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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
夕暮れの城下町

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23/25

3

勇の手から逃れた猫は、セピアの膝へ乗る。


「ともかく、これ以上遅くならない様にな。二人共、分かっているな?」


王息の言葉にロホとアスールが「はいはい」と御座なりに答えた。


「ちゃんと送り届けますよ」

「えぇ、心配しなくても」


二人は猫に向かってニヤニヤとする。

居心地が悪いのか、猫がうむむと口を噤む。


「王息がこう言ってる事だし、帰るか?」

「そうね」


ロホが立ち上がると、テーブルの上のゴミが燃え、アスールが籠とグラスを水魔法で綺麗にした。

浮かび上がる火と水に、周りの人も歓声を上げた。


「アスール様だけじゃなくて、ロホ様も見れるなんて運が良い」


何処からか声がする。

街の人達も勇も、道具ではない魔法は珍しい。


「あの二人は…」

「一人はセピア様だが…もう一人は?」


不意に、ロホとアスールの存在で隠れていた少女に視線が集中した。

聖人二人と王息の婚約者、その三人と同じ席に着く何の変哲もなさそうな、普通の少女。

ロホとアスールにとってはいつも通りの『片付け』が、変に目立つ結果になってしまった。


「帰りましょう」


セピアが席を立つ。

例えそこにいる人達が押し寄せたとしても、聖人が二人いる心強さはあった。

しかし、それはセピアには在れど、勇にも同じくあるとは限らない。


(それに、この人達の中に教皇派が居るかも知れない)


ブランが言っていた、教皇の話。

いつ、勇が召喚された人間だと教皇の耳に入るか分からない現状、警戒する必要性は十分にあった。


「皆は楽しめ」


アスールがセピアの緊張に感付き、金貨を一枚、鳥に食わせた。


「おぉ!!」


民衆に歓声が上がる。

アスールをよく知る人達が、口々に礼を言い指笛を鳴らす。

店と広場は輪をかけて、一気に盛り上がった。

知らない少女の事等、頭から吹き飛ぶほどに。


「今の内に行くぞ」


ロホとアスールがセピアと勇を挟み、馬車まで足早に向かう。

その間に、ロホはブランから聞いた「教皇は勇者の召喚に反対していた」事を話した。


「そうか。だから今日、昼に教皇の使いが城に来たんだな」

「やっぱり来てたの…」

「あぁ。その時ひと悶着あってな…」

「ひと悶着?…もしかして勇に会わせろとか?」

「そうだ。王息が対応していたから強行突破できるとでも思ったんだろう、大声を出してる所を見た。王が来て渋々退城したが…気を付けるに越した事はないな」

「私達が居る時は良いんだけど…」


二人はちらっとセピアと勇を見る。


「聖人一人でも、誰かを付けるべきだと進言する方が良いかしらね」

「かもな」


馬車の所まですぐそこだと思った時、四人に駆け足で近付く人影が見えた。

準備をする為、先に馬車の元へ向かったセピアの従者だった。


「お嬢様、勇様」


息を切らせ、走り寄る従者に四人は足を止める。


「どうしたの?」

「申し訳ございません…馬車が…」


従者の後ろでは、馬車預り所の従業員や所長が慌ただしく走り回っている。


「どうしたの?」

「…何者かが…全ての馬車を破壊しました」

「え?どういう事?セピア達の馬車も?…王室の馬車…よね?」

「はい。…今憲兵達が怪しい人物が居なかったか、周りも従業員も含め探しておりますが…」


王室の馬車を壊すなんて、と従者が青い顔をしていた。


「王室の馬車なら簡単には壊せないのに…」


王室の馬車は王や王息、セピアの様な婚約者や王妃を乗せる。

ちょっとやそっとで壊れては、国の存亡に関わる。

その為、高度な魔法が何重にも、聖人と聖女によってかけられていた。


本当に壊れているのかどうか、自分の目で見ないと信じられないとばかりに、ロホが馬車の方へ走って行く。

預り所の前には、馬車であったであろう木が散乱していた。

大量の木片の中で、王室のエンブレムが無残に転がっていた。

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