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「びっくりしたぁ…いつの間に居たのよ、あなた」
胸を押さえながらロホは、アスールに向く。
「…いつまでも笑ってんじゃないわよ。ったく、また呑みに出てたのね」
「あぁ。お前らこそ珍しいな、こんな時間に」
「こんばんは、アスールさん。私達ブランさんの所に行っていたんです」
「ご機嫌麗しゅう。セピア嬢。…ブランの所へ?何しに?」
ロホはセピアへ軽い調子で頭を下げるアスールに、呆れた顔をした。
彼は聖人の中でも特にお調子者だ。
「昨日の事でよ。あなた気になんないの?」
「邪神か?…あぁ、そこに居るのは勇者様か」
漸く気が付いた様に、ロホの陰に隠れる勇にお辞儀をすると「昨日ぶりだな」と手を差し出した。
「あ、はっ初めまして…立花勇…です」
勇は恐る恐る頭を下げ、差し出された手に触れて良い物かどうか、悩んだ。
「真面目だなぁ…」
アスールがそう言いつつ、強引に勇の手を取ると握手をした。
そして、握りしめた勇の手の甲を上に向かせると、軽くキスをする。
「ひゃあっ」
勇が小さく悲鳴を上げた。
「よろしくね。勇ちゃん」
「はっはい…」
顔を赤らめドギマギとする勇に、アスールは余裕の顔をして、ウィンクした。
「軽い…あなた。ほんと、軽いわね」
溜息と共にアスールに苦言を呈すと、ロホがアスールから勇を離した。
そのやり取りに、セピアはクスクスと笑う。
「いつもこんな感じなんですか?」
勇がロホに両肩を掴まれながら、セピアに問うと「そうよ」と答える。
アスールは皆より年上だが、威厳も何もありはしない。
軽く、皆とじゃれ合う様な性格だ。
「お前のおかげで勇ちゃんが隠れる」
「隠してるのよ。あなたから…」
勇を中心にクルクルと回る二人の姿に、周囲からも笑い声が上がる。
プリシカ王国で聖人は位が高いが、城下町の人達からすればアスールは違う。
気安く呑める友人的存在で、奢り奢られをし合う仲だ。
広場には灯りが点り、ほろ酔い気分の者達と、食事をする者達とで賑やかだった。
子供達も美味しそうに、スープやパン、色々な料理を頬張っている。
所々で笑い声が上がり、店から料理を運ぶ鳥がテーブルに降り立つ。
「鳥が…運んでる」
勇が驚くと、アスールがその内の一匹を口笛で呼んだ。
「こいつは魔法がかけられててね。注文も給仕もこなしてくれる」
鳥が咥えた紙にサッと何かを綴ると、手を挙げて飛び立出せた。
しばらくすると先程とは違う鳥が、籠を足で掴みながらアスールの元へ飛んできた。
籠には美味しそうなバーガーとビールが入っている。
「速い!」
注文から届くまでの速さに、勇が驚きの声を上げた。
「本当は紙に書いた瞬間、厨房に注文が行くんだ…けど、管理するのに必要な手間さ」
籠を受け取ると、銀色の硬貨を鳥の口へ入れる。
鳥がすぐにペッと銅貨を吐き出した。
おつりだ。
「鳥…大丈夫なんですか?」
硬貨を入れたり吐いたりする事に、勇は生き物なのに。と、不安になる。
「魔法でレジと繋がってるよ」
それに。と、アスールは鳥にかかった複数の魔法の説明をする。
衛生的にも生態的にも問題はない。と。
「でも、魔法がかかってない鳥が誤解されて同じ目に遭ったりはしないんですか?」
「あぁ。それも大丈夫」
籠を持って空いているテーブルにアスールが座ると、セピア達も同席した。
セピアもロホも、肩に鳥が乗ると紙に注文を書く。
「ここの鳥は魔法がかかってるから、人間にここまで近付くわ」
「人間も専用の鳥以外に近付いたらダメなのよ…後、ペットの子以外わね」
セピアもロホも鳥を飛ばす。
「区別って出来るんですか?」
勇は自分の所に来た鳥が、首を頻りに動かしているのを見る。
普通の鳥にしか見えなかった。
早く注文をしろ。しないのか?と言いたげな、ピッピと鳴いている鳥に、ここの言葉は通じても書く事の出来ない勇は、注文が出来ずにいた。




