第148話 医師ステラ
再び救護院を訪れると、受付の椅子には初老の男性が腰かけていた。白髪交じりの髪は灰色に見え、顔には深い皺が走っていた。贅肉は付いておらず痩せ細っていたが、鋭く精悍な目をしていた。首から掛けて、腰で結ぶ白い前掛けを着用していた。
男は、ステラ、と名乗った。診療室に来るように二人に言ったが、赤の女王は辞退した。部屋に入った武津薙はステラと向き合うかたちで椅子に座り、大和の下半身が麻痺した経緯を丁寧に説明した。
武津薙は、これまでに何人もの医師に息子の容態を説明してきた。医師達は、いずれも、顔色一つ変えずに武津薙の話を聴いた。そして、治療法は無いとたんたんと説明した。武津薙には、医師達のそういった無味乾燥な態度が、感情移入しないために努めてそうしているのか、他人事だからなのか、分からなかった。
しかし、ステラは違った。武津薙の話を聴いて、眉間の皺をさらに深くし、目を剥いた。ただ、武津薙が話し終えてステラが言ったのは他の医師と同じ内容であった。
「当人がここにいないため、正確な診断はできん。正直に言って、話だけでは診断をしたくない。だが、当人の状況を鑑みると、そうは言っておれん。だから、言わせてもらうが、おそらく、神経が損傷しておる。そして、残念だが、神経を回復させる医療技術はない。どの様な施術も、どの様な魔法も。これは儂の見解だ。世界を巡ると、あるいは、治療できる者がいるかもしれん。しかし、いないかもしれん。少なくとも儂は知らん。」
ステラは眉間に皺を寄せたままそう言った。武津薙はひどく落胆した。彼は言った。
「ここは魔法の国だ。治療魔法はないのか?」
「治療の助けとなる魔法ならある。中には体に直接作用させて、傷を回復させる魔法もある。儂も使える。しかし、滅多に使わん。特定の箇所に魔法をかけると、その箇所の回復は促進されるが、その際に周りの細胞から養分を吸収するため、周辺組織を壊死させてしまう恐れがあるからだ。それに、不自然に速い速度で細胞を分裂させるため、分子の複製に失敗し、組織が癌化してしまう可能性もある。これらのデメリットに見合う以上のメリットがある場合に限り、治療に魔法を使う。それにだ。治療に使用する魔法は体に本来備わっている回復機能を増進させるものだ。元々有していない生体反応を発現させるものではない。そんな魔法があるのなら、この世界から死が消える。」




