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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
ブランの家

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20/25

5

「自分も勇者の子孫なのにですか?」


勇が驚いた様に声を上げる。

カップの紅茶を飲み干したブランが、クッキーに手を伸ばしながら「だからだよ」と言う。


「だからこそ。…だよ。しかも、だいぶ血は薄まっている。勇者特有の能力が教皇に受け継がれていない可能性の方が高い」

「聖女が手の内にあっても…『焦る』のね?」


ロホの言葉に「そういう事」と、言いながらクッキーを口の中に放り込んだ。


「もしかして、君に危害が及ぶ事が有ったとしたら…教皇かも知れないと自分と王は考えている」

「聖女様とは協力して戦わなきゃいけなくなるのに…ですか?」

「あぁ。もしくはノワールの手の者か…ここは良くも悪くも平等だ。…邪な奴も入りやすい」

「それが王の掲げる『世界平和』…平等ですもの」


ロホが何故か胸を張る。

それに白けた目を向けた後、ブランは勇に向く。


「呼び出しておいて無責任に思われるかもしれないが、十分身の回りは気を付けて欲しい。安全を確保するための警護も付けるが…」

「意識が有るのと無いのとでは、差があるものね」

「そうですね」

「それに、表立って教皇に警戒を見せたくない」

「教皇様は勇さんの…召喚が成功したのを知って居るの?」

「いや…しかし、今日中には耳に入るだろう」

「…もしかしたら、今頃使いが王城に来てるかもしれないわね」

「王は隠しておかないだろう。どうせバレるんだ。でも、何かしら手は打ってくれるだろう」


緊張の趣で肩を張っている勇に、ロホはケーキを一匙掬って差し出した。


「はい、あーん」


言葉に釣られて勇は口を開ける。


「大丈夫よ。勇。ソヴァール王は貴女を悪いようにはしないから」


口を閉じてモゴモゴとする勇に、ロホは微笑む。

彼女は勇を気に入ったらしい。


「そうね。王様は守ってくれるわ。もちろん私も…何も出来ないかも知れないけど」


セピアもそう言って、アダリお手製のチョコがかかったふんわりとした柔らかいマシュマロみたいな物を勇の皿にとっては置く。

ロホもブランもセピアも王を信頼しているのだと、顔で分かる。


「はい。私も…何が出来るか分かりませんが。頑張ります」


勇は両手を力いっぱい握りしめた。

真面目な話がひと段落着いたと考えたロホが、「戴冠式の時に見た横顔が、忘れられない」と、ここぞとばかりにソヴァール王のカッコ良さを熱弁し、ブランは「それは聞き飽きた」と言う顔を始終する。

そんな三人と楽しそうに過ごしているブランの姿を見て、サラは珍しい物を見ている気持ちになった。


「今日はありがとう」


セピアは帰り際、サラに礼を言う。


「いいえ、とんでもございません」


サラが深く礼を返す。


「アダリも。お茶もお菓子も美味しかったわ」

「いいえ、セピア様…あのよろしければ…」


アダリが可愛く包んだ菓子をセピアに手渡す。

勇とロホの分も中に入っていた。


「まぁ…、ありがとう。いきなり来たのに」


セピアの顔がほころぶ様子に、二人も笑顔になる。


「いいえ、またいらしてください」


そう言って、セピアと勇、ロホの姿が見えなくなるまで見送ると、鉄門は静かに閉まった。


「ブラン様の家って、執事とメイドさんの二人だけなんですかね?」


馬車を預けた所まで歩く途中、夕焼けに染まる街を眺めながら、勇がセピアに聞いた。

王城には人が多いが、ブランの家はそうでは無かった。


「サラさんとアダリだけよ」

「…もっと人が多いのかと思っていました」


人数が少ない分、緊張が速く解れたと、勇は笑う。


「私の所も一緒よ」

「そうね、ロホの所も二人だわ」


ブランの所は家自体が樹で、物も少なそうだから分かるが、ロホの所は本だらけだと言うのに、管理とかは大丈夫なのか?と、勇は心配になった。


「だって、魔法で出来るもの」


あっけらかんとロホは言う。

代わりに、魔法の使えないセピアにはメイドが多くつく。


「魔法道具もあるけれど…ね」


そこまで多くは同時に使えないと嘆く。


「そうなんですね…」


勇は自分の持つ、ブレスレットを撫でた。


「自分で使える様に成るに、越した事はないんですね」

「そうね」


セピアが勇の言葉に同意する。


「でも、使えるけれど王城に近い人数を雇っている聖人も居るわよ」

「え、どなたですか?」

「アスールよ。あの人、仕事はまあまぁするけど、生活面では…」

「そうね、アスールさんは…お酒を止める人が必要ね」


ロホとセピアが笑う。


「俺がどうしたって?」


丁度、街へ来ていたアスールが、三人の真後ろに立っていた。

ロホとセピアは驚きのあまり「ぴやっ」と変な声を出して飛び上がる。

それを見たアスールは腹を抱えて笑った。

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