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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
ブランの家

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16/48

1

ロホが丸い形の鉄門に触れると、微かに風が吹いた。


「ようこそ。お越しくださいました。ロホ様」


鉄門から落ち着いた女性の声がした。


「どうぞお入りください」


柔らかな風と光が三人を包む。

セピアと勇は思わず目を閉じた。


風が納まると微かな花の香りが、辺りに広がった。

二人は目を開ける。

その瞬間、勇は驚愕の声を上げた。


「え!どういう事?」


目の前にあるはずの、あの大きな屋敷が無い。

その代わりに有るのは、大きな樹。

そこにはたった一つ、ハンモックが一番上の枝にかけられている。


「あの…在った屋敷は?」


周りをきょろきょろと見渡すが、自分達が通って来た鉄門の丸い部分だけが後ろにある。

後は、見渡す限り草原だった。


「門の外から見えたのは…幻影よ」


街の外とは言え、景観を合わせる為に作られた建物。

映像魔法だ。とロホは言う。


「ようこそ」


ほけーっと口を開け、呆気に取られている勇と、その横に並ぶ二人にネクタイをキッチリ締めたスーツ姿の女性がお辞儀をした。

右に束ねた長い髪は紺色で、優しい輝きを持った目も紺だった。


「こんにちは、サラさん」


セピアが軽く挨拶をする。

「お久しぶりです、セピア様」と、サラはまた深く頭を下げる。

挨拶はそこそこに。と、ロホがブランを呼んでくるように頼むと、サラはふわりと浮かび上がり、樹の上にあるハンモックの方へ飛んで行った。


「あそこにブラン様がいらっしゃるのですか?」

「そうよ、大抵あそこでブランは寝てるわ」


呆れたようにロホが言うと、樹の幹にスーッとドアが現れた。

中から左手に大きなテーブル、右手にティーセットを持った屈強な男性が出て来た。

ティーセットの中には、四人分のケーキも乗っていた。


ぎょっとしている勇の目の前に、テーブルがそっと降りると、男性はトレイからケーキやポットを下ろし、四人の席を作る。


「ありがとう、アダリ」


アダリと呼ばれた男性は、スーツ姿にエプロンと言う勇には見慣れない恰好をしていた。

がっしりとした筋肉が、服の上からでもありありと分かる。


「勇さん、この方がメイドのアダリさん。さっきの女性が執事のサラさんよ」


セピアに紹介されたアダリはぺこりと、勇に頭を下げる。

それに対して、勇も頭を下げた。


「何かありましたら、お呼びください」


アダリは低い声で簡潔に言葉を発する。

ロホとセピアは手を振るが、それに会釈を返すと、また樹の幹のドアへ去って行った。


「さ、座って待ちましょう」


セピアの声に促され、勇は席に着いた。

ロホはちらっとハンモックの方へ視線を向ける。


「そうね、苦戦してるみたい」


ふっと笑い、勇の前の席に着いた。

セピアが勇の隣に座る。

勇が何かを聞きたそうにしているのを、二人は分かっていた。


「あの樹はね、マホンさんの魔法の樹よ。中にはキッチンや収納の部屋が三室あるわ」

「マホンに言って無理やり作らせたのよ」

「樹が…本当の家って事ですか?」

「えぇ。位置は城下町の外なのは変わりないけど、あの屋敷は存在しないの。ここは許された者だけが繋がる本当の家」


ポットが勝手に、三人のカップへ紅茶を注ぎだした。


「キッチンと収納の部屋以外は?」

「サラとアダリの部屋くらいじゃないかしら?」

「ブランさんはハンモックで寝てるし…そうね」

「雨とか降ったらどうするんですか?」

「ここは…雨は降らないわ。魔法で温度も天気も管理されているの。ブランさんの…ね」


紅茶に砂糖を入れ、スプーンで混ぜながら、セピアが答えた。

魔法とはなんと便利な物か。と勇は感嘆する。

そして、毎日快適に過ごせそうだ。と、羨ましく思う。


「良いですねぇ…」

「今度私の家にも来てみる?」

「良いんですか?」

「構わないわ、でも…ここみたいな家じゃないけど」


ロホが笑う。


「ロホの家も勇さんは気に入ると思うわ」

「どんな家なんですか?」

「「本ばっかり」」


ロホとセピアの同時に放った言葉と言い方がまるっきり一緒で、勇は思わず大笑いをした。


「楽しそうだね」


ふわっと音もなくブランが着地する。

その後ろにサラも降りて来た。


「おはよう…」


ブランはあくびをする。


「で?何か用だっけ?」

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