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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
夕暮れの城下町

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22/31

2

「食べたい物とか、食べられない物とかは無い?」


セピアが鳥を呼ぶ。

代わりに注文をしてくれるらしい。


「あ、はい。…お…お任せします」


勇は少し、アスールの注文したバーガーを美味しそうに感じ気にしていた。

その視線にセピアは気付いていたのか、勇の元に同じバーガーが届いた。


「ここのおすすめよ」


セピアの手にも同じものがある。

令嬢と聖人が大口を開けて、バーガーにかぶりつく様は、勇が読んできた小説の中ではありえない事だった。


「気にしないわ。だってここは王城じゃなくて城下町ですもの」


そう言いながら頬張るセピアの口元には、令嬢らしくソースなど一滴も付いていない。

もちろん、ロホもかぶり付く。

アスールの口にはソースが飛んでいた。


「鳥の区別は…野生はセピア嬢が言った通り、人間に近付かないし人間も鳥に近付かない。それ以外に目に見えて区別が付く」


勇の視線に気が付いたアスールが、紙ナプキンで口を拭う。

しかし、取れていない。

見かねたロホが、付いている場所を指さして教えた。


「形…とかですか?」

「色だよ」


汚れた紙ナプキンを横に置くと、飛び交う鳥を指で示す。


「ここの鳥は青いんだ。他にも青い鳥は居るけど、この緑が入っている青の鳥はここにしかいない」


美しいグリーンブルーの羽を、街灯の灯りに光らせた小さな鳥は、可愛らしく羽ばたいている。

空が暗く成れば、この鳥は見えるのだろうかと、勇は考えた。


「夜間は皆、店の中さ」


アスールが勇の考えなどお見通しだと言わんばかりに、言葉を付け足す。


「人間も鳥も…あなたもね」


ロホが食べ終わると、一緒に注文していた紅い飲み物を飲んだ。

フルーツジュースではあるが、何のフルーツかは分からない。

甘い匂いが、横に座る勇に流れて来ていた。


「夜は夜で楽しまなきゃな」


アスールがビールを飲む。


「あ…」


そう言えば。と、勇が不安げな顔をした。


「どうかした?」

「お城に…戻らなくて大丈夫なんですか?」


セピアは令嬢だ。

連絡もなしに外食なんて、心配されるのではないか?と、勇はあわあわとする。


「大丈夫よ、勇さん。連絡は飛ばしてあるから」


セピアがゆっくりと紅茶を飲んでいた。


「それも…二人の聖人が側に居るからできる我儘だけど」と、笑う。


「たまには良いさ」

「そうよ、セピアは頑張っているわ」


アスールとロホがセピアを労う。

それに対して苦笑しながら「そう言ってこの前も外食しちゃったじゃない」と、セピアが笑う。


「その通りだ」


いきなり聞き覚えの無い低めの声が、セピア達のテーブルに響いた。

ぎょっとする勇は辺りを見回したが、他の三人が気まずそうな顔をしている以外、何もなかった。


「ロホ、アスール。セピア嬢をもうそろそろ返してくれ」


声のする方へ視線をやると、可愛らしい黒猫がロホとアスールの間にちょこんと座っていた。


「猫ちゃん…?」


見下ろす勇を猫は見上げると「もうそろそろ君も戻りたまえ」と、口が動いた。


「しゃべった…?」

「…そうか、君の世界には魔法が無いのだったな」


申し訳ない表情を猫が浮かべる。


「…語尾はにゃ。じゃないんだ」

「当り前だろう。私が話しているんだ」


猫の顔が、キリッとした表情になる。


「…勇さん、その猫を通して話しているのは…オール様よ」

「え…?」


勇の目が点に成り、言葉が詰まる。


「これも。魔法」


ロホは右手を頬にやり、肘を付いて猫を左手で指さした。

勇はいつの間に移動したのか、二人の間に居る猫の両脇を抱えた。

猫の脚が少し地面から浮いている。


「どっから!?どうやって!?」

「王城から…だ」


猫は必死で勇の顔を押し、離れようとしていた。


「き…君。近い…」

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