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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
夕暮れの城下町

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5

結局、帰りのペアはセピアとロホ、勇とアスールに決まった。

セピア達が決めかねて、狼狽えていると、ロホがペアを決めたのだ。


「当然セピアは私よ。王息の婚約者ですもの。こんな事態になったからと言って…聖人だからと言って、男に抱えさせられる訳ないじゃない」

「そんな事言ったら、勇さんも未婚女性よ!」


セピアは不意に勇に振り向く。


「…よね?勇さん、結婚してらっしゃる?」


異世界の結婚の適年齢を知らないセピアは、もしかしてと訝しむ。


(16歳で結婚して居たり?)


「いいえ!してません!未婚です!」


勇が慌てて否定する。

しかしそれでは、どちらがアスールに抱えられるのかが決まらない。


「別に飛びながら手は出さないぜ?」


呆れたように笑うアスールは、少しばかり傷付いている様にも見えた。

「それは分かっているわ」と、セピアがフォローするが、王息の婚約者が男に抱えられ空を飛ぶ。


(なんて所を誰かに見られでもしたら…)


それでなくとも、魔力の減少と言う負い目の有るセピア。

目の前の、召喚された勇者と言う存在。

邪推された、あの噂話。

婚約破棄に、また一歩…もう一歩と、近付く事は避けたかった。


「…勇さんが許して下さるなら…」

「あ!はい!大丈夫です!ロホ様のご提案で!」


申し訳なさそうに言うセピアに、慌てて勇が答え、ペアは成立した。

預り所の所長に、馬車の残骸処理を頼んだ一行は各自抱え、抱えられた。


「ごめんなさい。後はお願いね」


ロホに抱えられたセピアが、所長に声をかけた。


「申し訳ありませんです」


所長が頭を下げると、従業員も一斉に帽子を取り、頭を下げた。


(この人達が悪い訳じゃない)


王室の馬車が壊される事等、誰も想定して居なかった。

寧ろ、想像できなかった。

そして、セピアの後に勇も軽く会釈をする。


「よし、行くぞ」


勇を抱えたアスールの体が、ふわりと浮く。

肩を掴んだ勇の手が、ぎゅっと力が入っているのが服の皺で見て取れた。


「ゆっくり行くから。勇ちゃん…」

「あ。はっはいっ」


勇は、自分の手がアスールの肩を握りつぶしそうになる程、力一杯に握っている事に気付き手を離してしまう。


「おっと」


その手をアスールは、背中から回している手で握り締めた。


「落としはしないが…どこかは掴んでて」

「すっスいません…」


思わず声が上ずる。

勇とてこんなにも異性に近付く事は、父親以外初めてだった。

手すらも、幼稚園の時に一緒のクラスにいた男の子と繋いだ限りで、それ以降繋いだ事は無い。


見知らぬ世界に召喚され、青い髪と目の長身…顔も…見た事ない程のイケメンと、抱えられながら手を繋ぐとは。と、頭と目をグルグルと回しながら、勇はうわ言の様に『イケメンが…』と繰り返し呟いていた。


その少し離れた横に、ロホは飛んでいる。

少しスピードを上げたが、付いて来ているアスールも、その腕の中の勇も気付いていない様子だ。


「勇さん、大丈夫そうね」

「そうね。少し顔が赤い様だけど」


ロホの言葉に、クスクスとセピアが笑う。


「何だか、抱えて飛んでもらうの久しぶりね」

「小さい頃は二人で飛ぶ練習したものね…聖女の横やりに苦労し始めたのも、あの頃からね」


聖女の話題になると、どう言って良いのか、セピアは言葉に詰まる。

初めて会った七歳の時、それ以前はあこがれだったお姉さん。

それが、自分を追いかけて来る様に成るとは、思っても見なかった。


「一目ぼれだ。なんて…」


(こんな私に…)


「セピア。貴女は魅力的よ」

「え?」

「十分可愛いわ。それに実際フワフワしてそうなのに頭も良い」

「いきなりどうしたの?」

「…いきなりじゃないわ。いつもそう言っているじゃない」

「…うん。ありがとう」


魔法によって飛行中の風は和らいでいる筈なのに、セピアの頬にほわりと暖かい風が当たっている気がした。


「馬車だって、誰かが嫉妬して…だったりして」


ロホが自分で言いながら笑う。

「誰か」とは「誰か」なのだ。

有り得そうで有り得ない人間を頭に浮かべたが、二人共思い浮んだ人物は違う。


「冗談はさておき…犯人は…私達聖人か聖女くらいの力の持ち主ね」

「…教皇派なのかなぁ」

「だとしたら、教皇本人の可能性しか考えられないわ」

「…教皇の腹心とかは?」

「…ブラッド卿は…そこまでじゃ無かった筈」


ロホとあれやこれやと、犯人について名を上げては打ち消している間に、眼下に城が近付いて来た。

今朝出発した裏門の所に集まる人影を見て、セピアは嫌な予感がしていた。

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