブランの眉間に微かに皺が寄ったのを、セピアは見過ごさなかった。


(いつも聖人に聖女様は喧嘩腰なのよね…)


そう、聖女の態度に少し呆れる。

そんな彼女の傲慢な発言を、ほぼ唯一窘める事が出来る王は窘めない。


「…私は…反対です」


ブランの眉間の皺が深くなる。

聖女の態度と自分の睡眠を犠牲にしてまで召喚した人間を、安易に帰らす決断を受け入れられない事もあるが、それ以前に考える事が有る。


「邪神は…どうするのですか…?」


ブランの視線は王と言うより、斜め向かいの聖女に向けられていた。


「彼女が…彼女の力が必要になるんです。その為に召喚したんです」

「そうね。でも、邪神が目覚める確証はないでしょう?」


ブランと聖女の間に、バチバチと電流が流れ、音を立てていた。


「他の聖人達はどうかね?」


王が無言で睨み合う二人から、話を逸らした。


「私は王のお決めになった事に従います」


ロホやマホンも、オールも状況を見て判断しかねると言う最中、珍しくアスールがハッキリと答えた。

アスールの声に勇がぴくついたのを、セピアは感じた。


(…何だか様子が…変ね)


「そうか。…そうだな」


王は分かり切っている事を聞いたな。と、ため息を吐いた。


「何にせよ、帰す方法があるかどうかだ…ブラン、禁書の解読を急かしてくれ」

「分かりました」

「聖女は…少し落ち着け」


いつの間にか立ち上がっていた二人。

ブランは軽く会釈し、聖女は口を真一文字に閉じて、二人同時に椅子へ腰を下ろした。


「ちなみにだが…立花勇、お前は教皇の息子と結婚する意思はあるか?」

「あっありません!!帰りたいです!」

「そうだろうな…いや、すまん。一応聞いておこうと思うてな」


王は顎に手をやると、少々長めの髭を親指で撫でた。


「話はそれくらいですか?」


オールが憮然とした顔をする。

何も決まっていないのだ、無理もない。

何かしら重要な事が伝えられるのだと、内心緊張していたのもあって、教皇に対しても帰る方法にしても、邪神についても結論が出ない事に落胆した。

セピアも本当の所オールと同じ気持ちだった。


(でも、勇さんは帰る方向になりそう)


横に居る勇も、心なしか希望を抱いている様に見える。

オールの落胆も『勇が帰る事』に対してではない様で、少しだけセピアの心も軽くなった。


(…これって…)


自分の心の動きに、セピアはモヤッとした。

異世界に来て不安な勇とオールが、結ばれるのではないか。と言うよくある小説に、すぐ準えてしまう自分を情けなく思う。


(小説の読み過ぎ…だと良いんだけれど…)


それでも考えが拭い去れない。

セピアは自分が嫉妬している事に、気が付いていなかった。

そんな彼女を見て、聖女が唇を噛む。


「なら、夜も更けました…解散で良いのでは?今後また進展があれば結論を出しましょう」

「そうだな。聖女とブランは禁書を、ロホとマホンはオールの護衛を交代制にし、アスールを含め三人で立花勇とセピア嬢の護衛を致せ。どう交代するかは四人で決めて構わん」


オールの言葉を受け、王がそう言い立ち上がると、続いてオールが立つ。

皆が立ち、王の退室を見送る。


ドアの付近に立つ勇の側を通る時、王が立ち止まった。


「子を持つ親として、いきなり娘が消えた両親の心情は察するに余りある」


そう、勇に声をかけた。

勇は顔を上げ、王を見た。


「どうにか…良き方向へ行く様、尽くそう」


金貨色の目が細く、眉が下がった王は、初めに見た時よりも優しげに見えた。


「ありがとうございます」


勇が頭を下げると、王はドアを出て行った。


「…貴方にも親心が有るんですか…?」


ドアの閉まる音の後、微かなオールの呟きがセピアの耳に届いた。

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