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EP 7

虚構の毒と、揺るがぬ狂信バグ

「さあ、見せてみろ。神すら誑かすお前のメッキが、無惨に剥がれ落ちる瞬間を!」

ルナミス帝国、内務省データセンター。

オルウェルは、血走った目でエンターキーを叩き割るほどの勢いで押し込んだ。

瞬間。ポポロ村の広場に設置されていた緊急用の魔導スピーカーが、帝国のハッキングによって強制起動した。

ジジッ……ピーーーッ!

耳障りなハウリング音に続き、村中に「その声」が響き渡った。

『――あいつら、本当に馬鹿だよな。ちょっと美味い飯を食わせて、優しくしてやるだけで、俺の言うことを何でも聞く奴隷になるんだから』

それは、紛れもないソウマの声だった。

『神様も魔王もチョロいもんだ。適当にオダててオタク趣味に付き合ってやれば、最強の番犬の出来上がりさ。……俺はこの村の連中から極限まで搾取して、いずれは世界を手に入れるんだよ。ははははっ!』

「……えっ?」

畑でトマトの支柱を立てていた僕は、あまりのことに持っていた麻紐を取り落とした。

なんだあの声。僕の声にそっくりだけど、言っている内容が三流の悪役テンプレすぎる。

世界を手に入れる? 搾取する? いやいや、僕はただ「みんなで美味しい芋煮を食べて、平和にスローライフを送りたい」だけなんだけど!?

「ちょ、ちょっと待って! 違うよみんな、今の僕の声じゃない! 帝国が作った偽物ディープフェイクだ!」

僕は慌てて周囲の村人たちを振り返った。

教祖の本音(?)が暴露されたカルト村。

普通なら、ここで「騙していたのか!」「信じていたのに!」とパニックが起き、僕への暴行が始まるはずだ。

監視カメラの向こうで、オルウェルもそれを期待して嗤っていることだろう。

だが。

「「「…………」」」

村人たちは、スピーカーから流れる「僕の暴言」を最後まで静かに聞き終えた後。

無表情のまま、手にしていたクワやカマを、ゆっくりと握り直した。

「……ソウマ先生」

代表して、駐留兵のリバロンが前に出た。彼の顔には、怒りも悲しみもない。ただ、底冷えするほどの「静かな殺意」だけが張り付いていた。

「あ、あのねリバロンさん! 本当に違うんだ、僕はみんなを奴隷だなんて……」

「わかっております。……あんなデジタルで合成された、温かみのない無機質な音声。先生の『血の通ったお言葉』と間違えるほど、私たちは愚かではありません」

「えっ……」

「それに」

リバロンの後ろで、村人たちが深く、狂信的なまでに澄んだ瞳で頷き合った。

「仮に……仮に先生が、私たちのことを『使い捨ての奴隷』だと思っていたとして。……それが、何か問題でも?」

「は……?」

今度は僕がフリーズした。

「私たちは、偽札で殺し合おうとしていたクズです。それを先生が、血を吐きながら救ってくださった。……先生の奴隷になれるなら、それは私たちにとって至上の喜び。帝国の連中ごときに、私たちの『神聖なる隷属』を侮辱される筋合いはない!!」

「「「帝国を、肥料にしろォォォォッ!!」」」

(ヒィィィィィィッ!!)

怖い。怖すぎる。

僕の焦りなど完全に置き去りにして、村人たちの「狂気」は、帝国の離間工作を『自分たちの信仰への冒涜』と変換し、圧倒的な団結力へと昇華させてしまったのだ。

『ば、馬鹿な……っ!?』

帝都のデータセンターで、オルウェルが悲鳴を上げる声が、ハッキングされたスピーカーから微かに漏れ聞こえた。

『自己を否定されて、なぜ怒らない!? なぜ服従を選ぶ!? お前たちは人間ではないのか……ッ!』

オルウェルの信じる『論理ロジック』が、完全に崩壊した瞬間だった。

だが、帝国の不幸はこれだけでは終わらない。

ドゴォォォォォンッ!!

突然、ポポロ村の集会所の屋根が内側から吹き飛んだ。

「……っるさいわねえええええええッ!!」

「ええい! ボリュームを下げろ下等生物どもォォォッ!!」

舞い上がる土煙の中から現れたのは、ジャージ姿の女神ルチアナと、ドレス姿の魔王ラスティアだった。

二人とも、目は血走り、全身から世界を滅ぼすレベルの神気と魔力を大爆発させている。

「さっきから通信制限で動画がカクカクしてイライラしてたのに! 月人君のバラードの! 一番いいサビのところで! なんでソウマの偽造音声ノイズなんて大音量で流すのよぉぉぉッ!」

「殺す! 我の『推し活』を邪魔する者は、帝国であろうと塵一つ残さずブラック・ホールに飲み込んでくれるわぁぁぁッ!」

怒りのベクトルが完全にズレているが、世界のトップ2が、ルナミス帝国に向けて本気の殺意を向けたのである。

「ルチアナ、ラスティア。……横入りしないで」

――バチバチバチッ!!

空気が、焦げた。

紫色の強烈な雷光が、広場の中央から立ち上る。

「……キャ、キャルルさん?」

振り返った僕の目に映ったのは、普段のラフな格好ではなく、かつてレオンハート獣人王国の近衛騎士隊長候補として身につけていた「戦闘装束」を纏った、ヤンデレ雷神キャルルの姿だった。

しかも今日は、運が悪いことに。

白昼だが、空にはうっすらと「満月」が浮かんでいる。

「ソウマの声を勝手に作って、ソウマを悪者にした。……絶対に、生かしてはおかない」

キャルルの瞳のハイライトが完全に消え去り、漆黒の殺意だけが渦巻いている。

両手のダブルトンファーから放たれる紫電が、周囲の小石を無重力のように宙に浮かせた。

「ガオガオン。……お散歩の時間だよ。ルチアナたちも、Wi-Fiの元栓サーバーぶっ壊しに行くなら乗せてってあげる」

『――了解ピロリン。マスター(ソウマ)の敵対勢力を確認。殲滅・除草作業プロセスに移行します。ゴロゴロゴロゴロ……ッ!』

天界の最終兵器・聖獣機神ガオガオンが、巨大な口からプラズマのよだれを垂らしながら咆哮を上げた。

「ソウマ。ちょっとだけ、ゴミ掃除してくる。……夜ご飯の『芋シチュー』ができるまでには帰るから」

キャルルは僕に向かって、血も凍るような美しい笑みを浮かべた。

「えっ、ちょ、待っ……!」

ドガァァァァァァァンッ!!

僕が制止するよりも早く。

満月の力によって【マッハ1】の速度限界を突破した雷神の月兎が、黄金の巨大メカライオンを先導し、その背中にブチギレた神と魔王を乗せて、帝都へ向けて弾丸のように発射された。

モニター越しにその光景を見ていたオルウェルは、白目を剥いて泡を吹き、その場で気絶した。

理に落ちたデジタルの毒は、理外の狂気アナログに油を注いだだけだった。

最強の物理キャルル・ガオガオンと最強の理不尽ルチアナ・ラスティアによる、帝国への致死性の報復が、今、始まったのである。

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