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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
ブランの家

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3

16年前と言う言葉に、セピア達は驚きの声を上げた。

セピアとオール、勇が生まれた頃からずっと、月一回召喚魔法をしていると言う事になる。


「16年前って…ブラン、先代の時からって事?」

「あぁ、先代の聖人達も師匠以外は知らないけどね…」

「しかも…それって…グリ様が即位した頃って事じゃ…」


「グリ様?」と勇が首を傾げる。


「今の王様よ、ソヴァール王と呼ばれるのは王ただ一人なの。即位する前は名で呼ばれていたのよ」


セピアが答える。


「4歳までは私達はグリ様って呼んでたの」


ロホは即位する前のグリ様のカッコよさを語ろうとし始めたが、セピアに止められる。


「ロホ、その話はまた今度で」

「ハァイ…」

「とにかく、王様は王息時代に何かを掴んでいたのかも知れない。師匠から…自分に引き継がれたのは聖人の位が引き継がれた今年だ」


それでも、今年から頻度が高くなっていると言う。


「何か予兆でも?」


セピアはブランの顔を覗き見る。

ブランはいつの間にか、自分が顔を下げている事に気が付いた。


「分からない。けど…そのおかげで寝る時間が減った」


そう言って、あくびをかみ殺した。


「…あなたは寝過ぎよ」


ロホが呆れた顔をして、ブランを見る。

話が一区切りついたと見たアダリが、ケーキの他にクッキーを持ってきた。

皿の上のケーキに手が付いていないのを見て、少し肩を落とす。


「あ。話に夢中で頂いていなかったわ」


セピアがフォークを持つと、一口ぱくっと食べた。


「美味しい!美味しいわ!アダリ」


笑顔でアダリに声をかけると、勇もロホも口にしては美味しいとアダリを褒める。


「良かったです」


低い声が嬉しそうに響いた。


「お茶のお代わりもご用意いたします」


エプロン姿の屈強な男性は、そう言って踵を返した。

ケーキを褒められ照れているのか、耳はほんのり赤かった。


紅茶を飲みながら、勇がそう言えばと、話を切り出す。


「聖人の先代ってどこにいらっしゃるんですか?」


もしかしたらブランの師匠と言う先代ならば、他に知って居る事が有るのではないか。

そう考えていた。


「師匠は…無理だな」


ブランが断言すると、ロホも頷く。


「どうしてです?」

「…全ての聖人の先代は…眠っているのよ」


セピアが目を伏せた。


「ロホと自分の師匠は今年、マホンの師匠は3年前、アスールの師匠は5年前か」

「そうね」


ロホも遠い目をする。

その空気に、勇は聞いてはいけない事を聞いた気がした。


聖人は世代交代の時期が来る。

先々代の体が消滅する事で、その時期が分かるのだ。


大抵の場合、後継者が20歳を迎えた年に、聖人達は徐々に消え始める先々代の体を横に、引継ぎをする。

自分の義務と行く末をその眼で見ながら、より良い人々と国の生活を担う事を覚悟する。

そして、師匠である先代が眠るのを見届けるのだ。


「私達も後継が出来たら師匠が消えて、同じ所に眠るの」


ロホは何でもないと言う様に、勇に笑いかける。


「何で…」


勇が言葉に詰まる。

眠ると言っているが、それは安らかではあるものの明らかな『死』なのだ。


「聖人の体がその決まった場所で眠る事で、魔法が循環する」

「この世界はそうできているのよ」


ロホとブランは受け入れていた。

勇はセピアに視線を向ける。

セピアもそれを知って居るかの様に、動揺せずゆっくりと口に紅茶を含ませていた。


「勇さん。魔法が使える人と、魔法が使えない人。直接か道具を通してか…違いはあっても、聖人達の恩恵を受けながら、私達は生きているのよ」


セピアは腕輪を付けた右腕を、テーブルの上に置いた。


「じゃあ、これも?」


勇はセピアからのブレスレットを握りしめる。


「えぇ」

「そんな…」


犠牲の上で成り立つモノだと思わなかった。と、勇は震えたがそれに対してブランが口を開く。

「犠牲だとは思わないで欲しい」と。


「聖人達は皆、そうやって精霊の力を還元して逝くのを誇りに思っている。それに…」


ブランの言葉を引き継ぐように、被せる様にロホも言う。


「そう。それに…師匠達先代は歳も90近いから、天寿を全うしているだけよ」

「え?」

「この世界で90って、長生きよ。しかも、眠るんだから痛くもつらくもない」


あっけらかんとロホは勇に言う。

重苦しい空気など、勇が感じているだけでそこには無かったのだ。


「聖人は死さえも『人の為に』になるけど、安らかな死が約束されているのよ」


ふふふと、未来が明るいかの如く、ロホは笑みを浮かべた。


「ていうか、召喚魔法でこき使われるより、寝てたいよ」


そう言って、ブランが大きくあくびをした。

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