表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dear World  作者: 山波 孝麻
第2章 赤の女王と漆黒の魔女
135/253

第135話 背中に感じる母の温もり

 都市国家メレリンクアティスは屋根が赤く、壁が薄茶色の煉瓦(れんが)造りの建物と、緑の美しい七竈(ななかまど)()りなす街並みを(てい)している。至る所に花壇(かだん)が設置されており、色鮮(いろあざ)やかなフキザクラが栽植(さいしょく)されている。


メレリンクアティスはパンゲア大陸を統一した獅子王(ししおう)に才能を見出された魔女アルテミスの一軒家があった場所の近くに、魔女狩りから逃れてきた魔法使いが住みつき、大きくなった街である。人々の気持ちを明るくするために、アルテミスが青色、淡紅色(たんこうしょく)、紫色、白色のフキザクラを植えて回り、街を彩色した。


さらに、メレリンクアティスでは多様な動物が街の中を闊歩(かっぽ)している。魔法使いが魔法を発動する時、集中して魔力を()らなければならず、その間、無防備(むぼうび)になりやすい。そこで、アルテミスは敵の意識を分断させるため黒豹(くろひょう)をお(とも)に連れていた。メレリンクアティスにおいて、魔法使いのお(とも)はスカルピナニマと呼ばれた。


スカルピナニマは音や匂いで外敵を感知する役目も有していた。他の魔法使いもアルテミスを真似(まね)て、お(とも)を連れ歩く習慣が出来た。猫、(ふくろう)、カラス、猿が多く、中には小型の竜を連れている者もいた。



 メレリンクアティスで最も重視されているのが教育である。それは厳格なカリキュラムに従って行われる。全ての児童が五歳から(りょう)に入り、十七人を一クラスとして、読み書き、計算、運動の訓練を始め、七歳から化学、生物、歴史を中心に学問を体系的に学ぶ。また、森に入り動物、植物、鉱物を見て、触れ、名前と利用方法を覚える。


そして、十歳から人体の詳細を理解する。臓器(ぞうき)の機能、骨や筋肉の役割、五感のメカニズム、代謝物質(たいしゃぶっしつ)の体に及ぼす影響を頭に(たた)き込む。魔道書を読み始めるのもこの頃からとなる。


一連の教育で、最も重視されるのが、規律(きりつ)である。あらゆる分野で、想像を巡らせ、考察力を(やしな)い、他者と異なる発想を持つことは大事にされるが、その一方で、自身の考えはどうあれ、ルールを遵守(じゅんしゅ)することが絶対とされる。


やらなければならないことをやる。やってはいけないことをやらない。駄目(だめ)なものは駄目(だめ)だと教えられる。この方針は、魔道書の訓練において最も重要となってくる。


魔道書とは、個々の魔法を習得するための必要な操作が記載されている文書である。魔法ごとに一冊の魔道書が用意されており、それぞれに固有の文書番号が付番(ふばん)され、版管理(はんかんり)される。内容に変更の必要性が生じた時は、変更審議会(へんこうしんぎかい)開催(かいさい)され、変更が承認(しょうにん)された場合に限り、その魔道書が改訂(かいてい)され、(はん)が一つ繰り上げられる。変更の内容は、いつ、誰が、どの箇所(かしょ)を、何から何に変更したのか変更履歴(へんこうりれき)詳細(しょうさい)に残される。


魔道書が改訂(かいてい)された場合、その魔道書の文書番号が都市中に連絡され、権限のある者のみ、改訂(かいてい)された魔道書を閲覧(えつらん)できる。魔道書には、その魔法を習得するために必要な知識や、身体の動かし方、ノウハウが記されている。重要なのは、誰が読んでも、その通りにすると、その魔法が習得できるように記載されている点にある。


従って、魔道書とは、魔法を身に付けるための手順書なのである。決められたことを、決められた通りに、確実に実施し、結果を確認しなければならない。そのために、規律を徹底して遵守(じゅんしゅ)する姿勢が重視されるのである。



 蓮華(れんげ)は他の児童(じどう)と同じく、五歳で(りょう)に入った。父は蓮華(れんげ)が産まれる前に病死した。蓮華(れんげ)は母のことが大好きだったが、(りょう)に入る時は、訓練できることが(うれ)しくて、あまり(さび)しさを感じなかった。


しかし、訓練のない休日は必ず母の元に帰り、たっぷりと甘えた。蓮華(れんげ)の母は、座っている蓮華(れんげ)の背後から蓮華(れんげ)を抱きしめ、蓮華(れんげ)の頭に自分の(あご)を乗せる態勢をとることが好きだった。この態勢で蓮華(れんげ)の母はいつも娘に言った。


蓮華(れんげ)、立派な魔法使いになるんだよ。でも、一番大事なのは、蓮華(れんげ)が幸せになることだからね。」


蓮華(れんげ)は頭を後ろに回し、母を見て、満面の笑顔でいつもこう答えた。


「お母ちゃん、大好き。」


蓮華(れんげ)にとって、背中に感じる母の(ぬく)もり程、安心できるものはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ