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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
夕暮れの城下町

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4

ロホの後から来た三人も、絶句し立ち尽くす。

王室のエンブレムが転がっている以上、犯人は確かに『王室』の馬車を破壊した。

この国で生きて居る人間からすれば、それは前代未聞の事だった。


「…分かっていて…かしら」


セピアはしゃがみ、エンブレムを拾う。

この国の王の持ち物だと、主張するそれは地面に転がっていてはいけない物だった。


「この国の人間なら有り得ない事だけど…そうね」


腕を組み、悲し気なロホがセピアを肯定する。

この国の王と言う存在は、教皇の様に信仰の対象であったり、国政を担うだけの存在ではない。

国民全てが、尊敬し愛する存在だ。


気に入らない者が居るのならば、出て行けば良い。

それも、この国は自由だ。


それに、王や王室へ悪意を抱き害を成す者や、犯罪者は容赦なく国外追放される。

時には、死をもって退去していただく。

それがこの国の絶対的ルール。

何故なら、悪意を抱えるその者達を、放置する事は悪意の循環を招き、国を揺るがす。


色々な国からの人間が集まるからこそ、厳しくする。

悪意を持ちながら、国の恩恵に与ろう等と思う輩は、この国では生きられない。

それもこれも、代々受け継いできた王の確固たる信念。

国民の平和の為だ。


何処からか水が流れていたのだろう、泥化した街路樹の土が馬車の破片を流してくる。

その中に在ったエンブレムは汚れていた。


「貸してみ?」


アスールが差し出した手に、セピアは持っていたエンブレムを置いた。

下に流れる水より透明で美しい水が、どこからともなく湧き、アスールの手を覆う。

街灯のオレンジの光で煌めく水が、汚れを綺麗に取り去ると、それはまたセピアの掌に戻って来た。


「ほい」

「ありがとう…」


セピアの足元に柔らかく、暖かい物が触れた。

見ると先程の黒猫が、頭をセピアの足首に何度も何度も擦り付けていた。

オールとの接続は切れているらしい。


「どうやって帰ろうかしら…」


ロホとアスールの転移魔法に頼るのも考えたが、一人は炎でもう一人は水だ。


(熱くない。息もできる。そう分かっていても凡人には熱く感じるし、息も苦しい)


それに、準備無く二人を一度に転移するのは、聖人とて負担が有る。

こんな事に使っては。と、申し訳ない思いでいっぱいになる。

セピアは途方に暮れた。


「魔法で直せないんですか?」


魔法が万能だと思い込んでいる勇が、キョトンとして言う。

事の重大さも、分かって居ない様だった。


「壊れた物は直せないわ。聖女様が使う治癒魔法とはまた別なのよ」

「そうなんですか?『元に戻す』って感じでいけるんだと思ってました。同じじゃないんですね」

「聖女の治癒は、その人本来の自己修復力を高める様なモノだからね…代謝を促して細胞を活性化させてるのよ」


ロホは「ま、ここにそもそも聖女が居ないけど」とことばを続けた。

居ても居なくても、結局馬車は直らない。


「マホンなら木の魔法が使えるから、どうにか直せたかもな」

「マホンは今、王息の護衛よ」


私の代わりに。とロホが少し気まずそうに言う。

セピア達二人と遊びたいが為に、マホンに王息の監視を押し付けたのか。とアスールに責められている気になった様だった。

事実、アスールは「こいつは…」と考えていた。


「どうする?俺はこの後時間は有るから、送ってくぜ?」

「私も、マホンと交代しなきゃいけないから王城へ戻るわよ」


ロホとアスールが二人して手を前に差し出した。


「「どっちにエスコートされたい?」」


二人が笑顔で、セピアと勇に選択肢を与えた。

セピアは「飛翔魔法なら自分も使える」と主張したが、それは夜空の暗さと魔力の弱さで却下された。


「さぁ。決めたまえ。夜空のデート相手を」


アスールが、決め声でかしこまった言い方をし、微笑んだ。

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