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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
王の戦略

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5

室内にオールと聖女、そしてセピアだけを残し、他の者は外へ出る様命令を下すと、王はライオンの顎を撫でた。

いきなり現れた王の使いに、教会の信者はそそくさと外へ出たが、マホンは護衛の為に残ろうとした。

しかし、それを王は退けた。


「では、外で待機しております…」


肩を落とすマホンに目もくれず、気持ち良さそうにうっとりとするライオンは、大きいだけの猫の様だった。


ライオンは、額に大きな紅い石が嵌められた額飾りと首輪をしていた。

撫でられる度に、額飾りは揺れ、紅い宝石が部屋の明かりに煌めいている。


王はひとしきりライオンを撫でると、額飾りの紅い石に触れた。

赤い色の光がライオンを包む。


見る見るうちに、ライオンは金色の扉に変わり、先程の紅い石がドアノブの様に二つ並んでいる。


(さっきのは…ドアに変える魔法中って事?)


セピアは少し、王がライオンをただ愛でているだけの様に感じていた。


「…撫で繰り回してるだけじゃなかったのね」


隣の聖女も同じ考えだったらしい。


「いや、多分撫でていただけだろう」


二人の疑惑を、オールが肯定してしまう。


「…そうなのですか?」

「あぁ…父上はよくヴァンシーを撫でている」


(あの子の名前はヴァンシー…)


「…ちっ」


小さく聖女が舌打ちをした。


「盗られてないって分かって、ブランの方も調べている最中でしょうけど…もっとこう、やらなきゃいけない事は沢山あるでしょうに…焦りってもんが無いのかしら」


マホンを始めとした土魔法の魔法使い達で、壊された城壁も穢された庭の浄化もすぐに終る。

水魔法の魔法使いが居れば軽い怪我も、件のブランの検査も問題なく終えるだろう。


だが、ライオンを撫で繰り回し、自分だけがもふもふの恩恵を受けた王へ、何かしらの不満を持った聖女はブチブチと文句を言った。


王は毒づく聖女もお構いなしに、ドアノブを握り開いた。

ライオンだった扉は、どこかの空間に繋がっている様で、石畳の通路がその先に伸びていた。


奥に行くにつれて、広く明るくなっていく。

何度かの分かれ道を経て、入り組んだ迷路の中心に辿り着くと五つの扉が並んでいた。


「真ん中の扉を開けてみよ」


王は聖女にそう声をかけた。

二枚扉に付けられた取っ手に、聖女は手をかけた。


セピアはその先にも部屋があると思っていたが、開けられた先に在るのは、顔部分を布で隠された聖女シャインの体だった。


彼女は両腕を胸の前にクロスし、立った姿で花に囲まれ透明なガラスに封じられていた。


「穏やかに寝かせてやりたいが、今はこれで我慢してくれ」


ガラス越しに聖女が顔部分の布に手を当てる。


「そうね…仕方ないわ…」


聖女の目に涙が滲んだ。


「ここは…?」


オールが周りを見渡した。

後の四つの扉の先には何があるのか。と…。


「ここは聖人の眠る『聖地』だ」


王の声が、静かに白い部屋に響いた。

派手な装飾も無い、二枚扉の五つ並んだ墓所。


「四人の聖人は分かりますが…真ん中は…」


オールの言う通り、扉の周りに施された飾り彫りが、各々の属性を表していた。

真ん中だけは何も彫られていなかった。

太陽も月も、星ですら。


ただ、扉に沿って二重に線が引かれている。

シンプルな室内の中でも、際立って何もない。


「ここは本来違う者が入っていた。だが、ここが誰にも知られず一番守れるのだ。シャインの体を」


王は聖女の横に立つと、ガラス越しに布に重ねる聖女の手の横へ、自分の手を置いた。


「シャインの体には朽ちない魔法が掛かっているから、聖人達の様に消える事はない…だが、事が落ち着き次第、新たな墓所を作ろうと思う。それまで少し、我慢してくれ」


「…父上、ここに入っていた者…とは」


王はオールに振り向く。


「勇者。だよ」


王は勇者の体とシャインの体を入れ変えた。


「では…ノワールに行ったのは…」

「裏切り者の無能勇者さ」


グリ王は口角をあげて嬉しそうに言ったが、目は笑っていなかった。

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