エピローグ
その日、校舎内の別の場所で同じ叫びが駆け巡った。
「「ちょっと、現地視察って、夏期休暇前にどうしてエルバート殿下が戦線離脱しちゃうのよー!」」
***
エミリアは興奮冷めやらぬまま捲し立てた。
「こんな大事な時期にいなくなっちゃうなんて、どうしてなの!」
「なになになになに」
それに絡まれるフィオナは溜まったものではない。少し引きながらも、何とか話を聞こうとエミリアに尋ねる。
「大事な時期って?」
「これから魔球技大会があるのよ!」
それはカメリア学園の魔法と球技を組み合わせた大会であった。ここに来て申し訳程度の魔法要素が出てくるのねとフィオナは苦笑する。
「その魔球技大会があるから、どうなの?」
「重要なイベントなの!」
エミリアは目を血走らせ、フィオナの肩をつかんだ。
「この魔球技大会の結果で、夏期休暇中のお出かけイベントに選べる相手が決まるのよ!」
「お出かけイベントぉ?」
***
「不参加でルーク様。決勝戦にかすらなければハロルド様かジョシュア様。準優勝でサイラス様かコーネリアス様。優勝がエルバート様なのに!」
それぞれの順位により夏期休暇の夏祭りに一緒にお出かけできる相手が決まるのだ。キャロルはもちろんこれを利用して夏祭りを攻略対象者と過ごすつもりでいた。
「それなのに、どうしてエルバート殿下がいなくなっちゃうの!?」
まさかの展開にサイラスとの約束も忘れて教室で1人怒り狂っていた。彼女の烈火の如き怒りにクラスメートはすでに全員退散していた。
「これもフィオナ・ニコラ・ボイルの仕業なの!?」
***
「別にエルバート殿下がいなくてもいいじゃない。夏祭りも殿下と出かけるつもりはないし」
フィオナが「なんだそんなこと」と笑えば、エミリアはその肩を大きく揺すった。
「なにを!悠長な!ことを!殿下がいなくなったら、他の攻略対象がどの順位だったらお出かけを一緒にできるかも、変わってくるかもしれないじゃない!」
「え?」
「サイラス様と、一緒にお出かけできる可能性がぐっと減るのよ!」
「えええええ!?」
ちなみに半分本気で半分嘘である。
エミリアとしてはもうエルバートとフィオナでくっついてエンドを迎えてほしいので、好感度がかなり上がるこの夏祭りイベントは狙い目だったのである。
***
エミリアも、キャロルも、この不満をどこにぶつければ良いのであろうか。初めての一大イベントが、まさかのメインヒーロー不在の事態となってしまった。
それどころか、これから卒業まで帰ってこない可能性もあるだなんて卒倒ものの事態だ。
「「どうしてこうなったのー!!」」
2人の悲痛の叫びが響いたのであった。