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Dear World  作者: 山波 孝麻
第2章 赤の女王と漆黒の魔女
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第146話 漆黒の魔女

 昨日、エゾクロテンから杓文字(しゃもじ)を取り上げて、元の場所に戻しておいた。今朝(けさ)貝扇(かいせん)が食事の用意をしていたので、その時にはあったはずだ。


蓮華(れんげ)は首を(かし)げ、杓文字(しゃもじ)を探しに自分の部屋へ行った。(ふすま)を開けると、エゾクロテンが仰向(あおむ)けになって、いつものように杓文字(しゃもじ)をがしがしと()んでいた。


蓮華(れんげ)に気付いたエゾクロテンは杓文字(しゃもじ)を離し、後ろ足で立ち上がって、蓮華(れんげ)をそっと見つめた。


「何やっているの、君。」


エゾクロテンはぴたりと静止して、蓮華(れんげ)を見つめ続けた。


「野生に帰らないの?」


エゾクロテンは少し頭を(かたむ)けた。蓮華(れんげ)の言っている意味が分からない様子だった。蓮華(れんげ)は正座して、エゾクロテンの両脇を(かか)えて(ひざ)の上に乗せた。


「ひょっとして、私の元に戻って来てくれたの?」


ぎゃう、とエゾクロテンは鳴いた。


「いい?これからも私と一緒にいるとなると、それは魔法使いのお供になるってことなんだよ。それがどういう意味か分かる?」


エゾクロテンは再び首を(かたむ)けて、ぎゃうぎゃうと鳴いた。


「それはね、ええと。第一に魔力を(あつか)えるようにならないといけない。それが可能になると頭が良くなるし、比較的長く若さを保っていられて、長生きも出来る。第二に文字を覚えないといけない。魔法使いのお供なんだから、色んな本を読んで知識を()めないと。最後に、どれでもいいから魔法を一つ覚えないといけない。これだけは誰にも負けないっていう魔法を。魔法使いのお供になると、この三つの目標に向かって努力しないといけないよ。私が思うにだけどね。」


エゾクロテンはぎゃうと鳴いた。蓮華(れんげ)はエゾクロテンの頭を優しく()でた。


「本当にこれからもずっと、私のそばに居てくれるの?」


エゾクロテンはこくこくと首を縦に振った。


「いいんだね。じゃあ、まず君に名前を付けないと。君は杓文字(しゃもじ)が好きだから、しゃもじにしよう。」


しゃもじは少し目を細めて、()ややかな目線を蓮華(れんげ)に向けた。蓮華(れんげ)は両手でしゃもじの前足をそれぞれ(にぎ)って、宣言した。


神庭嶺(かんばね)蓮華(れんげ)はエゾクロテンのしゃもじを魔法使いのお供、スカルピナニマにします。」


しゃもじは元気よく鳴いた。


「きゃう。」



 蓮華(れんげ)杓文字(しゃもじ)を手に取り、しゃもじを()っこして、炊事場(すいじば)へ戻った。(とこ)()では、すでに貝扇(かいせん)伎倆(ぎりょう)も腰を下ろしていた。三人の僧は蓮華(れんげ)の胸に丸く収まっているしゃもじをじっと見た。


蓮華(れんげ)はしゃもじを床にそっと下ろして、皆に紹介した。


「この子、戻ってきてくれました。だから、この子を私のお供にします。名前はしゃもじです。」


三人の僧は一瞬ぽかんとした後、どっと笑い声を上げた。

声を張り上げて、大きな声で腹から笑った。

体を揺らして長いこと笑い続けた。

いつも表情を(くず)さない操舵(そうだ)でさえ、破顔(はがん)して大口(おおくち)を開けて笑った。


三人の僧につられて、蓮華(れんげ)も、笑った。




 蓮華(れんげ)はしゃもじと共に正彩寺(しょうさいじ)で修練を積み、寺を出た後はパンゲア大陸を巡った。その後、黄泉平坂(よもつひらさか)からヨミ大陸へと渡り、スメラギ国を()て、アカガミ国へと(おもむ)き、旅を続けた。


魔法使いなのに(つえ)を持たず、剣を(あつか)蓮華(れんげ)は多くのヒトの目を引いた。卓越(たくえつ)した剣技と強大な火と風の魔法を融合させた蓮華(れんげ)の圧倒的な戦闘力は各地で話題となった。


黒衣(こくい)羽織(はお)る姿から、蓮華(れんげ)は、漆黒(しっこく)の魔女と呼ばれるようになった。

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