第252話 白亜の戦い
赤の女王達がヌーフォリアの南部に位置する村に到着すると、三名の人間がいて、その内、二名の人間は地上から上空にいるハルピュイアを魔法で攻撃しており、残りの一名の人間は子連れで逃げ遅れたハルピュイアを地上で追いかけ回していた。
白亜がその状況を目の当たりにした瞬間、脳裏にヨミ大陸での任務で体験した記憶が鮮明に蘇った。それは、同胞の天使達が正義の御旗の下でヨミ大陸の者達を粛清し、鮮血の雨を降らせている光景だった。
白亜が使徒になったばかりの時に、集団で訓練を積んでいると、あることに気付いたことがあった。それは、他者と比較して、自分には、信じる、という心の所作が著しく乏しいと感じたことであった。
白亜は、物事を判断する際の材料として、正しさの論理を最重要に位置付けていた。
感情は、目標達成への努力の燃料として必要なものであり、物事の判断基準には組み込んでいなかった。
しかし、エル大陸の、特に使徒になった者達は、感情を判断の基準としているように感じた。あるいは、判断することを止め、教義を信じることを優先しているように感じた。
信じるという言葉の意味においては多くの場合、理屈が含まれていない。しかし、白亜は理屈を必要とした。理屈があれば、判断できる。判断できれば、信じる必要がないのだ。
ヨミ大陸の者達を粛清することについて、白亜は理屈を求めた。他者の発言を注意深く聴き、新旧の図書を読み漁り、ヨミ大陸の生物を観察して絵を描いて理解に努めた。だが、一向に四本脚の生き物を卑下する理屈が見当たらなかった。
使徒として、教義に反し、天使の在り方に深刻な疑念を抱いていることを自覚したまま、熾天使にまで登りきった。白亜は、その代償をいつか払わなくてはならない日がくることを予見していた。
そんな中で、使徒達が、老若男女を問わず、ヨミ大陸の者達を虐殺している光景を何度も目の当たりにし、白亜は先延ばしにしていた疑問に結論をつけた。
脚の数の違いは、生命の尊さに影響を及ぼすものではないと。
それでは、何故、自分はヨミ大陸の者達と戦をしているのか、という命題に白亜は直面した。
答えの出ぬまま熾天使として任務に就いた後、黄泉の命を誇らしげに屠る同胞の姿を見て、虐殺を止めるように何度も命令を下した。しかし、無視され続けた。ある日、使徒が小さな子どもを手にかけようとしているのを見て、燻っていた火が一気に爆発した。その結果、同胞殺しに至ったのであった。
その結果、白亜は、信仰の厚い天使から軽蔑され、中傷され、否定された。
それに対し、白亜はそういった者達の言動と真摯に向き合い、エル大陸における常識と戦うことを決意した。自分に言葉を投げかけてくる者達に命の等価値について論理的な言葉で反論した。
同胞殺しに関する査問会では、停戦を命じた部下の命令不遵守を堂々と主張し、天使の本来あるべき高潔さを訴えた。脚の数、種族、土地、社会体制、外観、そういった属性で一括りにしてしまうことによって、偏見を助長し、真理が遠く離れていくことを説いた。
その結果、白亜はエル大陸中央議会、オリジニスより、ドラーゲンドルフの魔王単騎討伐を命じられたのであった。




