第120話 たたりもっけと餓者髑髏
その日の夜、夜空に天の川が輝く中で、シヴァは王邸の屋根の上で寝転びながらナッツをポリポリと音を立てて齧っていた。
「ここにいたんだね。」
「タタラ。」
「ミディアムの一件から、ずっと何かを考え込んでいるようだね。どうしたの?」
「ん?ああ。」
タタラもシヴァの隣で寝転んで満天の空を見上げた。星の一つ一つが命を輝かせているかのような愛おしさを感じさせる光を放っていた。それは、現実世界に存在しえないと思える程の神秘さだった。
「ミディアムのカボチャ畑でさ、私は死んだだろ?実はさ、あの時、私は本当に死ぬと思ったんだ。肉体の死なのか、魂の滅亡なのか、判断出来ない状況だった。私が考え込んでいるのは、魂の滅亡であるかもしれなかった時に、恐怖や、後悔や、忌避感が全く無かったからだ。つまり、私は満ち足りていたのさ。考えてみたら、当然だ。だって、長い間、彷徨って、念願の身体を手に入れて、食事をするという夢を叶えることが出来たから。いつの間にか、私はいつ滅んでも良いという境地に達していたんだ。」
タタラはシヴァの言葉に少し傷付いて、何も言わず、天の川の星々を見つめ続けた。シヴァはタタラをちらりと見て、また空を見上げた。
「そんな顔すんな。結果的に、私はスメラギ国の大魔法使いが暴発させた究極の魔法でも死なない位に頑丈だってことが分かったんだからよ。これからも、滅ばねぇよ。つまり、私は幸せだって話だ。タタラのおかげだ。ありがとう。」
タタラはようやく口を開いた。
「うん。」
「タタラも私も、あとどれだけ生きていくことになるんだろうな。百年か、千年か、一万年か、あるいは未来永劫存在するのか。」
「そうだね。そして、出会ったヒト達はその間にみんな死んでいく。産まれて、育って、人生を謳歌して、僕達よりも早く死んでいく。そのヒト達の子どもも、その子どもも、そのまた子どもも、みんな。」
「ああ。」
「寂しいね。それが僕らの宿命だ。」
「ああ。」
「でも、シヴァがいる。」
「タタラは私に身体をくれた。でも、それだけじゃない。新たな名前もだ。シヴァ・マドリーナ。」
「もしかして、僕は途方もない孤独を怖れて、君のことを名前で縛っちゃったのかな?」
「仮に、それが事実だとしても私は構わないさ。タタラだって、私だって、誰だって、孤独は嫌いだ。それに、孤独はヒトを邪悪にする。」
「ありがとう。」
タタラは茶々丸のことを想った。分福丸のことを想った。真珠丸のことを想った。玉藻前のことを想った。芭蕉やテンマやツバキやルルのことを想った。ピアや蒼白陽、ライデンやサザンや連翹のことを想った。嫌だ、みんな死んで欲しくないと想った。
「そうだ。赤の女王だ。赤の女王は旅をするから、古代人の話を聴いて来てもらおうかな。」
「おお。あの1万3000年生きてるって連中か。長生きのための精神の秘訣を教えてもらえるかもな。」
「そうだね。」
タタラはシヴァの眼を見た。
「シヴァ、これからもよろしくね。」
シヴァは顔を赤くして、照れながら言った。
「お、おう。こちらこそな。」
「僕達は長生きする。だから、他のみんなに優しくしてあげようね。」
天の川はタタラとシヴァを見守るかのように淡い光でキラキラと煌めいていた。
ミディアムを飛び立ったダークスターとダークスパイラルは太陽から逃げるように西へと向かい、闇夜の中、上空を速い速度で移動した。各地にある暗い洞窟で休息をとりつつ、長い時間を飛行し、やがて、大自然が広がる中でぽつんと建てられた大きな屋敷の広いバルコニーへと降りた。
ダークスターはクワァと鳴き、ダークスパイラルはチョロチョロと舌を出した。
「遅いじゃないか。予定より、一日遅れだ。どれだけ心配したと思っているのだ?」
その人物はダークスターとダークスパイラルを順番にぎゅっと抱き締めた。
「お前達がいなくなると、私は生きていけなくなるのだ。分かっているだろう?危ないことはするな。」
「クワァァァ。」
「シャァァ。」
「なんだ。また、スメラギ国の連中と戦闘になったのか。いっそのこと滅ぼしてやろうか、あの国。」
「クワッ。」
「うん?取り引きしたのか?誰と?」
「クワッ、クワァ。」
「マドリーナ王国のタタラ・マドリーナ?誰だ?」
「シャアァァァァ。」
「超常の存在?くわしくは屋敷の中で聴こう。」
ダークスターはのそのそと歩き、ダークスパイラルはぷかぷかと浮いて屋敷に入った。
「閻魔ドルトラ、古代人クロノスに続いて、超常の存在か。たったこの数十年で時代がよく動くものだ。」
第1章 たたりもっけと餓者髑髏 終わり
Dear World 第1章をお読みになって下さった皆様、本当にありがとうございました。
タタラや茶々丸達の冒険はこれからも続いていきますが、マドリーナ王国を中心とした物語は、一旦、終了となります。
引き続き、第2章をよろしくお願いいたします。




