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EP 8

推し活の恨みと、崩壊する防衛線

「……きょ、局長! オルウェル局長! お気を確かに!」

ルナミス帝国首都、内務省データセンター。

部下の悲痛な叫び声と、頬を張られる痛みに、情報統括局長オルウェルはハッと意識を取り戻した。

「……っ! 私は……」

「緊急事態です! ポポロ村の方向から、未確認の脅威が帝都へ向けて超高速で接近中! 接近速度、マッハ1.2を突破! さらに、対象から放たれる魔力反応……け、計測不可能です! 帝国の観測計器が次々とショートしています!」

「な……なんだと!?」

オルウェルが跳ね起き、メインモニターを見上げる。

そこには、帝都の「魔導防衛レーダー」を真っ赤に染め上げながら、一直線にこちらへ向かってくる強大な熱源が映し出されていた。

「あり得ない……。軍事行動の兆候など一切なかったはずだ。第一、あの村には飛行船も魔導機もない! いったい何が飛んできているというのだ!」

オルウェルが怒鳴った瞬間、映像モニターの一つが、接近する『それ』をズームで捉えた。

『――退きなさいよ! 動画のロード時間が長くなるのは、全部この国の電波塔サーバーのせいよ!』

『我が闇の力で、帝都の通信網ごとブラック・ホールに叩き込んでやる! 月人君の尊い顔にブロックノイズをかけた罪は万死に値する!!』

「……は?」

モニターに映っていたのは、ジャージ姿とドレス姿の二人の女が、巨大な黄金のメカライオン(ガオガオン)の背中に立ち、狂ったように神気と闇魔法を乱れ撃っている姿だった。

そしてその先頭では、ウサギの耳を生やした少女キャルルが、紫電を纏いながらマッハの速度で空中を蹴り進んでいる。

「か、神と魔王……!? なぜ、あいつらが直接攻めてくる!? 洗脳されて腑抜けになったのではなかったのか!?」

「局長! 対象の攻撃目的が判明しました! 傍受した音声データによりますと……『推しの高画質動画を見るためにWi-Fiの元栓をぶっ壊す』とのことです!」

「推し……? わいふぁい……? なんだその暗号は!? 意味がわからん!!」

オルウェルは頭を抱え、絶叫した。

彼が仕掛けた完璧な情報・経済封鎖ソーシャル・クアランティンは、ポポロ村の村人たちには「信仰への試練」としてノーダメージだったばかりか、神と魔王にとっては「ただの通信制限(嫌がらせ)」として最悪の逆鱗に触れてしまったのだ。

「迎撃だ! 帝都の魔導防衛システムをフル稼働させろ! 対空魔砲、全門斉射! 魔導長距離自爆ドローンをすべて射出しろ!!」

オルウェルの絶望的な指令により、帝都の防衛網が火を噴いた。

無数の魔砲の光条が空を切り裂き、何千機もの自爆ドローンが蜂の群れのように『四人の脅威』へと襲いかかる。

近代国家ルナミスが誇る、最高峰の物理・魔導迎撃システム。

だが。

「邪魔よぉぉぉぉッ!」

ルチアナが適当に手を振っただけで、神気の大嵐が巻き起こり、何千機もの自爆ドローンが接触する前にチリとなって消滅した。

「遅い。我が魔法のほうが、通信速度より速いわ!」

ラスティアが指を鳴らすと、帝都から放たれた対空魔砲のレーザーがすべて、空中に現れたブラック・ホールに吸い込まれ、虚無へと消え去った。

「ば、馬鹿な……! 帝国の誇る防衛火網が、ただの『八つ当たり』で……ッ」

オルウェルの顔面から血の気が引く。

さらに、ガオガオンが咆哮を上げた。

『――障害物(防衛兵器)の大量発生を確認。マスター(ソウマ)の指示に則り、これより広域除草作業プラズマ・バーナーを実行します。ゴロゴロゴロ……』

ガオガオンの背中に搭載された連装魔導砲が展開される。

だが、それは破壊の光ではなく、ソウマによって極限までメンテナンスされ、畑の雑草を焼くための「超高効率プラズマ農具」へとチューニングされたものだった。

ブォォォォォォォンッ!!

ガオガオンの放つプラズマの波が帝都上空を撫でると、帝国軍の飛竜騎士部隊や魔導戦闘機が「雑草」と判定され、命を奪われることなく武装や装甲だけを綺麗に焼き払われ、次々と墜落していく。

完全なる無力化。

「ヒィィィィッ! バケモノだ……! あんなもの、軍事学のどこにも載っていない!」

「局長! 対象が帝都の『絶対防衛フィールド(魔導障壁)』に到達します! さすがにあの障壁なら、神の攻撃でも数時間は耐え……」

オペレーターの言葉が終わるよりも早く。

「――ソウマの日常スローライフを壊す奴は」

先頭を飛んでいたキャルルが、空中でピタリと静止した。

満月の光を背に受け、彼女のウサギの耳がピンと立つ。

彼女の足元、特注の靴に仕込まれた『雷竜石』が臨界点を突破し、周囲の空間が紫色のプラズマで満たされた。

「全員、顎の骨ごと砕け散れ」

『超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)』

マッハ1の初速から、さらに空気を蹴って加速。

一億ボルトの紫電と、キャルルの異常な闘気を一点に集中させた「最強の飛び蹴り」が、ルナミス帝国の絶対防衛フィールドに突き刺さった。

パァァァァァァンッ!!

ガラス細工が粉々になるような、呆気ない音。

数万の魔導師が力を合わせ、核攻撃すら防ぐと豪語されていた帝国の絶対障壁が、たった一人のヤンデレ少女の「蹴り」によって、文字通り粉砕された。

「ああ……ああぁぁ……」

オルウェルのモノクルにひびが入る。

情報、経済、そして武力。

彼が信奉してきた『合理的なシステムの力』が、ソウマという男が生み出した「狂信とオタ活のキメラ」の前に、何一つ通用せずに蹂躙されていく。

「局長! 対象がデータセンターの上空に到達! このままではサーバーが……!」

『ええい、ソウマの偽音声を流した機械はどこだ! 徹底的に破壊してやる!』

『ついでにWi-Fiのルーターも最新式に交換させるわよ!』

天井越しに、神と魔王の怒号が響く。

「……終わりだ。帝国の、敗北だ……」

オルウェルが絶望の淵で膝から崩れ落ちた、その瞬間。

ズンッ!!

データセンターの重厚な防爆扉が開き、マントを翻した男が足音も荒く踏み込んできた。

近衛騎士団「アイアン・レギオン」総長、キュロス。

その後ろには、アイロンの利いたスーツ姿の男――ルナミス帝国皇帝マルクスが、冷徹な瞳で天井を見上げながら立っていた。

「見苦しいぞ、オルウェル。小細工が通じる相手ではないと、あれほど言ったはずだ」

皇帝マルクスの低い声が、パニックに陥ったデータセンターに静かに響き渡った。

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