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室内にオールと聖女、そしてセピアだけを残し、他の者は外へ出る様命令を下すと、王はライオンの顎を撫でた。
いきなり現れた王の使いに、教会の信者はそそくさと外へ出たが、マホンは護衛の為に残ろうとした。
しかし、それを王は退けた。
「では、外で待機しております…」
肩を落とすマホンに目もくれず、気持ち良さそうにうっとりとするライオンは、大きいだけの猫の様だった。
ライオンは、額に大きな紅い石が嵌められた額飾りと首輪をしていた。
撫でられる度に、額飾りは揺れ、紅い宝石が部屋の明かりに煌めいている。
王はひとしきりライオンを撫でると、額飾りの紅い石に触れた。
赤い色の光がライオンを包む。
見る見るうちに、ライオンは金色の扉に変わり、先程の紅い石がドアノブの様に二つ並んでいる。
(さっきのは…ドアに変える魔法中って事?)
セピアは少し、王がライオンをただ愛でているだけの様に感じていた。
「…撫で繰り回してるだけじゃなかったのね」
隣の聖女も同じ考えだったらしい。
「いや、多分撫でていただけだろう」
二人の疑惑を、オールが肯定してしまう。
「…そうなのですか?」
「あぁ…父上はよくヴァンシーを撫でている」
(あの子の名前はヴァンシー…)
「…ちっ」
小さく聖女が舌打ちをした。
「盗られてないって分かって、ブランの方も調べている最中でしょうけど…もっとこう、やらなきゃいけない事は沢山あるでしょうに…焦りってもんが無いのかしら」
マホンを始めとした土魔法の魔法使い達で、壊された城壁も穢された庭の浄化もすぐに終る。
水魔法の魔法使いが居れば軽い怪我も、件のブランの検査も問題なく終えるだろう。
だが、ライオンを撫で繰り回し、自分だけがもふもふの恩恵を受けた王へ、何かしらの不満を持った聖女はブチブチと文句を言った。
王は毒づく聖女もお構いなしに、ドアノブを握り開いた。
ライオンだった扉は、どこかの空間に繋がっている様で、石畳の通路がその先に伸びていた。
奥に行くにつれて、広く明るくなっていく。
何度かの分かれ道を経て、入り組んだ迷路の中心に辿り着くと五つの扉が並んでいた。
「真ん中の扉を開けてみよ」
王は聖女にそう声をかけた。
二枚扉に付けられた取っ手に、聖女は手をかけた。
セピアはその先にも部屋があると思っていたが、開けられた先に在るのは、顔部分を布で隠された聖女シャインの体だった。
彼女は両腕を胸の前にクロスし、立った姿で花に囲まれ透明なガラスに封じられていた。
「穏やかに寝かせてやりたいが、今はこれで我慢してくれ」
ガラス越しに聖女が顔部分の布に手を当てる。
「そうね…仕方ないわ…」
聖女の目に涙が滲んだ。
「ここは…?」
オールが周りを見渡した。
後の四つの扉の先には何があるのか。と…。
「ここは聖人の眠る『聖地』だ」
王の声が、静かに白い部屋に響いた。
派手な装飾も無い、二枚扉の五つ並んだ墓所。
「四人の聖人は分かりますが…真ん中は…」
オールの言う通り、扉の周りに施された飾り彫りが、各々の属性を表していた。
真ん中だけは何も彫られていなかった。
太陽も月も、星ですら。
ただ、扉に沿って二重に線が引かれている。
シンプルな室内の中でも、際立って何もない。
「ここは本来違う者が入っていた。だが、ここが誰にも知られず一番守れるのだ。シャインの体を」
王は聖女の横に立つと、ガラス越しに布に重ねる聖女の手の横へ、自分の手を置いた。
「シャインの体には朽ちない魔法が掛かっているから、聖人達の様に消える事はない…だが、事が落ち着き次第、新たな墓所を作ろうと思う。それまで少し、我慢してくれ」
「…父上、ここに入っていた者…とは」
王はオールに振り向く。
「勇者。だよ」
王は勇者の体とシャインの体を入れ変えた。
「では…ノワールに行ったのは…」
「裏切り者の無能勇者さ」
グリ王は口角をあげて嬉しそうに言ったが、目は笑っていなかった。




