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Dear World  作者: 山波 孝麻
第2章 赤の女王と漆黒の魔女
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第139話 風の魔法 狂飆

 さらに、再び大きな太鼓(たいこ)のような音が響いた。その音が皆をひどく(あせ)らせたのは、それまでとは異なる北東の方角から聞こえてきたからであった。後方支援隊は戦々恐々(せんせんきょうきょう)となり、そのような状態で敵の第一陣が戦士団と衝突(しょうとつ)した。


敵は両手に短刀を一本ずつ持っていた。蓮華(れんげ)が見たところ、その太刀捌(たちさば)きは非常に洗練(せんれん)されていた。ヨミ大陸の者達は野蛮(やばん)で、戦略は無く、本能に従って突進してくると蓮華(れんげ)は聞かされていた。実際には、兵は組織的に訓練を受け、情報を正確に収集し、作戦は緻密(ちみつ)()られていた。


「北は戦士団に任せ、南と東に二分して対処(たいしょ)する」


メレリンクアティスの隊長が再び叫んだ。蓮華(れんげ)は東側の敵に(そな)え魔力を込めた。しかし、黒い玉が飛んでくる気配はなかった。蓮華(れんげ)はおそらく音だけ鳴らして混乱を(さそ)ったのだろうと思い南側に顔を向けると、多くの魔法使いがすでに倒れていた。


その光景に激昂(げきこう)した蓮華(れんげ)は声を張り上げ、(つえ)を振りかぶり鬼火(おにび)を南側の敵に連射した。魔法が直撃した敵は燃え上がった。近くにいた三人の敵が蓮華(れんげ)に向き直り、とてつもない速度で(せま)って来た。


蓮華(れんげ)(おく)することなく鬼火(おにび)を放ち、三人の前方で鬼火(おにび)の中に(ひそ)ませた風の魔法、風魔(ふうま)を発動させ、周囲に火炎を放射させた。敵の二人が熱風を浴びて(うずくま)ったが、一人は手練(てだ)れの戦士だった。


その者は蓮華(れんげ)が風の魔法を発動させる前に、鬼火(おにび)の異変に気付いて前方に()んで空中でくるりと回転し、蓮華(れんげ)の風と火の魔法を背中に浴びた。その勢いを利用し、蓮華(れんげ)の目前まで接近した。蓮華(れんげ)が敵の姿を間近で確認すると、敵は黒色の(かわ)の服を身に(まと)っていた。その服の背中側には、何かの生物の(うろこ)がびっしりと()め付けられていた。滑空(かっくう)に用いた(まく)も、蓮華(れんげ)の火の魔法を背中に浴びて無事だったのも、この服によるものであった。


蓮華(れんげ)(つえ)に火の魔力を()めたが、敵の右手に持った短刀によって(つえ)をすっぱりと切り落とされてしまった。()めた魔力が手から離れたものの、蓮華(れんげ)躊躇(ちゅうちょ)なく手に残った(つえ)()を敵の胸に突き立てた。


敵はよろめきつつ、左手に持った短刀で、蓮華(れんげ)(はら)を下から上向きに切り付けた。蓮華(れんげ)は叫び声を上げた。切り口は浅かったが、切り付けられたこと、その瞬間はどの程度の傷を負ったのか分からなかったこと、これらが恐怖となって蓮華(れんげ)の精神を極限にまで逼迫(ひっぱく)させた。


(つえ)を突き刺され、なおも蓮華(れんげ)に向かってくる敵に、蓮華(れんげ)狼狽(ろうばい)し、両手で火の魔力を()り、大きな鬼火(おにび)を敵に向け発動させた。それにより、敵は燃えながら吹き飛んだが、蓮華(れんげ)もまた勢い(あま)って後方に吹き飛び、背中から地面に倒れた。


蓮華(れんげ)の両腕から、まるでぷすぷすと音がするかのように煙が上がった。蓮華(れんげ)はなんとか上半身を起こし(あた)りを見回した。戦士団はほぼ壊滅状態にあり、生き残った魔法使いは敵に追い込まれ、魔法を発動する間がなく、ただ(つえ)を振り回すばかりであった。


残った敵が横たわる蓮華(れんげ)に向かっていった。蓮華(れんげ)は上半身を沈めて空を眺め、戦場とはかけ離れた(ゆる)やかな時間の流れの中で、母の言葉を思い出した。


立派(りっぱ)な魔法使いになるんだよ。」


「お母ちゃん。立派(りっぱ)って、どんな魔法使いのことを言うんだろう。誰にも負けないこと?誰かを守ること?後悔(こうかい)しないこと?色んな人に尊敬されること?それとも、何だろうね。」


敵の足音が蓮華(れんげ)に近づいていた。蓮華(れんげ)は全身でありったけの風の魔力を()り上げ、風の魔法、狂飆(きょうひょう)を発動させた。味方も巻き()えになるが、全滅は(まぬが)れない状況では仕方が無かった。


蓮華(れんげ)を中心に地面から突き上げるような強大な暴風が巻き起こった。まるで周辺の大地が(めく)れ上がるかのように、敵も味方も草木も土壌(どじょう)も全てが上空に舞い上がった。蓮華(れんげ)身体(からだ)もまた気流に乗って宙に浮き、そのまま西の方角へと飛翔し、戦線(せんせん)離脱(りだつ)した。

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