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ロホが丸い形の鉄門に触れると、微かに風が吹いた。
「ようこそ。お越しくださいました。ロホ様」
鉄門から落ち着いた女性の声がした。
「どうぞお入りください」
柔らかな風と光が三人を包む。
セピアと勇は思わず目を閉じた。
風が納まると微かな花の香りが、辺りに広がった。
二人は目を開ける。
その瞬間、勇は驚愕の声を上げた。
「え!どういう事?」
目の前にあるはずの、あの大きな屋敷が無い。
その代わりに有るのは、大きな樹。
そこにはたった一つ、ハンモックが一番上の枝にかけられている。
「あの…在った屋敷は?」
周りをきょろきょろと見渡すが、自分達が通って来た鉄門の丸い部分だけが後ろにある。
後は、見渡す限り草原だった。
「門の外から見えたのは…幻影よ」
街の外とは言え、景観を合わせる為に作られた建物。
映像魔法だ。とロホは言う。
「ようこそ」
ほけーっと口を開け、呆気に取られている勇と、その横に並ぶ二人にネクタイをキッチリ締めたスーツ姿の女性がお辞儀をした。
右に束ねた長い髪は紺色で、優しい輝きを持った目も紺だった。
「こんにちは、サラさん」
セピアが軽く挨拶をする。
「お久しぶりです、セピア様」と、サラはまた深く頭を下げる。
挨拶はそこそこに。と、ロホがブランを呼んでくるように頼むと、サラはふわりと浮かび上がり、樹の上にあるハンモックの方へ飛んで行った。
「あそこにブラン様がいらっしゃるのですか?」
「そうよ、大抵あそこでブランは寝てるわ」
呆れたようにロホが言うと、樹の幹にスーッとドアが現れた。
中から左手に大きなテーブル、右手にティーセットを持った屈強な男性が出て来た。
ティーセットの中には、四人分のケーキも乗っていた。
ぎょっとしている勇の目の前に、テーブルがそっと降りると、男性はトレイからケーキやポットを下ろし、四人の席を作る。
「ありがとう、アダリ」
アダリと呼ばれた男性は、スーツ姿にエプロンと言う勇には見慣れない恰好をしていた。
がっしりとした筋肉が、服の上からでもありありと分かる。
「勇さん、この方がメイドのアダリさん。さっきの女性が執事のサラさんよ」
セピアに紹介されたアダリはぺこりと、勇に頭を下げる。
それに対して、勇も頭を下げた。
「何かありましたら、お呼びください」
アダリは低い声で簡潔に言葉を発する。
ロホとセピアは手を振るが、それに会釈を返すと、また樹の幹のドアへ去って行った。
「さ、座って待ちましょう」
セピアの声に促され、勇は席に着いた。
ロホはちらっとハンモックの方へ視線を向ける。
「そうね、苦戦してるみたい」
ふっと笑い、勇の前の席に着いた。
セピアが勇の隣に座る。
勇が何かを聞きたそうにしているのを、二人は分かっていた。
「あの樹はね、マホンさんの魔法の樹よ。中にはキッチンや収納の部屋が三室あるわ」
「マホンに言って無理やり作らせたのよ」
「樹が…本当の家って事ですか?」
「えぇ。位置は城下町の外なのは変わりないけど、あの屋敷は存在しないの。ここは許された者だけが繋がる本当の家」
ポットが勝手に、三人のカップへ紅茶を注ぎだした。
「キッチンと収納の部屋以外は?」
「サラとアダリの部屋くらいじゃないかしら?」
「ブランさんはハンモックで寝てるし…そうね」
「雨とか降ったらどうするんですか?」
「ここは…雨は降らないわ。魔法で温度も天気も管理されているの。ブランさんの…ね」
紅茶に砂糖を入れ、スプーンで混ぜながら、セピアが答えた。
魔法とはなんと便利な物か。と勇は感嘆する。
そして、毎日快適に過ごせそうだ。と、羨ましく思う。
「良いですねぇ…」
「今度私の家にも来てみる?」
「良いんですか?」
「構わないわ、でも…ここみたいな家じゃないけど」
ロホが笑う。
「ロホの家も勇さんは気に入ると思うわ」
「どんな家なんですか?」
「「本ばっかり」」
ロホとセピアの同時に放った言葉と言い方がまるっきり一緒で、勇は思わず大笑いをした。
「楽しそうだね」
ふわっと音もなくブランが着地する。
その後ろにサラも降りて来た。
「おはよう…」
ブランはあくびをする。
「で?何か用だっけ?」




