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勇の手から逃れた猫は、セピアの膝へ乗る。
「ともかく、これ以上遅くならない様にな。二人共、分かっているな?」
王息の言葉にロホとアスールが「はいはい」と御座なりに答えた。
「ちゃんと送り届けますよ」
「えぇ、心配しなくても」
二人は猫に向かってニヤニヤとする。
居心地が悪いのか、猫がうむむと口を噤む。
「王息がこう言ってる事だし、帰るか?」
「そうね」
ロホが立ち上がると、テーブルの上のゴミが燃え、アスールが籠とグラスを水魔法で綺麗にした。
浮かび上がる火と水に、周りの人も歓声を上げた。
「アスール様だけじゃなくて、ロホ様も見れるなんて運が良い」
何処からか声がする。
街の人達も勇も、道具ではない魔法は珍しい。
「あの二人は…」
「一人はセピア様だが…もう一人は?」
不意に、ロホとアスールの存在で隠れていた少女に視線が集中した。
聖人二人と王息の婚約者、その三人と同じ席に着く何の変哲もなさそうな、普通の少女。
ロホとアスールにとってはいつも通りの『片付け』が、変に目立つ結果になってしまった。
「帰りましょう」
セピアが席を立つ。
例えそこにいる人達が押し寄せたとしても、聖人が二人いる心強さはあった。
しかし、それはセピアには在れど、勇にも同じくあるとは限らない。
(それに、この人達の中に教皇派が居るかも知れない)
ブランが言っていた、教皇の話。
いつ、勇が召喚された人間だと教皇の耳に入るか分からない現状、警戒する必要性は十分にあった。
「皆は楽しめ」
アスールがセピアの緊張に感付き、金貨を一枚、鳥に食わせた。
「おぉ!!」
民衆に歓声が上がる。
アスールをよく知る人達が、口々に礼を言い指笛を鳴らす。
店と広場は輪をかけて、一気に盛り上がった。
知らない少女の事等、頭から吹き飛ぶほどに。
「今の内に行くぞ」
ロホとアスールがセピアと勇を挟み、馬車まで足早に向かう。
その間に、ロホはブランから聞いた「教皇は勇者の召喚に反対していた」事を話した。
「そうか。だから今日、昼に教皇の使いが城に来たんだな」
「やっぱり来てたの…」
「あぁ。その時ひと悶着あってな…」
「ひと悶着?…もしかして勇に会わせろとか?」
「そうだ。王息が対応していたから強行突破できるとでも思ったんだろう、大声を出してる所を見た。王が来て渋々退城したが…気を付けるに越した事はないな」
「私達が居る時は良いんだけど…」
二人はちらっとセピアと勇を見る。
「聖人一人でも、誰かを付けるべきだと進言する方が良いかしらね」
「かもな」
馬車の所まですぐそこだと思った時、四人に駆け足で近付く人影が見えた。
準備をする為、先に馬車の元へ向かったセピアの従者だった。
「お嬢様、勇様」
息を切らせ、走り寄る従者に四人は足を止める。
「どうしたの?」
「申し訳ございません…馬車が…」
従者の後ろでは、馬車預り所の従業員や所長が慌ただしく走り回っている。
「どうしたの?」
「…何者かが…全ての馬車を破壊しました」
「え?どういう事?セピア達の馬車も?…王室の馬車…よね?」
「はい。…今憲兵達が怪しい人物が居なかったか、周りも従業員も含め探しておりますが…」
王室の馬車を壊すなんて、と従者が青い顔をしていた。
「王室の馬車なら簡単には壊せないのに…」
王室の馬車は王や王息、セピアの様な婚約者や王妃を乗せる。
ちょっとやそっとで壊れては、国の存亡に関わる。
その為、高度な魔法が何重にも、聖人と聖女によってかけられていた。
本当に壊れているのかどうか、自分の目で見ないと信じられないとばかりに、ロホが馬車の方へ走って行く。
預り所の前には、馬車であったであろう木が散乱していた。
大量の木片の中で、王室のエンブレムが無残に転がっていた。




