表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dear World  作者: 山波 孝麻
第2章 赤の女王と漆黒の魔女
149/253

第149話 自慢の息子

「可能性はゼロなのか?俺の息子は二度と自分の足で立つことが出来ないのか?成功する可能性がわずかでもいい。選ぶことの出来る選択肢は無いのか?」


「選択肢がゼロとは言っていない。しかし、(わし)は医師として、医学的に根拠(こんきょ)(とぼ)しい選択肢を簡単に提示(ていじ)するわけにはいかん。」


何故(なぜ)だ?」


「お前さんが、(わし)の語る夢物語にとり()つかれ、息子をほったらかしにしてしまいそうで怖いからだ。お前さんと、お前さんの家族の人生の大半を浪費(ろうひ)させてしまうわけにはいかん。」


武津薙(たけつち)怒気(どき)を含んで言った。


「どういった選択肢を選ぶかは俺が決めることだ。では聞くが、正解なんてものがあるのか?俺がどういった行動に出ることが正しいのか、あんたはそれを理論的に評価することが出来るのか?可能性の(とぼ)しい選択肢があるとして、あんたが俺にそれを教えないことが、本当に正しいことなのか?」


「お前さんの気持ちは分かる。しかし、肝心(かんじん)なのは」


武津薙(たけつち)椅子(いす)から立ち上がり、ステラの言葉を(さえぎ)って、怒号(どごう)を上げた。


「俺の気持ちが分かるだと?ふざけるな。あんたに子どもはいるのか?」


ステラは武津薙(たけつち)を見上げ、表情の欠いた顔で静かに言った。


「おらん。」


武津薙(たけつち)は歯を食いしばったまま、(のど)の奥から(うな)り声を上げるように低い声で言った。


「だったら、俺の、気持ちが、分かるわけ、ないだろう。」



 ステラは長い()め息をついた。眉間(みけん)(しわ)()かれ、反対に目の下の(しわ)幾分(いくぶん)か深くなった。息を(はら)から()いたことによって、彼の体は少しばかり(ちぢ)みさえした。


「一人息子がおった。十一年前の戦争に従事(じゅうじ)して死んでしもうた。だから、もうおらん。」


それを聞いた武津薙(たけつち)絶句(ぜっく)した。彼の(りき)んでいた顔の筋肉は一瞬で弛緩(しかん)した。


(わし)と同じ医師だった。(わし)と違って立派な医師だった。自慢(じまん)の息子だ。息子はこの国を愛していた。真理を探究する情熱的風土(ふうど)、全ての子どもに(ひと)しく与えられる十分な教育、自然と学問と魔法が()りなす社会。徴兵制(ちょうへいせい)だったが、息子は決して行けと命じられて戦争に行ったわけではない。この国のために、次代(じだい)(にな)う子ども達の未来のために、自分の意志で戦争に(のぞ)んだ。だが、命を落とし、遺骨(いこつ)さえ戻っては来んかった。(わし)は息子に、何一つしてやれることは無かった。」


武津薙(たけつち)の目は(またた)く間に(うる)んだ。彼はしばらく両手で頭を(かか)え、椅子(いす)に座り直した。真夜中の砂漠のように二人は押し(だま)った。


武津薙(たけつち)(あらた)めてステラの全身を見た。


その二本の腕で何度も息子を()き上げたことだろう。

その二本の足で何度も息子のために走ったことだろう。

その一対(いっつい)の目で息子の笑顔を眺め、その一対(いっつい)の耳で息子の笑い声を聞いたのだろう。


しかし、その(いと)しい息子はもういないのだ。


武津薙(たけつち)(ふる)える声でステラに言った。


「済まない。本当に、申し訳ない。」


ステラは首を横に振って言った。


「いいんだ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ