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結局、帰りのペアはセピアとロホ、勇とアスールに決まった。
セピア達が決めかねて、狼狽えていると、ロホがペアを決めたのだ。
「当然セピアは私よ。王息の婚約者ですもの。こんな事態になったからと言って…聖人だからと言って、男に抱えさせられる訳ないじゃない」
「そんな事言ったら、勇さんも未婚女性よ!」
セピアは不意に勇に振り向く。
「…よね?勇さん、結婚してらっしゃる?」
異世界の結婚の適年齢を知らないセピアは、もしかしてと訝しむ。
(16歳で結婚して居たり?)
「いいえ!してません!未婚です!」
勇が慌てて否定する。
しかしそれでは、どちらがアスールに抱えられるのかが決まらない。
「別に飛びながら手は出さないぜ?」
呆れたように笑うアスールは、少しばかり傷付いている様にも見えた。
「それは分かっているわ」と、セピアがフォローするが、王息の婚約者が男に抱えられ空を飛ぶ。
(なんて所を誰かに見られでもしたら…)
それでなくとも、魔力の減少と言う負い目の有るセピア。
目の前の、召喚された勇者と言う存在。
邪推された、あの噂話。
婚約破棄に、また一歩…もう一歩と、近付く事は避けたかった。
「…勇さんが許して下さるなら…」
「あ!はい!大丈夫です!ロホ様のご提案で!」
申し訳なさそうに言うセピアに、慌てて勇が答え、ペアは成立した。
預り所の所長に、馬車の残骸処理を頼んだ一行は各自抱え、抱えられた。
「ごめんなさい。後はお願いね」
ロホに抱えられたセピアが、所長に声をかけた。
「申し訳ありませんです」
所長が頭を下げると、従業員も一斉に帽子を取り、頭を下げた。
(この人達が悪い訳じゃない)
王室の馬車が壊される事等、誰も想定して居なかった。
寧ろ、想像できなかった。
そして、セピアの後に勇も軽く会釈をする。
「よし、行くぞ」
勇を抱えたアスールの体が、ふわりと浮く。
肩を掴んだ勇の手が、ぎゅっと力が入っているのが服の皺で見て取れた。
「ゆっくり行くから。勇ちゃん…」
「あ。はっはいっ」
勇は、自分の手がアスールの肩を握りつぶしそうになる程、力一杯に握っている事に気付き手を離してしまう。
「おっと」
その手をアスールは、背中から回している手で握り締めた。
「落としはしないが…どこかは掴んでて」
「すっスいません…」
思わず声が上ずる。
勇とてこんなにも異性に近付く事は、父親以外初めてだった。
手すらも、幼稚園の時に一緒のクラスにいた男の子と繋いだ限りで、それ以降繋いだ事は無い。
見知らぬ世界に召喚され、青い髪と目の長身…顔も…見た事ない程のイケメンと、抱えられながら手を繋ぐとは。と、頭と目をグルグルと回しながら、勇はうわ言の様に『イケメンが…』と繰り返し呟いていた。
その少し離れた横に、ロホは飛んでいる。
少しスピードを上げたが、付いて来ているアスールも、その腕の中の勇も気付いていない様子だ。
「勇さん、大丈夫そうね」
「そうね。少し顔が赤い様だけど」
ロホの言葉に、クスクスとセピアが笑う。
「何だか、抱えて飛んでもらうの久しぶりね」
「小さい頃は二人で飛ぶ練習したものね…聖女の横やりに苦労し始めたのも、あの頃からね」
聖女の話題になると、どう言って良いのか、セピアは言葉に詰まる。
初めて会った七歳の時、それ以前はあこがれだったお姉さん。
それが、自分を追いかけて来る様に成るとは、思っても見なかった。
「一目ぼれだ。なんて…」
(こんな私に…)
「セピア。貴女は魅力的よ」
「え?」
「十分可愛いわ。それに実際フワフワしてそうなのに頭も良い」
「いきなりどうしたの?」
「…いきなりじゃないわ。いつもそう言っているじゃない」
「…うん。ありがとう」
魔法によって飛行中の風は和らいでいる筈なのに、セピアの頬にほわりと暖かい風が当たっている気がした。
「馬車だって、誰かが嫉妬して…だったりして」
ロホが自分で言いながら笑う。
「誰か」とは「誰か」なのだ。
有り得そうで有り得ない人間を頭に浮かべたが、二人共思い浮んだ人物は違う。
「冗談はさておき…犯人は…私達聖人か聖女くらいの力の持ち主ね」
「…教皇派なのかなぁ」
「だとしたら、教皇本人の可能性しか考えられないわ」
「…教皇の腹心とかは?」
「…ブラッド卿は…そこまでじゃ無かった筈」
ロホとあれやこれやと、犯人について名を上げては打ち消している間に、眼下に城が近付いて来た。
今朝出発した裏門の所に集まる人影を見て、セピアは嫌な予感がしていた。




