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ロホの後から来た三人も、絶句し立ち尽くす。
王室のエンブレムが転がっている以上、犯人は確かに『王室』の馬車を破壊した。
この国で生きて居る人間からすれば、それは前代未聞の事だった。
「…分かっていて…かしら」
セピアはしゃがみ、エンブレムを拾う。
この国の王の持ち物だと、主張するそれは地面に転がっていてはいけない物だった。
「この国の人間なら有り得ない事だけど…そうね」
腕を組み、悲し気なロホがセピアを肯定する。
この国の王と言う存在は、教皇の様に信仰の対象であったり、国政を担うだけの存在ではない。
国民全てが、尊敬し愛する存在だ。
気に入らない者が居るのならば、出て行けば良い。
それも、この国は自由だ。
それに、王や王室へ悪意を抱き害を成す者や、犯罪者は容赦なく国外追放される。
時には、死をもって退去していただく。
それがこの国の絶対的ルール。
何故なら、悪意を抱えるその者達を、放置する事は悪意の循環を招き、国を揺るがす。
色々な国からの人間が集まるからこそ、厳しくする。
悪意を持ちながら、国の恩恵に与ろう等と思う輩は、この国では生きられない。
それもこれも、代々受け継いできた王の確固たる信念。
国民の平和の為だ。
何処からか水が流れていたのだろう、泥化した街路樹の土が馬車の破片を流してくる。
その中に在ったエンブレムは汚れていた。
「貸してみ?」
アスールが差し出した手に、セピアは持っていたエンブレムを置いた。
下に流れる水より透明で美しい水が、どこからともなく湧き、アスールの手を覆う。
街灯のオレンジの光で煌めく水が、汚れを綺麗に取り去ると、それはまたセピアの掌に戻って来た。
「ほい」
「ありがとう…」
セピアの足元に柔らかく、暖かい物が触れた。
見ると先程の黒猫が、頭をセピアの足首に何度も何度も擦り付けていた。
オールとの接続は切れているらしい。
「どうやって帰ろうかしら…」
ロホとアスールの転移魔法に頼るのも考えたが、一人は炎でもう一人は水だ。
(熱くない。息もできる。そう分かっていても凡人には熱く感じるし、息も苦しい)
それに、準備無く二人を一度に転移するのは、聖人とて負担が有る。
こんな事に使っては。と、申し訳ない思いでいっぱいになる。
セピアは途方に暮れた。
「魔法で直せないんですか?」
魔法が万能だと思い込んでいる勇が、キョトンとして言う。
事の重大さも、分かって居ない様だった。
「壊れた物は直せないわ。聖女様が使う治癒魔法とはまた別なのよ」
「そうなんですか?『元に戻す』って感じでいけるんだと思ってました。同じじゃないんですね」
「聖女の治癒は、その人本来の自己修復力を高める様なモノだからね…代謝を促して細胞を活性化させてるのよ」
ロホは「ま、ここにそもそも聖女が居ないけど」とことばを続けた。
居ても居なくても、結局馬車は直らない。
「マホンなら木の魔法が使えるから、どうにか直せたかもな」
「マホンは今、王息の護衛よ」
私の代わりに。とロホが少し気まずそうに言う。
セピア達二人と遊びたいが為に、マホンに王息の監視を押し付けたのか。とアスールに責められている気になった様だった。
事実、アスールは「こいつは…」と考えていた。
「どうする?俺はこの後時間は有るから、送ってくぜ?」
「私も、マホンと交代しなきゃいけないから王城へ戻るわよ」
ロホとアスールが二人して手を前に差し出した。
「「どっちにエスコートされたい?」」
二人が笑顔で、セピアと勇に選択肢を与えた。
セピアは「飛翔魔法なら自分も使える」と主張したが、それは夜空の暗さと魔力の弱さで却下された。
「さぁ。決めたまえ。夜空のデート相手を」
アスールが、決め声でかしこまった言い方をし、微笑んだ。




