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Dear World  作者: 山波 孝麻
第2章 赤の女王と漆黒の魔女
150/253

第150話 メレリンクアティスの魔道書

「外に出て話そう。」


武津薙(たけつち)はステラに言われるまま診療室(しんりょうしつ)を出た。


 二人が部屋から出てくるのを見て、赤の女王は椅子(いす)から立ち上がった。彼は、武津薙(たけつち)の目が真っ赤になっているのを確認し、神妙(しんみょう)な顔付きになった。


ステラは武津薙(たけつち)に赤の女王との関係を(たず)ねた。武津薙(たけつち)は、旅の途中で出会ったとても強い戦士だと答えた。赤の女王は、自分は戦士ではなく、旅人だと訂正した。ステラは白い前掛けを(はず)し、赤の女王も(さそ)って三人で救護院(きゅうごいん)を出た。



 メレリンクアティスにはヘクター河が流れていて、都市の中心部付近に大きな中洲(なかす)があった。そこに、救護院(きゅうごいん)を含め、アルテミス城や行政府もあった。ステラ達は街路樹(がいろじゅ)等間隔(とうかんかく)で植えられている河沿(かわぞ)いを歩いた。


赤の女王はステラの後姿(うしろすがた)を見た。気迫(きはく)ある顔とは裏腹に、彼の丸みを()びた背中は必要以上に小さく見えた。年齢と共に重くなっていく記憶が彼の肩と腰を(きし)ませているかのようであった。


綺麗(きれい)な街だろう?」


ステラは顔を前に向けたまま、後ろを歩く二人に言った。


煉瓦(れんが)で造る建築物には高度な技術が使われておる。職人が研究を重ね、冬は暖かく、夏は涼しく、耐震性に(すぐ)れた質の良い煉瓦(れんが)を作った。寸法や積み方も多様にあり、煉瓦(れんが)を焼く(かま)にも深い伝統が宿(やど)っておる。魔法も同じだ。この国には、記載された通りにやれば、誰でも魔法を習得できるように作成されている魔道書がある。重要なのは手順だ。魔道書に記された手順を遵守(じゅんしゅ)して、修練を積まなくてはならん。ルールは破るためにある、と言う者がおるが、それは間違いだ。皆がルールを守る。そうした中でこそ、誰かがさらによりよい手順を導き出すことができる。そして魔道書は改善され、ヒトが扱う魔法も向上する。ルールを軽視(けいし)する者が真の問題点を理解することはない。つまり、ルールの神髄(しんずい)は、進歩することにあるのだ。この国の魔法や文化はそのようにして一歩ずつ前進し、地盤(じばん)(かた)め、次世代へと受け継がれてきた。」


ステラは川辺に行き、設置されたベンチにゆっくりと腰を下ろした。赤の女王と武津薙(たけつち)もステラに(なら)った。


「魔法の習得にはもう一つ重要なものがある。想像力だ。魔法そのもの、魔法がもたらす効果、(おのれ)が魔法を扱う姿、そういった蓋然性(がいぜんせい)を想像するんだ。そして、時として、魔力を(ともな)った想像力は体に変化をもたらすことがある。例えば、自分が筋肉質な肉体を有している姿を想像することで、実際に筋肉がついてくるといった(ふう)に。」


「そのようにして神経を回復させることも出来るのか?」


武津薙(たけつち)が口を(はさ)んだ。ステラは(てのひら)武津薙(たけつち)に向け、(あわ)てるなと合図した。


「筋肉と神経は成り立ちが違う。輪郭(りんかく)のはっきりした願望に強大な魔力をのせて神経の回復を想像しても、回復するか分からん。だが、可能性はある。ここは救護院(きゅうごいん)ではない。前掛けも(はず)した。(わし)は医師としてではなく、一人の人間としてお前さん達と話していることを忘れんでくれ。」


河の水面(みなも)に魚がちゃぽんという音を立てて顔を出した。赤の女王は、ステラがお前さん達、と表現したことに注意を払った。このままステラの話を聴き続けることにより、何かしらの責任が生じることを意味していた。その責任を背負い込みたくなければ、このまま席を立ち、話を聴かなければいい。


しかし、赤の女王は話を聴く選択をした。

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